二百九十六話 聖女様救出作戦そのニ
「聖女様! ご無事ですか!」
馬車の護衛についていた騎士が、急いで馬車の扉を開ける。
すると、馬車の中は血だらけになっていて、侍従と文官が若い女性に馬乗りになって刃物で切り付けていた最中だった。
くそ、悪意のある反応はまさか馬車の中だったとは。
「「ギャー!」」
僕は刃物を持って若い女性に襲いかかっている二人に向けて、少し強めのショートスタンを放った。
頭にきているのもあったし、なによりもひと目見て女性の容体が悪い事が分かったのだ。
「聖女様、聖女様しっかりなさってください!」
「くそ、複数箇所刺されている。それに、毒も使われているぞ」
ジンさんと騎士が馬車の中から女性を助け出した。
この女性が聖女様なのか。
薄いピンク色のロングヘアで、年のわりにはお胸も大きい。
でも、今はそれどころじゃないぞ。
腹部の複数箇所から出血していて、ジンさんの言う通り毒の影響か顔色もかなり悪い。
「リズ、直ぐに治療しよう!」
「うん!」
僕とリズは直ぐに合体魔法で聖女様の治療に入った。
くそ、毒の影響か出血が中々止まらないぞ。
「二人とも、先に状態異常を治してから回復魔法をかけて。あと、誰か毒消しポーションも飲ませろ」
「私が毒消しポーションを飲ませますわ」
さすがジンさん。
ジンさん自身はサンディと共に聖女様の腹部の止血をしつつ、的確に指示を出している。
ルーカスお兄様とアイビー様が手持ちの毒消しポーションを聖女様に何とか飲ませて、僕とリズが状態異常回復を先に行なってから合体魔法で一気に治療した。
「よし、聖女様の出血は止まったぞ。だが、大量出血と毒によるダメージが大きい。直ぐに教会に運ぶぞ」
「担架を用意します!」
後からついてきた聖騎士も聖女様のあまりの惨状に動揺していたが、ジンさんの言葉で直ぐに担架と毛布を用意している。
聖女様を刺した侍従と文官はというと、後からきた聖騎士に拘束されている。
ショートスタンの威力が大きかったのか、体が完全に弛緩してしまっているな。
だけど、その位はダメージを受けても当然だと、誰も何も言わなかった。
「聖女様を担架に乗せ終えました」
「直ぐに教会に運ぶぞ」
聖騎士が素早く聖女様を担架に乗せたのを確認して、僕は直ぐに教会にゲートを繋いだ。
「アレク君、それに聖女様! 血だらけじゃない!」
「直ぐにベッドを。簡易ベッドでも良い、準備を」
出血多量の聖女様とその聖女様の治療で血だらけになっている僕を見て、ティナおばあさまと教会側はとても慌てている。
直ぐに軍務卿の指示で、護衛で来ていたジェリルさんとランカーさんがアイテムボックスから簡易ベッドを取り出して聖女様を寝かせている。
その間に、僕が維持しているゲートからリズ達とブッチー達もやってきた。
リズもサンディも、勿論ルーカスお兄様とアイビー様も聖女様を治療したので服が血まみれの状態だ。
とりあえず状況を説明しないと。
一旦ゲートを閉じて、僕とルーカスお兄様が皆に説明を始めた。
「ティナおばあさま、枢機卿様。ゴブリンの群れは無事に倒したのですが、その後馬車内で聖女様が侍従と文官によって複数箇所刺されました」
「恐らく出血性の毒が使われたのか、中々出血が止まりませんでした。正直な所、ジンさんの的確な指示がなければ聖女様の命は助からなかったかもしれません」
僕とルーカスお兄様の説明に枢機卿側は絶句していたが、流石と言うかティナおばあさまと軍務卿と外務卿がすぐさま動き始めた。
「聖女様は出血多量で、今も意識不明の重体だわ。王城に連絡して医務室に運びましょう」
「先ずは聖女様の身の安全が第一だ。ここでは治療手段も限られる」
「サイファ枢機卿、犯人の取り扱いはお任せしますが、聖女様の治療の為に直ぐに聖女様を王城に運びます」
「お願いできますか? 私も聖女様に付き添います」
という事で、僕は直ぐに王城の医務室にゲートを繋いだ。
ティナおばあさまから緊急事態が伝えられていたのか、直ぐに医務担当が聖女様をベッドに寝かせて治療を始めた。
サイファ枢機卿は、このまま聖女様の側に残って看病するそうだ。
ここまですれば聖女様の容体はともかくとして、身の安全は確保された。
僕達は教会の庭に戻って、緊急の会議をする事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます