三百三十六話 皇都への道のり四日目
皇都への道のり四日目。
順調に進めば、お昼頃には皇都に到着予定です。
「私も皇都に向かいますので、同行させて頂きますと大変にありがたいです」
という事で、ワーロード司祭も僕達と共に同行します。
帰りの都合があるので、ワーロード司祭とは僕達の馬車とは別の馬車で向かいます。
「おばあちゃん、皇都ってどんなところ?」
「基本は王都と変わりないわよ。王城の代わりに、豪華な教会が建っていて、多くの教会の人が働いているのよ」
「そうなんだ」
カラカラと街道を進みながら、馬車の中でリズがティナおばあさまに質問しています。
そういえば、ティナおばあさまは皇都で聖騎士と研修をしていたから、どんなところか知っているんだ。
とはいえ人々の信仰心の違いはあれど、教会以外の街で働いている人は王国や帝国と特に変わりないよね。
途中現れた動物を退治しつつ、順調に馬車は進んでいきます。
そして、予定通りにお昼前に皇都に到着。
王都と同じく、皇都も防壁がぐるっと街を囲んでいます。
防壁の門にて入場の手続きをして、いよいよ皇都に入ります。
その時、サイファ枢機卿からとある事を告げられた。
「私もどのくらい集まっているか分かりませんが、市民の出迎えがあるようです。宜しかったら、市民に向かって手などを振って頂けるとありがたいです」
「そうなのね。王国にいても王族として街の人に手を振る事もあるでしょう。良い訓練だわ」
「分かりました」
「リズ、頑張って手を振るよ!」
教皇国にとって僕達は外国からの来賓だし、僕は少し出迎えがいるかなって軽く思っていた。
「「「わー!」」」
「なに、これ……」
門を抜けてでっかい教会まで一本道が続いているけど、道の両端にびっしりと市民が並んでいた。
余りの人の多さに、ジンさんは絶句していた。
いやいや、僕だってかなりびっくりしているよ。
「ほほほ、この沿道の人数は過去最高ですな。流石は双翼の天使様ですな」
「えー!」
サイファ枢機卿も人の多さに思わず笑っている。
とりあえず手を振った方が良さそうなので、僕達は馬車の窓から顔を出して沿道の人に向かって手を振った。
「わー、双翼の天使様よ」
「小さくて可愛いですね」
「教皇国に入ってからも、人々をお救いになっていますわね」
僕とリズは、スラちゃんとプリンと共に同じ窓から手を振っている。
キャーキャー言われるのって、中々慣れないなあ。
「ほら、ジンも手を振るのよ」
「えー! 俺もですか?」
「当たり前です。ジンは導く者なのですから」
「とほほ……」
そしてジンさんとティナおばあさまも、沿道に向かって手を振り始めた。
「華の騎士様もいらっしゃるのね」
「そして、あの男性が導く者様なんですね」
「双翼の天使様のお師匠らしいわ」
以前教皇国を訪れた事があるティナおばあさまは勿論の事、ジンさんにも沢山の声援が飛んでいた。
ジンさんは、何だか微妙な表情で沿道に向かって手を振っている。
そして、大きな教会まであと少しで到着となった所で、突然街のど真ん中に怪しい人物が飛び込んできた。
慌てて沿道の警備にあたっていた聖騎士が不審者を捕まえようと追いかけたが、不審者が一足早く手榴弾みたいな魔導具を僕達の乗る馬車に向かって投げてきた。
ピカー!
魔導具が怪しく光り、巨大な魔物が目の前に現れた。
「キャー!」
「逃げろー」
「サイクロプスか」
身長が五メートル近くある、緑色の肌をした一つ目の巨人が現れた。
ジンさんが言うにはサイクロプスという魔物らしい。
街の人が一斉に逃げ始めた。
「お兄ちゃん!」
「あの魔物を倒さないと」
僕達は馬車の窓から飛び出した。
「あっ!」
サイクロプスから逃げていた小さな兄妹が、何かに躓いて転んでしまった。
そこに迫り来るサイクロプス。
小さな兄妹はお互いを抱き合って目をつぶっているが、そこを目がけてサイクロプスが大きな足を踏み出してきた。
ドスン!
