五百九十二話 使い物にならなかったお兄ちゃん

 そして僕達は、ブランターク男爵領の森に移動しました。


「おおー! 森の中に、薬草がいっぱい生えているよ!」

「凄いです、薬草が取り放題ですの」


 今まであまり冒険者が入っていない森の為か、沢山の薬草が生えていました。

 薬草採り名人のリズとエレノアは、沢山の薬草を見て物凄くテンションが上がってます。

 早速、他の人と一緒に薬草を採り始めました。

 この分なら、僕は何回も辺境伯領の治療研究所に薬草を運ばないといけないみたいだね。


「キュー」

「キキュー」


 マジカルラットの親子も、薬草を集めつつもしゃもしゃとつまみ食いしていました。

 これだけの薬草があったら、ちょっとくらい食べても全然問題ありません。

 プリンも、皆に負けじと沢山の薬草を集めています。


「はあっ」

「とりゃ」

「ぐおー」


 動物の数もそこそこいるので、レイナさんとカミラさんにルリアンさんとナンシーさんは、ジェリルさんやランカーさんと共にリズ達の護衛しながらの討伐で大忙しです。


「せい、やあ!」


 僕もダガーを両手に持ちながら、襲ってくるウルフや熊を倒していきます。

 僕にとっては、敵を相手にする丁度よい訓練になっています。


「ああ、ルルーに怒られた……」

「ジン、邪魔よ」

「リズちゃん達と一緒に、薬草を集めていなさい!」

「おう……」


 一方で、ジンさんはルルーさんにこっぴどく怒られたので、完全に意気消沈しています。

 僕もレイナさんとカミラさんと同じく、ジンさんには大人しく薬草採取をしてもらった方が助かるなあ。


「お兄ちゃん、カゴがいっぱいになったよ」

「アレクお兄ちゃん、エレノアのカゴもいっぱいなの」

「ちょっと待っててね」


 薬草が沢山生えているので、リズ達が薬草を集めるスピードも早いです。

 僕は適当なタイミングで辺境伯領の治療研究所に薬草を持っていき、ノエルさんに薬草を渡しました。

 いっぺんに薬草を持っていくよりも、ある程度持っていって薬を作っていく方が効率が良いんだって。

 こうして、予想以上の量の薬草が集まったので、予定よりも早めに切り上げました。

 そして、ブランターク男爵領の冒険者ギルドに、倒した動物を納品します。

 勿論、プリンがバッチリと動物の血抜きをしています。


「ブランターク男爵領の森は、薬草も多く映えていてとても良いわね。もう少し薬草採取する回数を増やしても良いわ」

「襲ってくる動物も、頭数は多いですがこの程度なら全く問題ありません」

「ただ、ジンが使いものになるかどうかが問題ですね……」


 ティナおばあさまとレイナさんはブランターク男爵領の森に好印象を持っているけど、僕はカミラさんと同じくジンさんが問題になるかだと思います。

 結局ジンさんは最後まで復活せず、リズ達からも怒られていました。

 しかし、ジンさんの機嫌は、屋敷に戻った瞬間に復活しました。


「皆さん、お疲れ様です。夕食のご用意が出来ております。今日は、私も手伝いました」

「おお、そうか!」

「「「……」」」


 玄関ホールでルルーさんが出迎えてくれて、更に料理まで作ってくれたと聞いたジンさんは、一瞬にして復活しました。

 もう、皆呆れた目でジンさんを見ていました。


「ルルー、後でジンを説教してやってね」

「道中ルルーに怒られたって嘆いて、全く使いものにならなかったのよ」

「おい、お前ら!」


 ジト目のまま森でのジンさんの行動をバラしたレイナさんとカミラに、ジンさんが慌てています。

 そんな兄の姿を見たルルーさんが、あえてイヨに話しかけました。


「イヨちゃん。森の中のお兄ちゃんはどうだった?」

「落ち込んでいて邪魔だった。正直、マジカルラットどころか空気以下だった」

「ふーん」

「おい、その言い方はないぞ。そんな事は全く無いぞ!」


 ジンさんは急いでイヨの発言を否定するけど、マジカルラットの親子どころか正直何もやってないもんね。

 あと、その言い方はマジカルラットの親子に失礼です。


「お兄ちゃん、反省するまで夕食抜きです!」

「そ、そんな……」


 流石のルルーさんも怒っちゃって、ジンさんはがっくりと項垂れちゃいました。

 でも、自業自得なので誰もジンさんに声をかけませんでした。

 ジンさんのシスコンぶりも、ルルーさんが結婚して更にパワーアップした感じだね。

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