三百三話 懐古派の動向

 実は今日教会関係者が王城に集まったのは、カレン様のお見舞いだけではない。

 関係者が教皇国側の状況を共有する目的もあった。

 なので、聖女様襲撃事件の関係者と陛下と閣僚が集まって会議をする事になったのだ。


「今回は懐古派の事で、幾つか分かった事があります。特に選挙の際に教皇国に来られるティナ様とアレク様とリズ様には、直接懐古派と接触する可能性がありますので知識としてあるととても良いかと思います」


 聖女様に付き添って王城に残っているサイファ枢機卿が、僕達に向けて説明を始めた。

 

「今まで懐古派の首領が誰だか分からなかったのですが、ここにきて正体が判明しました。ホラフキーという元聖職者です。元と付けているのは、教会から破門されたからです」

「教会から破門されているとなると、そいつはあからさまにいわく付きというのが分かるな」

「正に陛下のご指摘通り、いわく付きの者になります」


 陛下からの指摘もあるけど、名前からして胡散臭い人物に感じるな。

 

「ホラフキーは以前から過激思想の持ち主でした。唯一神を頂点とした唯一神主義者で、他の神や聖女様までもが不要と唱えておりました。その為教会の教典と異なる事を教えていたので、ホラフキーは教会から破門されます」

「まさに懐古派の主張そのものだな。そしてその様な過激派は、自分以外の主張を認めようとはしないので議論の余地すらない」


 自分の主張を押し付けて他人の意見を聞かない所は、テロリストそのものだ。

 思ったよりも厄介だなあ。


「聖女様襲撃事件の容疑者と関係先の捜索の結果、ホラフキーからの聖女様襲撃に関する指示書がでてきました。懐古派と闇ギルドとの武器に関する取引書類も押収しました。ホラフキーは公開指名手配とし、懐古派は過激組織として認定されました」


 それだけ襲撃事件の証拠が出てくれば、アピールとはいえアクションはできる。

 後は、元締めを捕まえる事ができるかがポイントだな。


「そして懐古派は、教皇選挙期間にテロを仕掛けると予告してきました。選挙の中止とホラフキーを教皇につける上に懐古派の思想を教典と位置付けろという、とんでもない要求をしてきました」

「聖女様襲撃事件で懐古派の凶悪さが国中に広まったから、ある意味開き直ったのだな。困ったものだな」


 陛下も、ホラフキーにはなすすべなしといった表情だ。

 僕だってそんな奴の相手をしたくないよ。


「選挙に外国の方を呼ぶのは変わりません。警護も厳重にしますが、我々の希望としては出来るだけ腕の立つものにして頂きたくお願いしたいです。共和国と帝国にも、同じ事を要請しております」


 今回ばかりは仕方ないよね。

 さて、誰が行く事になるのだろうか?


「ふむ、では我が国からはティナ叔母様とアレクとリズは予定通りに行かせよう。力を考えると、サンディは留守番だな。代わりにジンを派遣しよう」

「は?」

「おお、ジン様には我々も是非参加して頂きたいと思っております。実は聖女様をお救いになられた現場を指揮された功績に対して、勲章を授ける事になりました」

「へ?」


 あ、ジンさんがびっくりした表情から戸惑いの表情に変わっていった。

 教皇国から勲章をもらう事にもなったので、戦力以外にも教皇国へ行く理由もできてしまったのだ。

 サンディは自分が教皇国に行けなくなって不満顔だったけど、実力を考えると仕方ないよね。


「因みに懐古派への対応により、三つの派閥が協力体制になっております。その為に、選挙戦も大人しくなっております」

「他の国の事とはいえ、争いの火種が減るのは良い事だ。後はアレクとリズが何とかするだろう」

「へ?」

「私も同じ思いです。双翼の天使様が聖女様を治療された事は教皇国内に広く広まっており、双翼の天使様の名声はますます高まっております」

「え?」


 いやいや、この偉い人達は何を言っているんですか。

 他の人も他人事の様に、うんうんと頷かないの。


「アレク、全て任せる。俺は護衛に徹するぞ」

「いやいや、勿論ジンさんも巻き込みますよ」


 そして、僕とジンさんとでちょっとした責任の押し付け合いになってしまった。

 僕としては、平和な内に選挙が終わってくれる事を願うしかないなあ。

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