六百三十七話 魔獣化の薬を渡した者

 翌日の午後、僕は久々に宰相と顔を合わせる事ができました。

 大分お疲れの宰相に、僕は申し訳ないと思いながらも大量の書類を渡しました。


「宰相、会議ばかりでお疲れみたいですね」

「そうじゃのう。今、これからの各部署の再編の話をしているから、結論が出るまでもう少しかかるぞ」


 書類にサインをしながら宰相が話をしてくれたけど、再編まで話が進むとなるともう少し時間がかかりそうですね。

 そして宰相が全ての書類にサインを終えると、僕に話しかけました。


「アレク君は、この後閣僚との会議に参加してくれ。今日は、ルーカス殿下も一緒に会議に参加する」

「あっ、確か学園は午前中まででしたね」


 卒園式に向けての準備と職員会議があるそうで、ルーカスお兄様とアイビー様はお昼過ぎに学園から帰ってきていました。


「ルーシーお姉様、すみませんが後を宜しくお願いします」

「ええ、後は私に任せてね。アレク君も会議頑張ってね」


 僕はルーシーお姉様に後をお願いしてから、宰相と共に会議室に向かいました。

 ルーシーお姉様は会議に参加しなくて良いのか、とても良い表情で僕と宰相を見送っていました。


「皆、忙しい所申し訳ないな」


 会議が始まると、陛下が集まった人に挨拶をした。

 会議には、閣僚と僕とルーカスお兄様にジンさんがいました。

 ジンさんは、必死になって空気になろうとしています。


「各部局の再編に加えて閣僚の移動案を作って貰っているが、それ以上に懸念されている事態が発覚した。元後方支援部隊長のガンコ侯爵だが、闇ギルドと繋がっている可能性が高くなった。だが、どちらかというとガンコ侯爵の妻の出身地であるネイバー伯爵領の方が怪しいとの調査結果が出た」


 軍の駐屯地にある後方支援部隊長室から見つかった魔獣化の薬は、ガンコ侯爵の妻からもたらされた事が分かった。

 ガンコ侯爵の妻はなんの薬か分かっていなくて、実家から疲れた時に飲めば元気になると言われていたそうです。

 因みにガンコ侯爵夫妻は薬を飲んでいなくて、屋敷にいた人も全く影響はないそうです。


「これから部隊を編成してネイバー伯爵領に向かうが、ネイバー伯爵領はレイクランド辺境伯領に接している。必要な人員をアレクのゲートでレイクランド辺境伯領に送り、そこから現地に向かう事になる」

「陛下、いつ兵をレイクランド辺境伯領に送りますか?」

「この会議が終わって直ぐだ。既に、レイクランド辺境伯には伝えてある。あと、軍務卿と共にアレクとジンも現地に向かって貰うぞ」


 あっ、陛下の話を聞いたジンさんが、またかよって表情に変わっちゃった。

 でも、闇ギルドが事件に絡むとなるとジンさんの攻撃力が絶対に頼りになるから、僕としても同行してくれるのはとっても有り難いです。


「アレク、どうせ首謀者は直ぐに捕まるだろう。四日後の卒園式の責任者は、アレクのままにしておくぞ」


 陛下、ニヤリとしながら僕に言わないで下さい。

 会議が終わったので、僕とルーカスお兄様とジンさんは陛下と共に子ども部屋に向かいました。


「という事で、この後レイクランド辺境伯領に行くぞ」

「「旅行だ!」」

「だあ、違う違う。レイカとガイルは、アレクサと共に留守番だ」

「「えー」」


 レイカちゃんとガイルちゃんはレイクランド辺境伯領に行けると思ったみたいだけど、流石にネイバー伯爵領に行っている間は屋敷でお留守番ですね。

 勿論、ミカエル達も屋敷でお留守番です。


「じゃあ、事件が解決して一段落したら、皆でレイクランド辺境伯領に行きましょうね」

「大きな湖があるから、色々と楽しめるわよ」

「「「わーい!」」」


 あっ、レイナさんとカミラさんの提案に、ルカちゃんとエドちゃんも含めた子ども達全員が喜んでいるよ。

 これは、絶対に皆を連れて行かないとブーブー言われるね。


「お兄ちゃん、リズは一緒に行くよね?」

「リズはついてきて良いけど、エレノアとサンディとイヨはお留守番だね」

「「「えー」」」


 エレノア達も僕と一緒に行けなくてブーイングを上げているけど、流石に警備の都合で全員は連れて行けないよ。


「ふむ。では、エレノアはアレクの代わりに要人の面会に立ち会って貰おうか」

「えっ?」


 あっ、陛下がニヤリながら言った内容に、エレノアが固まっちゃった。

 僕とジンさんは、その隙に子ども部屋の外に出ました。

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