三百七十一話 ジンさんの跡取りが誕生

 今日は謁見だけで午後は何もない予定だ。

 そう、予定がないだけで突然予定が入ってくる事がある。

 食後の紅茶を飲んでいた時、辺境伯様のタブレット型魔導具に連絡があった様だ。


「何々? ジェイドからの連絡だな。お、レイナとカミラが産気づいたそうだ」

「「「え!」」」


 中々凄い情報が、辺境伯様からもたらされた。

 ジンさんも勿論だけど、レイナさんの父親である商務卿とカミラさんの祖父である宰相もかなり驚いた様だ。

 あ、商務卿はオロオロし始めたぞ。


「ふむ。午後は特に議題もないし、宰相と商務卿も二人の様子を見に行ってやるが良い」

「「ご配慮頂き、感謝します」」


 特にオロオロしている商務卿を見て、陛下は宰相と商務卿に対して午後の仕事はなしと言っていた。

 とはいえ、少し笑っている陛下も王妃様とアリア様が妊娠した時はオロオロとしていなかったっけ?

 とりあえず、僕は辺境伯様とジンさんと赤ちゃんが見たいルーカスお兄様達を先に屋敷に送って、一度王都の屋敷に戻って準備をする宰相と商務卿を迎えてから、改めて屋敷に向かった。


「「「オロオロオロオロ」」」

「お父様もお兄様達も、少しは落ち着きなさい。不審者の様ですよ」


 うん、僕もレイナさんの妹さんの意見に賛成だ。

 宰相は家族と共にデーンと構えているけど、商務卿は息子二人と共に出産用の部屋の前でオロオロとしていた。

 三人は、口からもオロオロと言うほど落ち着きがなかった。


「ジンさんは落ち着いていますね」

「ここの所、出産する所に遭遇する事が多かったからな。男は待つしかないと分かっているし」


 とはいえ、ジンさんも拳をぎゅっと握りしめていた。

 やっぱり、心の中は不安で堪らないよね。


「まあ俺も不安だが、あれを見ると逆に落ち着いたぞ」

「「「オロオロ……」」」

「僕もそう思います」


 未だにオロオロと態度と言葉で示している商務卿と二人の息子のお陰で、皆ある程度落ち着きを取り戻していた。

 ある意味、商務卿のファインプレーになっています。


 そして、おやつの時間になって皆でお茶を飲んでいる時だった。


「「オギャー!」」

「「「産まれた!」」」


 元気な泣き声が、レイナさんとカミラさんのいる出産用の部屋から聞こえてきた。

 ゾンビの様な顔になっていた商務卿と息子が、一気に息を吹き返した。

 そして、出産用の部屋に駆けて行きガチャガチャと扉を開けようとするが、扉は鍵がかかっているので閉まっていた。

 商務卿の様な人がいるから、部屋に誰も入らない様に鍵を閉めているのですよ。


 かちゃ、ドゴン!


「「「うご!」」」


 その時、扉の鍵が開いて扉が勢いよく開いた。

 扉の真正面に構えていた商務卿と二人の息子の顔面に扉が勢いよく当たり、顔面を押さえて廊下にうずくまっていた。


「あなた、何やっているんですか? 大体理由は分かりますけど」


 どうも扉を開けたのは商務卿夫人で、廊下に転がっている主人と息子を馬鹿な目で見ていた。


「お兄ちゃん、赤ちゃんが産まれたよ! 元気な男の子と女の子だよ!」

「そうか、良かった」


 ジンさんは、妹のルルーさんから赤ちゃんが無事に産まれたと聞いてほっとしていた。

 僕達はジンさんと共に部屋に入っていった。


「レイナさんの赤ちゃんが女の子で、カミラさんの赤ちゃんが男の子だよ」

「二人とも、俺の髪色にそっくりだな」


 産まれた赤ちゃんは、ジンさんにそっくりの燃える様な赤い髪だった。

 どこからどう見ても、ジンさんの赤ちゃんだって一目でわかるぞ。


「レイナ、カミラ、お疲れ様」

「はは、流石に疲れたよ。赤ちゃんを産むって、こんなにも大変なのね」

「ナンシーとルリアンが安産だったから、完全に油断していたわよ」


 少し難産だったのか、レイナさんとカミラさんはだいぶ体力を消費していた。

 回復魔法で治る訳ではないし、ご飯を食べて体力を回復してもらわないとね。

 

「可愛いね、じーじでしゅよ」

「お父様、キモい」


 そしてレイナさんの赤ちゃんが女の子とあってか、商務卿はいきなり孫馬鹿になっていた。

 レイナさんの妹さんから辛辣な言葉を浴びせられても、全く意に返さない。

 うーん、こりゃ暫く商務卿は使い物にならなさそうだぞ。


「ほほほ、これは元気な男の子じゃな。立派な跡取りじゃ」

「おじいちゃん。ジンは名誉貴族だから、継承権は無いよ」


 宰相がカミラさんの赤ちゃんの頭を撫でているけど、宰相の言葉にカミラさんが突っ込んでいる。

 そうか、レイナさんとカミラさんは、ジンさんが子爵になった事を知らないんだ。


「カミラさん、ジンさんは今日の謁見で子爵になったんだよ」

「そうなの? まあ、そこそこ功績は溜まっていたからね」


 カミラさんは、あっさりとジンさんが子爵になった事を受け入れていた。

 レイナさんも特に驚きは無かった。

 この辺は、二人とも貴族令嬢ってのもあるだろう。


「お兄ちゃんが子爵様? ええー!」


 対してジンさんの妹のリリーさんは、ジンさんが子爵になった事にかなり驚いていた。

 名誉貴族になっただけでも驚いたらしいが、本物の貴族になったので驚きが倍速だ。


「となると、リリーも貴族令嬢としての勉強をしないとなりませんわね」

「ええー!」

「「「ははは」」」


 そして、レイナさんの妹の一言で、リリーさんも貴族令嬢としての勉強が決まってしまった。

 そんなリリーさんの慌てる様子を見て、周りの人も思わず笑っています。

 いずれにせよ、今日はジンさんにとって嬉しい事が沢山あった日になりそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る