「「えっ?」」
「グウ?」
「ふう、間に合った」
僕は身体強化で兄妹の前に立ち、サイクロプスに踏み潰されない様に魔法障壁を展開した。
ギリギリのタイミングだったけど、何とか間に合った様だ。
「とー!」
「グフッ」
僕が展開した魔法障壁でサイクロプスが踏み付けができずに動きが止まった所を見逃さず、リズとスラちゃんがサイクロプスの顔面目掛けて飛び蹴りをくらわせた。
流石にサイクロプスは不意を突かれたので後退りをする。
そのタイミングを逃さずに、ジンさんとティナおばあさまが幼い兄妹を聖騎士に引き渡した。
「グォー!」
「おうおう、怒っているな」
「さっさと倒しましょう」
サイクロプスはかなり怒った表情で僕達を睨んでいる。
街に被害が出ない様に、さっさと倒さないと。
僕達はサイクロプスに向けて、一斉に剣を抜いて構えた。
「グォー!」
「「「「はっ」」」」
サイクロプスは僕達のいた所に拳を振り下ろしたけど、そこまで速いスピードではない。
僕達は拳を避ける様に四散して、一気に切り掛かります。
バリバリ!
「えーい!」
「はっ」
「ギガー」
僕達が四散したタイミングでプリンが雷撃を放ち、サイクロプスの脚を止める。
そして、リズとジンさんがサイクロプスに切り掛かります。
ブォン。
「よっと」
「せい!」
「グボァ!」
サイクロプスはプリンを肩に乗せている僕を目掛けて拳を振ってくるが、僕は逆にサイクロプスの懐に潜り込んで胸を切りつけます。
僕と同じタイミングで、ティナおばあさまもサイクロプスの背中に連撃を浴びせます。
「うおー!」
「すげー!」
街の人も少し離れた所で僕達の事を応援してくれています。
何だか凄い盛り上がりだなあ。
「もう少しヒットアンドアウェイを続けるぞ。アレクとプリンは魔力を溜めておけ」
「「はい」」
ジンさんの指示に従って、魔力を溜めつつ最小限の攻撃を繰り返す。
サイクロプスは攻撃が当たらずイライラしているし、出血量も多くて動きが遅くなってきた。
「一気に切りつけるぞ。アレクは俺らが離れた瞬間を狙え!」
「「はい」」
そしてリズとスラちゃんとジンさんとティナおばあさまが一気に切りつけ、サイクロプスが堪らず膝をついた。
そして素早く皆が離れた。
よし、いまだ!
「えーい!」
バリバリバリバリ!
「グォー!」
僕とプリンの合体魔法で、サイクロプスに強力な電撃をくらわす。
サイクロプスはたまらず電撃を浴びながら大きな声を上げている。
プスプス。
サイクロプスは煙を上げながら、倒れる寸前だ。
そこに、トドメの一撃が入る。
「えーい!」
リズとスラちゃんが、魔力をたっぷりと込めた魔法剣でサイクロプスの胸をXに切り裂いた。
ズドーン。
サイクロプスは無言のまま、大の字に倒れた。
「「「うおー!」」」
途端に周りから大きな歓声が沸き起こった。
「凄い、あれは裁きの雷だ!」
「サイクロプスの硬い皮膚を、軽々と切り裂いたぞ!」
「華の騎士様の剣撃が速すぎて見えなかったぞ」
「導く者様は、やはり的確な指示を出されていたなあ」
何だか物凄い盛り上がりになっている。
聖騎士が群衆を抑えてくれているけど、これは早めに避難した方がよさそうだ。
僕達は群衆に向かって手を振りながら、早足で大きな教会の中に入って行った。
倒したサイクロプスの処理は、聖騎士に任せておこう。
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