三百十八話 聖女様歓式典の開始
結局予定時間を三十分オーバーして、聖女様の歓迎式典が始まった。
会場にいる殆どの貴族は、遅れた原因がムノー男爵である事に気がついている。
当のムノー男爵は周囲の視線など全く気にせずに、貴族主義の貴族と談笑していた。
うん、大物なのかただのアホなのか。
誰が見ても、恐らく後者だろうな。
「ごほん、時間ギリギリになって駆け込んできた貴族のせいで開始が遅れてしまった様だ。聖女様を待たせてしまい、大変に遺憾である」
おお、陛下がストレートに始まりが遅くなった理由を話しているぞ。
それで、ムノー男爵はというと、うん、周りの人とのおしゃべりに夢中で陛下の話すら聞いていない。
ムノー男爵以外の貴族主義の貴族は流石に陛下の口調で気がついたので、ムノー男爵との話を中断したぞ。
周りの様子にようやく気がついて、ムノー男爵はおしゃべりをやめた。
おお、陛下だけでなく王妃様とアリア様の殺気も膨れ上がってるぞ。
「ごほん、では聖女様よりご挨拶を頂く」
あえて咳払いをした陛下から、カレン様へバトンタッチされた。
この時ばかりは、全ての視線がカレン様に向いている。
「教皇国聖女カレンでございます。この度は皆様へのご挨拶が遅れ申し訳ございません。王国の方々に命を救って頂き、心より感謝申し上げます。その様な素晴らしい王国の方々に益々の繁栄がある事を、神と共にお祈り申します」
会場からはおおって声が上がっていた。
カレン様の堂々とした口上に、皆が感動しているのだ。
カレン様の話よりも食事と飲み物に気が向いているムノー男爵は本当にダメだな。
まだ二歳のミカエルでさえも、ちゃんとカレン様の話を聞いているのだから。
あ、今度はティナおばあさまの殺気が膨れ上がっているよ。
もうこの時点で、ムノー男爵は新事業から外される事間違いなしだな。
「それでは聖女様の体調の回復を祝い乾杯とする。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そして陛下の乾杯の音頭で式典が始まった。
問題のムノー男爵は参加者の中で一番爵位が下なので、カレン様への挨拶も一番最後になる。
そこまでは、平和な時間になる予定だ。
公爵と辺境伯家の挨拶の次は、ベストール侯爵家の挨拶です。
ノエルさんの兄が当主なのだが、ミカエルもリズ達も全く警戒していないので良い人なのだろう。
ノエルさんと同じ緑色の髪を短く切りそろえたイケメンが、今のベストール侯爵家の当主の様だ。
「聖女様、そして皆様方。ベストール侯爵家当主のグリンでございます。アレク殿下並びにリズ殿下には、父と兄が大変なご迷惑をおかけしました。私からも謝罪致します」
うん、とっても良い人だ。
父親と兄の事で相当苦労したらしいので、この人が当主ならベストール侯爵家も安泰だ。
「ノエ、ノエのにーに?」
「そうですよ。私の兄上ですよ」
「おお!」
ミカエルは、グリン様と一緒にいるノエルさんに確認をしていた。
そういえばさっきノエルさんが兄が挨拶に来ると話していたのを、ミカエルは覚えていたのか。
「こんちゃ、ミカでしゅ」
「小さいのにいい挨拶ですね。ノエルの事をよろしくね」
「うん!」
ミカエルも張り切ってグリン様に挨拶をしていた。
ミカエルの対応をしてくれているグリン様も良い人だな。
後がつかえてるので、挨拶はここまでにした。
「ノエルさん、優しそうなお兄様ですね」
「ええ、私にも良くしてくれています」
挨拶の帰りがけにカレン様とノエルさんが話していたけど、兄弟仲もとても良さそうだ。
その他の貴族からもカレン様は挨拶を受けていたけど、貴族側も多くは語らずにカレン様の体調を気遣う様な挨拶だった。
ムノー男爵以外の貴族主義の貴族も場の空気を読んでいるのか、無難な挨拶に終始していた。
「あ、ミリアちゃんだ!」
「リズちゃんだ!」
次の挨拶はクロール男爵とベストール男爵が一緒にご挨拶。
リズもミリアと久々の再会を抱き合って喜んでいます。
そうか、ミリアも幼いけどベストール男爵家の当主なのか。
「クロール男爵、シェーンさん。お久しぶりです」
「お久しぶりで御座います、アレク殿下。この度は新しい事業を始められるという事で、私めも皆様のお力になればと思っております」
「ミリアの将来もありますので、現金な話ですが協力できればと思いましてこの度応募致しました」
「クロール男爵家とベストール男爵家は歓迎しますよ。共に頑張りましょう」
「「はい」」
ミリアの将来の為にお金を稼ぐ必要はあるけど、この人達はとても良い人なので僕達としてもとてもありがたい。
きっと新事業の大きな力になるはずだ。
あと、ミリアもだいぶ表情が明るくなっている。
最初会った時はお人形の様な感じだったからなあ。
言葉もたどたどしいのがなくなっているので、シェーンさんが頑張って教育しているのだろうな。
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