九百四十話 辺境伯領での年末の炊き出し

 年の瀬になった今日は、辺境伯領の教会で町の人に炊き出しと無料治療をします。

 無事に年を越せますように、という配慮です。

 王都でも大教会前で同じことがしているそうで、こちらは王家や有力な貴族が音頭をとっています。

 もちろん僕たちも辺境伯領の炊き出しを手伝っているけど、今日は年末ってのもあるのでちょっと豪勢な炊き出しにするそうです。

 どんな炊き出しにするかは、僕が実演することになりました。


「えっと、お肉を切って炒めたらワインを入れてフランベにします」


 ボゥ!


「で、このお肉を炊き出しの鍋に投入します」

「すげー! フライパンから火が出たぞ」

「ワインまで使った料理かよ」

「アレクが料理しているから、説得力あるな」


 顔見知りの冒険者が僕の料理風景を見て興奮しているので、列に並んでいる人も否応なしに期待が高まっています。

 ちなみに、並ぶ人が多いので冒険者に奉仕活動の手伝いの依頼が出ています。

 報酬に僕とスラちゃんが作った料理もあるって書いてあったらしく、沢山の冒険者が集まっていました。

 人手が多いのはとても助かるし、何よりも辺境伯領の冒険者は皆いい人でとても強いです。

 こういう事業にも積極的で、とっても助かります。

 そして、こういう人もやって来るので、臨機応変に対応します。


「あの、その、食料を恵んで頂けますか? もう、何日もまともに食べていなくて……」

「おなかすいたよー」

「あら、それは大変ですわ。話を聞くので、どうぞこちらへ」


 この母子は、旦那さんが事故で亡くなって収入が途絶えたという。

 年末の炊き出しには困窮した人も来るので、孤児院などで保護できる体制を取っています。

 誰もが、安心して新しい年を迎えたいですよね。


「ブルル」

「あっ、この人は悪人だよ!」

「よっしゃー、任せておけ!」

「な、何で分かった?」


 そして、相変わらずスリとかもいるので、ポニさんたちが大活躍しています。

 今日は治療の手も沢山あるので、ミカエルもブッチーに乗って冒険者とともに巡回していますね。

 こうして、みんなも張り切りながら順調に炊き出しは進んで行きました。


「グルル」

「わーい、ありがとー」


 ドラちゃんもみんなと一緒に炊き出しのスープを配っているけど、相変わらず子どもたちに大人気です。

 というか、ドラちゃんのところは全部子どもが並んでいますね。

 風邪気味の人もいるので、治療もてんやわんやです。

 それでも、お昼過ぎには全ての炊き出しと治療が終わりました。

 保護が必要な人も、全員シスターさんに孤児院に案内されました。

 ここで、人に合わせて必要な対応がされていきます。


 ジュー、ジュー。


「うわっ、うめーな。これだけでも、仕事した甲斐があったぞ」

「というか、スープもクソうめーな。こんなものを配っていたのか」

「アレク君は、本当に料理が上手ね」

「「「おいしーいよ!」」」


 切れ端のお肉とかも、焼いて炊き出しを手伝ってくれた人たちに配ります。

 リズやミカエルたちも、女性冒険者と一緒に炊き出しの余りを食べていました。

 僕もジンさんも、もちろんスラちゃんもようやくひと息つきました。


「みんな、本当にありがとうね。おかげで、良い年を迎えられそうよ」

「奥様、このくらいは任せてくれよ」

「そうだな、辺境伯領は年々良くなっていくしな」

「俺らにとっても、住みやすくて良い町だ」


 イザベラ様の言葉に、冒険者たちも声をあげていました。

 辺境伯領は人も増えて産業も豊かになったので、税収もとても良いです。

 国境を接する帝国との交易も盛んなので、国境の町もどんどんと発展しています。

 でも、このままだと人が住むスペースが無くなるので、年明けに新たな作戦を行うことになりました。

 いずれにせよ、来年はもっと楽しい辺境伯領になりそうですね。

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