七百十二話 皆で糖分補給

 僕達も、謁見の間の袖口から控室に戻ります。

 この後最初の閣僚会議があるのですが、この人の頭の栄養補給が必要です。


「むしゃむしゃ、むしゃむしゃ。ふう、ようやく落ち着いたぞ」

「今日は、いつにもなく随分と頑張りましたからね」

「少し甘い物が多めでも、問題ないですね」


 いつも謁見の際に進行を進める宰相が交代するのもあるし、何よりもあのツンツン頭の貴族への牽制もある。

 陛下が最初から最後まで喋りっぱなしだったので、今日は特に疲れてしまったみたいです。

 いつもよりも多めにお菓子を食べているけど、流石に王妃様もアリア様も文句は言いません。


「ルカもおかしたべるー」

「エドも!」

「はい、食べ過ぎない様にね」

「「わーい」」


 謁見デビューのルカちゃんとエドちゃんも、陛下が喋っているだけだったので無事に終える事ができた。

 ルーシーお姉様にお菓子を分けてもらって、ニコニコしながら食べていました。

 しかし、二人ほど元気のない人がいました。


「はああ……緊張した……」

「ジン大げさよ。結果的には、上司がカミラのお祖父様から私のお父様に変わっただけじゃない」

「レイナ、そっちじゃない。大勢の貴族の前に立つだけで、マジで緊張するよ……」


 一人目は、副宰相として多くの貴族の前に立ったジンさんです。

 空気の抜けた風船みたいに、緊張から解放されて色々な物が抜けちゃっていました。

 久々に、ヘロヘロなジンさんになっていました。


「うう、あの人悪者だよ。僕の事も睨んできたよ……」

「ミカちゃん、大丈夫?」

「お姉ちゃんが、ギュッてしてあげるよ」


 二人目は、貴族側にいたミカエルです。

 ミカエルはあのツンツン頭の側にいた上に、よりによって帰り際に睨みつけられたそうです。

 あんなに張り切って頑張ると意気込んでいたのに、今はとってもしょんぼりしています。

 リズとエレノアが、ミカエルの事を抱きしめて頭を撫でていました。


「ハンナさん、ミカエルの側にいてくれてありがとうございます。本当に助かりました」

「私はミカエルちゃんの側にいただけですわ。でも、あの青年はかなり怪しいですね。どうも、アレク殿下に関わりのある者に睨みをきかせていました」


 謁見中ミカエルの側にいてくれたハンナさんに、色々とお礼を言います。

 ハンナさんもあのツンツン頭に睨まれたらしく、更にミリアやマイク様やランディ様も睨んでいたそうです。


「あの、私も視線は感じましたが睨まれたりはしませんでした」


 ロンカーク伯爵であるサンディは、視線だけで直接的な被害はありません。

 勿論、辺境伯様とかも被害はありませんでした。


「簡単な話だ。アイツは小心者だ。だから、自身が子爵だからそれよりも上の爵位の者に喧嘩を売らなかっただけだ」


 もぐもぐとお菓子を食べながら、陛下が理由を答えてくれました。

 そういえば、あのツンツン頭の被害を受けていたのは全員男爵と子爵だね。

 僕と同じ年のサンディに喧嘩を売らない辺り、かなりの小心者だ。


「奴について簡単に話そう。名は、バレン子爵という。何回も官僚試験に落ちていて、今は一般の者と同じ扱いで働いている。ああ見えて、アレクと同じ年の嫡男がいる」


 個人的には、僕と同じ年の嫡男がいる事がとても気になります。

 学園で、同級生になるじゃないですか。


「官僚試験に落ち続けた事で、本人は過激思想に染まっているみたいだな。同じく官僚試験に落ちた者で、新たな派閥を作っている」

「ただ単に、仲間を集めて傷の甜めあいをしているだけじゃないですか……」

「ジンよ、本人は官僚試験に落ちた事で強烈な劣等感を感じているのだよ。プライドだけは高いのでな」


 うーん、変にプライドがあるから、相手にするのも面倒くさいね。

 ただでさえ謁見の間で陛下を睨む事までしているのだし、周りの貴族にも当たっている。

 こういう人は、何をするか予測不能だからとっても危険だ。


「この後の閣僚会議でも話はするが、あの派閥は監視対象にする。謁見の間で余を睨んできた事と、終了後に複数の貴族を睨みつけた事を理由とする」


 謁見中に陛下に喧嘩を売ったに近いから、監視対象にするには十分な理由ですね。

 いきなり大きな難題になりそうです。


「もぐもぐ、お菓子美味しいね」

「ミカちゃん、まだまだあるよ」

「紅茶も一緒に飲もうね」


 因みにツンツン頭に睨まれてしょんぼりしていたミカエルは、お菓子を食べたりと元気を取り戻していた。

 とはいえ、もう少し様子を見た方が良さそうですね。

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