七百十一話 新閣僚の発表
ツンツン頭の貴族が黙り込んでいる内に、陛下は新閣僚の紹介に入った。
一気に畳み掛けて、話を進めちゃおうって考えですね。
「それでは、新閣僚の発表を行う。今回、宰相、商務卿、軍務卿が対象となる。今後、数年かけて全閣僚の交代を行う。これは、政治の停滞を防ぐ為に血の入れ替えを行う事を意味している。上が詰まると、優秀な者が下でくすぶる事にもなる。政治の硬直は国家の大事だ、それを防がなくてはならない」
これも、あのツンツン頭への牽制も含まれていますね。
優秀な者はどんどんと登用するという、陛下の意思の現れです。
「それでは、発表する。宰相ニース侯爵並びに軍務卿スケール侯爵は、その任より退任となる。現商務卿ベリー公爵が新宰相となり、新軍務卿にはケーヒル伯爵が就く。そして、新商務卿にはフランドール子爵が就く」
陛下の発表に、謁見の間にいる貴族の一部がざわついていた。
主に、新商務卿の発表についてだった。
実は、今までの慣例では閣僚には伯爵以上の爵位を持つ者が充てられていた。
慣習なので法律にも記載はないが、誰もが当たり前の事だと受け止めていた。
フランドール子爵は若くとても知的で、青髪の短髪に程よく引き締まった長身です。
商務卿を陰ながら支えていて、慣習の件がなければ次の商務卿は間違いないと思われていました。
「ふむ、勘違いをして騒いでいる者がいるようだな。閣僚の選定にあたっては貴族家当主が就くという法律の規定があるが、別に子爵や男爵がついてはいけないという文言は記載されていない。慣習とは恐ろしい物で、あたかも法律の様に思ってしまう所がある。これは、過去に上級貴族と下級貴族の権限を分けようとした悪しき例だ」
陛下は、過去の慣習も変えようとしていた。
その一例が、今回の閣僚任用の件だった。
確かに法律的には子爵男爵が閣僚に就くのは全く問題なく、実際に過去には閣僚の地位に就いていた記録がある。
しかし、いつからか閣僚は上級貴族のみの者となっていた。
それが、誰もが当たり前だと思っていた。
「そして、今回宰相を支える副宰相を新たに任命する。数年後には、王太子であるルーカスが学園を卒業し本格的な政務に就く。それまでに、さらなる体制の改革を行う為に任命する。副宰相には、カーセント公爵、グロスター侯爵、クロスロード子爵、そしてアレクサンダーを充てる」
僕達の名前が呼ばれたので、一歩前に進んだ。
ここでも、少しざわめきが起きていた。
僕は王族で既に宰相補佐官として執務を行っていたから何も言われてないけど、ジンさんは元は平民で最近貴族になったばかりです。
一部の貴族は、平民上がりの貴族とジンさんの事を馬鹿にしているのでしょう。
そのジンさんが、副宰相に任命されたので内心歯がゆい思いがあるのでしょう。
「カーセント公爵とグロスター侯爵には、現行の体制の矛盾の調査と対策を行ってもらう。クロスロード子爵とアレクサンダーは、既に王立学園改革を行っているので引き続きその任にあたる。また、副宰相には各地の闇ギルド対策にもあたってもらう」
陛下は、ざわめきが起きていても関係なしに僕達の仕事内容を話していた。
陛下としても、ざわめきが起きるのは織り込み済みなのだろう。
僕はチラッと横を見たけど、閣僚も王妃様もアリア様も、そしてルーカスお兄様もティナおばあさまも平然として立っていた。
恐らく、陛下と同じ気持ちなんでしょうね。
あのツンツン頭はっと、おお、改革を進めるのと慣習を打ち破るのを目の前で見せられたので、相当悔しい思いが顔に現れているね。
でも、歯ぎしりをしながらジンさんを睨むのは筋違いだと思うよ。
「これで、謁見を終わりとする。王国は、素質がありやる気のあるものをどんどんと登用する。逆に知識も足りず横柄な態度を取っている者は、階段を上る事はできないだろう。皆も常に自己研鑽を行い、国の為そして民の為の政治を行う様に」
「「「はっ」」」
最後に騒いでいる人に釘を差して、謁見は終わりとなった。
色々な波乱を生んだ謁見だったけど、普通にしている貴族にとってはメリットのある内容だった。
問題は、臣下の礼を取りながらも僕達の事を睨んでいる貴族の扱いですね。
もう少し情報を集めて、様子を見ないといけないな。
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