八百九十二話 事件の真相その二

 そして、謎の婚姻申請書の事件から数日後、デンバー子爵の初期の聴取結果が宰相から伝えられた。

 宰相に宰相執務室の会議室に案内されて、他の人がいない状態で話を聞きました。


「どうも宰相執務室主導の事業対応で捕まったと奴は思っていて、アレク君を恨んでいた様だ。しかも、アレク君はホーエンハイム辺境伯の血縁関係にあるものだと勘違いしていて、姉と思っていた双子の婚姻を潰して恥をかかせようと思っていたらしい」

「そんな事で、エマさんとオリビアさんの婚姻を潰そうとしたなんて。僕に直接文句なりを言えばいいのに……」

「奴の頭では、そこまで考えられなかったみたいだのう」


 何というか、真相は聞いて呆れるものだった。

 確かに最初にあったのは新事業選定の時だったし、二回目に捕まったのも各部署の意見を聞くためにいった時だった。

 でも、最初の時に反論したのは宰相だし、二回目もカーセント公爵を殴ったんだよね。


「しかも、自分は只の平職員なのに子どもが各事業のトップをしているのが許せなかったらしい。自分自身に能力がなかったのを棚に上げて、一体何を言っているのかと思う」

「うーん、僕も一応官僚試験に合格しているし、あの人は試験に何回も落っこちていますよね。やっぱり、劣等感もあったのでしょう」

「自分の実力はこんなものじゃないと、勝手に思っていたのだろう。他に捕まった三人も同じ傾向だったな」


 他の部署でもその人が力を発揮できるようにとかなり配慮をしていたはず、商務部署にいた際もそうだった。

 それなのに、多くの人が指導しても自分のやり方を変えなかったのが失敗の始まりだよね。

 そして、更に呆れる事が判明しました。


「例のベンド伯爵とギデオンは学園時代の同級生だったと判明しているが、どうも当時ギデオンが学級委員をしていたのが許せなかったらしい。病弱な癖して何故学級委員なのかと何度も詰め寄って、しまいには懲罰として屋敷待機まで命じられたそうだ。拘留されている間にその事を思い出して、ギデオンに復讐しようと思ったそうだ」

「完全に逆恨みですね。学園を卒業しても、ずっとその事を思っていたなんて」

「奴はしつこい上に過去の失敗体験を引きずる傾向にあるそうだ。そして、成功体験が殆どないので、何をしても見下されたと勘違いしてる。因みに、奴はギデオンが死んでいる事は知らなかったようだ」


 う、うーん。

 何というか、本当に酷いとしか言いようがない。

 僕についてもギデオンさんについても、結局は逆恨みからきているなんて。

 そして、非常に軽率な行動を取って、結果大事件を引き起こしている。

 そういう人間なんだって、割り切る必要がありそうです。


「どっちにしろ、奴は複数の事件を引き起こしているから当主交代の上貴族籍剥奪、そして強制労働刑は免れないだろう。貴族としてのプライドが高いから、貴族籍剥奪だけでもかなりの影響は出そうだな」

「蔑んでいた平民と同格になりますから。罰金もかなりの金額になりますよね?」

「アレク君もそうだけど、事件に関連している貴族が多いからな。特に、一方的に婚姻破棄などを記載された、ホーエンハイム辺境伯家、サギー伯爵家、ベンド伯爵家には、多額の賠償を支払わらなければならない」


 完全な自爆だけど、迷惑を被った人たちにはキッチリと賠償して貰わないと。

 実際に関係者に話を聞いたりと、色々手間をかけさせたのは間違いないのだし。

 話はこれで終わり、僕たちは宰相執務室の自分の机に戻りました。

 すると、シーラさんを中心にワイワイと盛り上がっている女性陣の姿がありました。


「この貴族家の次男なんて良いんじゃないかな? 誠実だって噂だったよ」

「やっぱり、結婚するなら誠実な人が良いですよね」

「ベンド伯爵家は長閑だけど農業収入で裕福な領地ですから、お金の問題は大丈夫ですね」


 何と、ノーラさんにどんな婿が良いのかで盛り上がっていました。

 しかも、後でベンド伯爵にこんな人がいるって情報を送るそうです。

 女性は、幾つになっても恋話が好きですね。


「頼むから、変なものだけは紹介するなよ。それこそ、今回の事件の二の舞になる」

「それは大丈夫だよ。どんな人か、ばっちりと調査してから話をするよ」


 宰相の注意に、シーラさんが当たり前だと反論していた。

 そして、またもやワイワイと盛り上がっていました。

 宰相執務室の職員はみんな優秀なので、もちろん仕事を終えてから話をしています。

 僕と宰相は、女性陣に巻き込まれない様に、普通に仕事を始めました。

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