八百十三話 ドクターとの再会
その後もどんどんと屋敷の奥に進んでいき、遂にサギー男爵の執務室の前に到着した。
ガチャガチャ。
「ぐっ、内側から鍵をかけている」
僕は執務室のドアを開けようとしたけど、全くびくともしなかった。
どうしようと思ったら、すっとドアの前に巨大なハンマーを手にしたスラちゃんの姿が。
「スラちゃんがドアをぶち破るって。お兄ちゃん、ドアから離れて」
ここはスラちゃんに任せようと思い、僕はドアから離れました。
すると、スラちゃんが勢いよくハンマーを振りかぶりました。
ブオン、ドキャン!
スラちゃんはハンマーを勢いよく振り下ろし、鍵がかかっていたドアをこじ開けました。
刹那、開いたドアから勢いよく兵が執務室の中に雪崩れ込んでいきます。
僕達も執務室の中に入ると、背の高くて痩せている顔色の悪そうな貴族当主っぽい男性がおり、その男性の横には白衣を着た男性が僕達にニヤリと気味悪い笑みを見せていた。
あっ、あの白衣を着た男性ってもしかして。
「「「まさか、ドクター!」」」
「おやおや、これはこれは皆さまお揃いで。お久しぶりにございます」
僕だけでなく、ティナおばあさまとリズもドクターを見て思わず叫んでしまった。
一方で、ドクターは僕達に恭しく一礼をしていた。
シュッ。
ブオン、ガキン!
「おっと、ティナ様とあろうものがいきなり切りかかるとは。はしたないですよ」
「あなたには、人を殺された痛みなどわからないでしょうね。夫を殺された事は、未だに昨日のように思うわよ」
ティナおばあさまは、宿敵であるドクターに一気に切りかかった。
しかしドクターもさることながら、懐から短刀を取り出してティナおばあさまの斬撃を防いでいた。
「少し距離を取らせて頂きますよ」
ボン!
ドクターは、胸元から黒い玉を取り出して床に投げつけた。
すると、煙みたいなものが執務室の中に充満した。
「ぐっ、逃げる気か!」
「私もとても忙しいので、これで失礼します。ふふ、近々お会いできるかと」
シューン。
ドクターは、またもや僕達に一礼しつつ転移魔法で姿を消した。
執務室の煙が晴れると、悔しそうな表情をしているティナおばあさまの姿があった。
この間、執務室に入って三十秒も経っていなかった。
しかし、ドクターのいう近々お会いできるって、一体どういう事だろうか。
「は、ははは。わ、儂の金が全部消えた……」
そして、執務室にもう一人いた背の高い男性が、絶望の表情をしながら床にぺたりと座り込んでいた。
鑑定するとサギー男爵と出てきたけど、何だか壊れちゃっている気がする。
話を聞く限り、ドクターに全てのお金を持っていかれたみたいです。
「サギー男爵、おいサギー男爵!」
「あは、あはははは……」
「駄目だこりゃ、完全に精神がいっちゃってるぞ」
先々代夫人がサギー男爵の肩を揺すりながら話をするけど、全く話ができません。
リズが回復魔法をかけても全く効果がなかったので、スラちゃんに眠らせて貰いました。
サギー男爵を直ぐにゲートで王城に運んでから、改めて屋敷の中を捜索します。
「辺境伯様、もしかしたらサギー男爵は闇ギルドにお金儲けの指南を受けて、結果全て持っていかれた可能性がありますね」
「というか、恐らくそうだろう。金儲けをさせて目の前に大金を出させて、サギー男爵が喜んでいるうちに全て持っていかれたのだろうな」
執務室には金目の物が全くなく、スラちゃんもふるふると否定していた。
闇ギルドとの繋がりを示す書類は残っているかもしれないけど、ドクターはサギー男爵領から撤退を決めているからどうでも良いだろう。
「うーん、闇ギルドへの対応が難しくなったので、今度は住民への対応をどうにかしないとなりませんね」
「そうだな。物資支援も含めて、対応しないとならない。資金がない以上、バザール伯爵家の時よりも厳しい対応になるぞ」
ここからは、屋敷と領都の掌握をすると共に飢えている住民への対応も必要です。
僕は執務室の応接セットに座り、通信用魔導具を使って各所に連絡を行いました。
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