六百六十八話 疑惑の領地に向かいます

 翌朝、僕とリズは早めに起きて準備をします。

 僕は、いつもの仕事着に着替えます。


「あれ? 何でお兄ちゃんはお仕事の服を着ているの?」


 うん、僕としては逆に何故リズが冒険者服を着ているかを聞きたいよ。

 リズが動きやすいドレスに着替えた所で準備万端です。


「ジンさん、バイザー子爵領を宜しくお願いします」

「おう、任せておけ」


 ジンさんにも挨拶をした所で、僕とリズはスラちゃんとプリンと一緒に王城に向かいました。


「あの、農務卿も内務卿もごっつい剣を持っていますね……」

「今日は派手に暴れるかもしれないからな」

「念の為の予防措置だ」


 うん、お二人ともとんでもない予防措置ですね。

 しかも、マジックバッグに入れないで普通に腰に下げていますよ。


「うう、一緒に行きたいの……」

「たまには暴れたいよ……」


 お留守番が確定しているエレノアとルーシーお姉様は、思いっきり不満を漏らしていました。

 特にルーシーお姉様は、ここの所ずっとお仕事していたもんね。


「はいはい、二人ともお仕事頑張ってね。お土産は買ってこれないけどね」

「「はーい……」」


 仕事用のドレスに着替えたティナおばあさまが、思いっきりやる気のない二人を促していました。

 うーん、ちゃんとお仕事できるか心配なくらい、二人のやる気は最低レベルだぞ。

 二人の事がちょっと心配だったけど、王城での準備が整った所で今度は軍の駐屯地に向かいます。


「ケーヒル伯爵様、おはようございます」

「おはよう、アレク君。こちらは何時でも行けるように、準備ができているよ」


 おお、今回は一個中隊が現地に行くんだ。

 結構大掛かりだね。


「ケーヒル伯爵、追加派遣になった時は直ぐに動けるか?」

「そこは抜かりなく。大隊の派遣も可能です」


 あの、内務卿がケーヒル伯爵様とニヤリとしながら話をしているんですけど。

 スラちゃんもいつでもオッケーって触手で丸を作っているし、これは本格的な戦闘になりそうです。

 まず、僕がスラちゃんと一緒にカスバク男爵領に行って、ゲートを繋げないと。


 みょーん。


「では、先に二個小隊がカスバク男爵領に行ってくれ。常に情報は共有する事」

「「「はっ」」」


 あの、今度はスラちゃんがゲートを使ったんですけど……

 完全に僕の出る幕が無くなっちゃったよ。

 ケーヒル伯爵様が部隊に指示を出す間、僕は思わず落ち込んじゃいました。


 みょーん。


「じゃあ、こちらもカスバク子爵家に行くぞ。カスバク男爵も子爵家にいるそうだし、先ずは、強制調査で良いだろう」

「ついでに、開発予定区域の森も調査だな。兵を先行させよう」

「容疑が固まり次第、即逮捕と。アレク君、スラちゃん、怪しい人は逐一鑑定していいわ。闇ギルド配下の者がいたら、問答無用で捕縛していいわ」


 えっと、内務卿も農務卿もティナおばあさまも、目茶苦茶やる気になっていますよ。

 予定外の事になったので、溜まった鬱憤を相手にぶつけるつもりみたいですね。

 皆暴走しないかちょっと心配だけど、きっと大人だから大丈夫とおもってスラちゃんの作ったゲートをくぐりました。


「うーん、確かに活気が少ないですね」

「皆、元気ないよ」

「どう見てもおかしいわね。王都から馬車で一日で着く好立地なのに、こんなにも人が少ないなんて」


 街の様子は、確かにレイナさんとカミラさんの報告と同じ印象でした。

 よく見ると、街角に孤児っぽい人もいるなあ。

 これは、あまりじゃなくてかなり街の様子が良くないですね。

 そんな街を歩きながら、僕達は屋敷前に到着しました。


「どう見ても、不要な調度品がいっぱいですね」

「でも、とっても趣味悪いね」

「もう、調査する必要のないものばかりですね。さっさと屋敷の中に入りましょう」


 今まで見てきた貴族主義の屋敷の典型例ですね。

 もう既に碌でもない事になると思い、思わず溜息をつきながら僕はアイテムボックスから一枚の紙を取り出しました。

 そして、紙を門兵に見せて通告しました。


「宰相補佐官のアレクサンダーです。適切に領地統治できていない容疑で、これから屋敷や関連施設の強制捜査を行います」

「はっ、ええー!」


 命令書を見てビックリしている門兵を無視して、僕達は屋敷の敷地内に入りました。

 もしかしたら、今日は長い戦いになりそうです。

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