九百七十一話 ある男爵領からの手紙
辺境伯領の新しい町づくりと王都の衛星都市建設計画は、当初の計画よりも順調に進んでいます。
辺境伯領では、夏には一部住民が住み始める予定だそうです。
何もないところから町を作っているとはいえ、領都から馬車で一時間くらいで着く距離です。
更に近くの村の畑の拡張も終わったので、作物の栽培も始まっています。
他のスラム街を形成している領地でも、拡張工事や新たな都市計画が進んでいます。
辺境伯領や衛星都市計画で得たノウハウを、希望するところには教えています。
王国各地が活況に湧く中、ちょっと問題のあるお願いが出てきました。
「ふむふむ、普請を無料でやってくれ。財政が火の車で手が出ない。中々面白い内容が書かれているのう」
こんな内容の手紙が、ケイマン男爵家経由で内務部局宛に届きました。
差出人はある男爵家で、ヘイリーさんの実家であるケイマン男爵家に接するところだそうです。
しかし、この男爵家は面倒くさいところでした。
「本来なら周辺領地を統括するサギー伯爵家の庇護下に入るところなのですが、代々他の貴族の指図は受けないと半ば独立した状態にあります。というのも、実は王国創立以来の古い歴史を持っているためらしいです」
「財政状況を調べたのですが、さして主要産業もないため確かに火の車のようです。国に納める税金を猶予されている状況です」
役人があれこれ報告するけど、ある意味凄いところから手紙が来たと陛下も閣僚もかなり呆れていました。
そして、その領地がこの手紙を出したのにはある理由がありました。
「ケイマン男爵領を冒険者が無料で開墾したのに、なぜ我が領地を無料で開墾しないのか意味がわからないと記してあります。ただ、ケイマン男爵領で行った農地拡張には、きちんとした報酬が払われております」
「うむ、この話は余もアレクから聞いておる。そもそも、ケイマン男爵家の開墾はきちんと計画書が出されたものだ。きちんと申請するのなら、国から補助金も出すのだがな」
実は、この開墾作業は主にドラちゃんとミカエルたちが魔法の勉強のついでに行っていました。
子どもだからってただ働きをしている訳でもないし、ドラちゃんにも報酬の代わりに美味しいお肉を沢山あげています。
それに、ヘイリーさんやブライトさんたちも勉強の為にと手伝っていたけど、もちろん冒険者として報酬は払っています。
何だか、全くお話にならないところですね。
「正確な計画書の作成と予算見積もりを出すようにと、相手側に返信するように」
「はっ」
陛下も、これだけ面倒くさい貴族の相手はやりたくないのだろう。
というか、計画書も何もないので相手にすることすらできません。
ということで、この件はさっさと流して次の議案を話すことになりました。
というのが、ルルーさんとクラヴィーアさんの出産前にありました。
そして、何と一ヶ月後に男爵領から返答が返ってきました。
「えっと、計画の策定は国もしくは他の領地から派遣したものによって策定されるべき。と、記載されております」
「税の猶予に係る調査を行うことになっておりますので、ちょうどこの後この男爵領に行く予定となっております」
「はあ、王国の端に位置しているから、自分勝手な行動をしているのだろう。まずは税務調査を先に行う」
最初の手紙から無礼な内容だったけど、またしても無礼な内容だった。
ほぼ孤立しているはずなのに、王国創設以来の歴史しかない貴族ってどこもプライドが高いなあ。
前にも似たようなことがあったよね。
「以前のことがあるから、アレクだけでなくジンも同行するように」
「あの、アレクはともかくとしてまだ貴族になって日が浅い俺がその男爵家に行くのは余計な刺激になりませんか?」
「だから行かせるのだよ。日が浅いが相手は自分よりも爵位が上だ。どんな反応を示すのか、確認するように」
久々に面倒くさい貴族の相手をすることになるとは。
ジンさんも、嫌な表情を見せていますが僕だって嫌ですよ。
でも、お仕事だから行かないと駄目ですね。
「ああ、余からも返信を書こう。『統治不能の場合は、領地と爵位の取り上げになる。王国創設以来の貴族でも例外ではない。納税猶予の状況が長らく続いていることを憂いている』こんな感じでいいだろう」
うわあ、ちょっとキツイ内容が書いてあるけど、至極当然なんだよなあ。
税金が納められない状況が続いているから、国としては何をしているんだと言えるだろう。
ということで、日程調整して現地に向かうことになりました。
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