七百六十三話 不審な商人?

 こんないつものやり取りをしながら仕事をしていたら、ブランデー子爵領で捜査を続けていたカミラさんから通信用魔導具に連絡があった。

 直ぐに来てくれって事なので、リズ達と一緒に現地に向かいます。


「ふむ、緊急事態か。私も行こうか?」

「ちょっと待って下さい。レイナさんから『お父様は普通に仕事をして下さい』って来ましたよ」

「そ、そうか。そうか……」


 娘にブランデー子爵領に来ることを拒絶されて、宰相は思わず項垂れちゃいました。

 レイナさん的には、心配しなくて大丈夫って意味だと思うけど。


「アレク殿下、こっちは気にせずに行ってきな。この人は、あたしが復活させておくよ」

「では、私はアレク殿下について行きます」


 シーラさんが胸を叩いて任せてくれと言ったので、ここはお任せしてローリーさんも加わって現地に向かいます。


「ジンさん、お待たせしました」

「いやいや、アレクも忙しいのに悪かったな」


 ブランデー子爵邸に向かうと、ジンさんが僕たちを出迎えてくれました。

 そのまま応接室に向かうと、レイナさん達にスラちゃんもいます。

 ムーアさんがいないということは、ブランデー子爵家に関わる事ではなさそうです。


「すまんな、集まって貰って。実はな、街で聞き込みをしていたら、妙な話を聞いたんだ」

「妙な話、ですか?」

「ああ、布で覆面をした商人の話だ」


 布を使った覆面をしただけでも、かなり怪しいのですけど。

 なんじゃコリャって感じです。


「前にもあったが、妙な薬を売っている商人の可能性が高い。現に商人から元気が出る薬を買って、興奮状態になった者もいる」

「闇組織が薬を売っている可能性が高いので、その商人は非常に怪しいですね」

「俺はそいつをクロだと思っている。闇組織に入っているかはともかくとして、何かしらの犯罪組織に入っている可能性が高い」


 うーん、これは思ったよりも話が大きくなってきた。

 という事で、専門家に話を聞いてもらいましょう。

 ブランデー子爵邸から王城にゲートを繋いで、みんなで移動します。


「直ぐに信頼できる貴族に周知しよう。何か情報を得る事ができるかもしれん」

「王都も巡回を強化します。怪しい商人の情報を集めましょう」


 陛下と軍務卿の決断は早かった。

 疑念のある貴族へ伝えると、闇組織へ情報が漏れる心配がある。


「しかし、よくこんな情報を聞き出せたな」

「たまたま昼食に寄った食堂で、昼間から酔っ払った商人と相席になったんです。面白そうだから話を聞いていたら、ペラペラと色々と喋っていたんですよ。因みに、スラちゃんチェックもクリアしています」

「昼間から酒を飲むとは、中々な商人だな。しかし、酒の力は恐ろしいのう」


 ジンさん達は、本当にたまたま情報を手にしたんだ。

 スラちゃんチェックもクリアしたとなれば、その情報の信用度も高そうです。

 と、ここで話が別の方向にずれてしまいました。


「はあ、昼間から酒か。余も早くルーカスに王位を継承して、そんな生活をしてみたいものよ」

「そうですな。私も昼間から酒を飲むことはまずないので、とても羨ましい限りです」


 個人的には、お酒を飲むと悪酔いする陛下にはお酒を飲んで貰いたくないです。

 話はこれで終わり、ジンさん達は聞き込みの続きに戻りました。

 因みに陛下のぼやきはエレノア経由で王妃様にもたらされ、陛下が王妃様にめちゃくちゃ怒られたそうです。

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