二百九十二話 四人の枢機卿
グレアム司祭様が部屋を出て一分もかからずに、僕達がいた応接室に四人の教皇国側の偉い人がやってきた。
「アレク様、お久しぶりでございます」
「あっ、外交担当の方も来ていたんですね」
「聖女様が国外に出られますから、私が王国内でも同行します」
四人の内の一人は、帝国でも王国でも会った事のある外交担当者だった。
この人はルーカスお兄様達も顔を知っているし、良い人だからとっても安心だ。
「では改めて皆様に自己紹介を。外交を担当しておりますサイファ枢機卿と申します。よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
という事で、一人目はサイファ枢機卿がご挨拶。
続いては、背も高く筋肉も凄くて豪華な司祭服が暑苦しく見えるスキンヘッドの人だ。
「皆様、初めてお目にかかる。そしてティナ様、軍務卿閣下、お久しぶりでございます。ヤークス枢機卿でございます」
「ええ、お久しぶりですね。相変わらず鍛えておりますわね」
「ははは、体を鍛えるのは趣味みたいなものですから」
どう見ても聖騎士派と思われるヤークス枢機卿だ。
ティナおばあさまと軍務卿とも顔見知りらしく、豪快なおっちゃんって感じだ。
「では、私も自己紹介をしませんと。レリーフ枢機卿ですわ。双翼の天使様にお会いできて、私はとっても感激しております」
「そ、それはどうも有難うございます……」
三人目は品の良いおばあちゃんって感じのレリーフ枢機卿なんだけど、何故か僕の事を見るや否や手を組んで感涙しているぞ。
「双翼の天使様の事は、教皇国内でも特に女性に人気がありますから。私はナッシュ枢機卿です。どうぞ、よろしくお願いします」
最後に自己紹介してくれたのが、三人の中では一番若手っぽい白髪混じりだけどまだ青い髪がふさふさのナッシュ枢機卿。
ざっと見た感じ、全員特に問題のある感じには見受けられなかった。
「ここにいる方は、全員とても良い方よ。うまく三つの派閥の偉い方だけど、アレク君を選挙に巻き込む様な事はしないわ」
あ、これはある意味ティナおばあさまから教皇国側への牽制でもあるな。
つまりは絶賛騒乱中の、教皇国の次期教皇争いに僕を巻き込むなと枢機卿へ釘を刺しているんだ。
枢機卿側も分かっていると頷いている。
うーん、大人同士の腹の探り合いはとっても怖いなあ。
「正直なところ、アレク様が教皇国側の人間でしたら、選挙などまるで必要なくあっという間にまとまるでしょう。その位、今の教皇国は混乱しております」
サイファ枢機卿が手を広げてなすすべなしって表情をしている。
子どもの僕の存在で国がまとまるなんて、どんだけ教皇国側は混乱しているのだろうか。
「しかしながら、懐古派の存在のおかげといってはなんですが、三つの派閥は今は争っている時ではないとそれぞれが接近しつつあります」
「そうですわね。サーゲロイド辺境伯様の所に盗聴用の魔導具を仕掛けたのが懐古派だと連絡を受けた時は、私達も大きな衝撃を受けました」
「今回の聖女様の王国訪問も、懐古派が何か仕掛けるのではないかと疑っております。今回は、三つの派閥が協定を結んで聖女様の王国訪問の対応に一致団結して当たる事になっております」
各枢機卿は難しい顔をしているけど、それだけ懐古派の存在は教皇国側にとっても危険だと思っているんだ。
過激派だし、既に教皇国内では実害が出ているのだろう。
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