七百四十四話 新人冒険者講習実技編

 休憩を挟んで、新人冒険者講習の受講者は冒険者ギルド内にある訓練場に向かいます。

 そして、僕たちはギルドマスターに呼び止められました。


「おい、アレクに喧嘩を売った馬鹿がいるんだって? お願いだから、死人は勘弁してくれよ」

「ギルドマスター、僕だってそんな事はしないですよ。ちょっと、痛い目にあって貰うだけです」


 ザワザワザワ。


 冒険者ギルド内にいた冒険者が、僕とギルドマスターの話を聞いてざわめいています。

 だ、だから、僕も手加減をするつもりだよ。


「ジン、アレクに喧嘩を売った馬鹿がいるって本当なのか?」

「ああ、座学中ずっとアレクを睨みつけていたよ。しかもそいつ、ウキウキしながら訓練場に向かったぞ」

「まじかよ。自ら死刑執行されに行くようなものじゃないか」


 あの、だから僕は手加減して終わらすつもりだよ。

 絶対に大怪我はさせないよ。


「あのツルツル頭に何かあっても、リズの魔法なら一発で治せるよ」

「そうねえ、馬鹿につける薬はないけど、怪我は治さないとね」


 リズにおばちゃん、だから僕は大怪我をさせるつもりはないですよ。

 結局みんな盛り上がっちゃって、集団で訓練場に行く事になっちゃいました。

 はあ、みんなお祭好きだもんなあ。

 何故かサンディとイヨだけでなくミカエルやスラちゃんとプリンもやる気になっているし、逆に僕が一番冷静だった。

 思わず項垂れながら、僕は訓練場に向かいました。


「はい、では実技訓練に入ります。その前に幾つかお話します。まず、全員必ずナイフを持って下さい。ナイフは料理や木を削ったり、解体や道具にもなります。冒険者ギルドの購買で売っている、初心者セットもお勧めです」

「あと、旅に行くときは、外套もあった方が良いよ。雨も防げるし、最悪外套を羽織って寝袋代わりにできるよ」

「食料も大事です。特に飲み水の確保は、命を繋ぐ事に繋がります。意外と食料は現地で調達できるので、飲み水を気に掛ける事は少ないですわ」


 僕たちの説明を、大抵の人や野次馬でついてきた人やがうんうんと頷いていました。

 どんな事をするかを想定して、装備を整える事は大切です。

 特に水は生死に繋がるから、どんな場合でも確保が必須です。


「また、皆さんは様々な武器を使うと思いますが、手入れはとても大切です。いざという時に使えないと意味がないので、手入れは欠かさないで下さい」

「分からないことは、武器屋さんに聞くと良いよ。修理とかも教えてくれるし、武器を直してもくれるよ」

「聞くということは、恥ではないですよ。分からないことを、分からないままにしておく方が問題ですわ」


 武器の手入れは、冒険者に限らず他の職業でも必須です。

 錆びて使えなかったとかだったら、目も当てられないですね。

 さてさて、スキンヘッドがさっさとしろと目で訴えかけているので、話はこのくらいにしましょう。


「では、今から皆さんの実力を確認します。僕、リズ、サンディが対応しますので、順番に行いましょう」

「俺はアレクとやるぞ。逃げるなよ!」


 おっと、スキンヘッドは待たされた分とっても苛ついていますね。

 ちょうどいいから、色々な事を教えながら模擬戦を行いましょう。

 僕とスキンヘッドは、それぞれ舞台に上がります。

 新人冒険者は僕がスキンヘッドに殺されないか、とてもハラハラしていました。

 対して、野次馬冒険者は暇つぶしになるかなと思っているみたいです。

 さてと、僕はアイテムボックスからダガー型木剣を二振り取り出します。


「おらー!」


 シャキーン。


 スキンヘッドは背中から大剣を抜きました。

 でも、もうこの時点で注意事項があるぞ。


「はい、皆さん彼の剣に注目して下さい。一部刃こぼれがありますね。これでは、いざという時に役に立ちません。切れ味が落ちたら、武器屋に修理依頼して下さい」

「「「はい!」」」

「おい! 俺をだしに使うな!」


 うん、自慢の大剣を大切にしていない時点で、もう減点対象だね。

 スキンヘッドは、ますます顔を真っ赤にしています。


 だだだ!


「おらー!」


 ブオン、すか。

 ブオン、すか。

 ブオン、すか。


 腕の力だけで大剣を扱っているので、スキンヘッドの攻撃はとっても読みやすいです。

 ちょっと動いただけで、大剣を避ける事ができます。

 これじゃあ、ウルフに剣をあてる事も難しいですね。

 僕は、少し彼から距離を取ります。


「はあはあ、何で当たらないんだよ!」

「皆さん、よく考えて下さいね。固定された的と違って、動物や魔物は常に動きます。剣でも槍でも、もちろん弓矢でも魔法でも、相手の動きを予測して攻撃する必要があります。武器や魔法に限らず、攻撃の基本ですね」

「「「はい」」」


 スキンヘッドには悪いけど、良い講習材料になって貰いましょう。

 スキンヘッドは、再び大剣を手にとって突っ込んできました。


「クソが、おらー!」


 ブオン、すか。

 バシッ、ずさー。


「うがあ!」


 スキンヘッドの攻撃を避けて、僕はスキンヘッドに足払いをします。

 ものの見事に、スキンヘッドは転んでしまいました。


「では、動く相手をどうやって倒すかですが、この様に動きを止める事も一つの手です。相手の足を攻撃すれば、おのずと相手の動きは制限されますね。また、目を塞いで視界を防ぐことも大切です。生きるか死ぬかの世界ですから、自分がどうすれば生き延びられるかを常に考えましょう」

「「「はい!」」」


 スキンヘッドが良い教材になってくれたので、他の人もかなりイメージを持ってくれたみたいですね。

 さてさて、そろそろ終わりにしないと。 立ち上がったスキンヘッドは、懲りずにまた大剣を手に突っ込んで来ました。


「馬鹿にしやがって、死ねや!」


 ブオン、ガキン!


「そ、そんな馬鹿な。俺の剣が……」


 僕は、ダガー型木剣でスキンヘッドの木剣を弾き飛ばしました。

 自身の後方に飛ばされた大剣を目にしたスキンヘッドは、完全に呆然としていました。


「はい、終了ですね。あなたは大剣を腕だけの力で操っています。もっと背中とかを使って、体全体で大剣を使いましょう。回転運動も、一つのヒントですよ。それに、あなたは柔軟性が足りないので、ストレッチとかもして下さいね」

「はい、参りました……」


 僕がアドバイスを送ると、スキンヘッドは自分の負けを認めました。

 うん、自身の強さを見直すきっかけだね。


「じゃあ、次の人どうぞ」

「リズもやるよ!」

「私の所にも来て下さい」


 こうして、実技試験も順調に進んでいきました。

 初めてにしては良かったと、ジンさんとギルドマスターに褒められました。

 因みに、いつの間にかスキンヘッドはおばちゃんを先頭にした多くの冒険者から指導を受けていました。

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