二百六十五話 執行猶予中に起こした大罪
「あらアレク君、戻ったのね」
「はい、避難所の公共施設を整備していました。そうしたら、街道からアホラ子爵を捕縛に行った部隊が戻ってきたのでこちらに来ました」
「そうなの。なら、こちらも丁重にお出迎えしないと、ね」
内政部隊もひと段落した様で、出迎えてくれたティナおばあさまに報告したらルーカスお兄様と閣僚も無言で立ち上がってきた。
「フィル様はどうしますか?」
「それがね、疲労から発熱してしまったのよ。リズちゃんに治療してもらっているけど、今日は安静ね」
「代わりに私が迎えよう。フィルには娘が嫁ぐのだから息子同然だ」
そりゃ、フィル様はずっと無理をしながら陣頭指揮を取っていたのだから、ゆっくりと休んでもらわないと。
フィル様の代わりに立ち上がったロロノア男爵に任せておこう。
そして、馬車が屋敷の前に到着する。
馬車の中から豪華な衣装を身に包んだ中年三人と同じく豪華な衣装を着た夫人に、跡取り息子と思われる青年が屋敷の庭に引きずり出されてきた。
うーん、ギャーギャー騒いでいてとてもうるさいなあ。
ここは演出気味にやりながら黙らせよう。
「ティナ様、ルーカス殿下、アレク殿下。アホラ子爵以下捕縛し連行いたしました」
「うむ、ご苦労」
「「「はっ?」」」
兵の報告にティナおばあさまが代表して答える。
すると、あれだけギャーギャー騒いでいたアホラ子爵達があほズラのまま固まってしまった。
ルーカスお兄様が胸元から王族の証を取り出した。
「王国王子ルーカスだ。ここには宰相以下、閣僚も揃っている。アホラ子爵、何故我々がここにいるか分かっているか?」
「い、いえ。私には分かりません……」
おお、アホラ子爵すげーな。
宰相とかの存在にも気が付いたのに、ルーカスお兄様の指摘を顔を真っ青にして汗だくにしながら否定しやがった。
アホラ子爵の後ろにいる小物男爵二人は、既に観念したのかがくりと俯いているぞ。
すると、ティナおばあさまがマジックバックから闇ギルドとの取引記録を取り出した。
「アホラ子爵よ。既に其方と闇ギルドとの取引の証拠は掴んでいる。水路を土砂で埋める様に発破した後も確認した。さて、もう一度聞く、我々は何故ここにいるのか其方は分かるか?」
「い、いえ。私には分かりません……」
すげーよ、このアホラ子爵は。
ここまでティナおばあさまが証拠を示しているのに、頑なに知らないとシラを切っている。
すると、ロロノア男爵が怒りを隠す事なくアホラ子爵に近づき、そして鉄拳をアホラ子爵の顔面にぶち込んだ。
「貴様、男爵如きが子爵に歯向かうとは。なんたる無礼だ」
尚もアホラ子爵を睨みつけるロロノア男爵に向かって、殴られたアホラ子爵は自分の事を棚に上げてギャーギャー騒いでいる。
こりゃダメだ。こいつは頭の中が腐ってやがる。
という事なので、皆で王城にコイツらを連れていく事にした。
出迎えてくれた係の者が謁見の間に来てくれというので、アホラ子爵達を台車に乗せてコロコロと運びながら謁見の間に向かっていった。
しかし、相変わらずうるさいなあ。
未だにギャーギャー騒いでいるよ。
謁見の間に着くと、陛下の他に現地に向かわなかった閣僚も集まっていた。
流石に陛下を前にしているので、無様な格好のままアホラ子爵は黙っていた。
ロロノア男爵に殴られて未だに鼻血が止まらない様だけど、僕もあえて放置しておいた。
そして、陛下が玉座に座ったまま話し始めた。
「アホラ子爵、貴様には心底失望した。昔から数々の問題を起こし、領地取り上げになりそうになった事が幾度あった事か。そして、今は領地取り上げの執行猶予の身分であったな」
「……」
は?
アホラ子爵って領地取り上げの執行猶予中だったの?
陛下の言葉に、僕とルーカスお兄様はとてもびっくりしてしまった。
「自分が贅沢な暮らしをする為に法外な重税をするばかりか、前からナシュア子爵領にちょっかいを出していたのを忘れたか? 闇ギルドとの取引や違法奴隷の件の罰金も、未だに支払われていなかったな」
「……」
陛下の追求に顔を真っ青にしながら顔を背けるアホラ子爵。
これだけの事をやらかしていたとは……
屋敷の中は金品が沢山あったから、罰金位直ぐに払えそうな気がしたよ。
「自分の懐から罰金を払うのが嫌で、あろうことか闇ギルドと再度結託しナシュア子爵領を自分の物とする為に大災害を引き起こした。領主夫妻の死亡も含めて想像以上の被害を出しても、貴様は知らんぷりしていたな」
「……」
はあ、アホラ子爵の魂胆がようやく分かった。
ナシュア子爵領を自分のものとしてそこから罰金を払うつもりだったんだ。
そして、更に自分は贅沢をすると。
性根からコイツは腐っていやがった。
「そして、貴様は執行猶予中の措置として貴族権限の大幅な制限を受けている。貴様は何故か顔を腫らしているが、そんなものは些細な事だ」
「ぐっ……」
あ、だからロロノア男爵がアホラ子爵をぶん殴っても、誰も何も言わなかったのか。
アホラ子爵はギリっと歯を噛み締めているが、兵によって両サイドを固められているのでロロノア男爵の方を見ることができないでいる。
「断罪に処する。カスラ男爵、クズラ男爵は共犯の割合が少ないが影響の大きさを考慮する。断絶とし領地と王都の屋敷を取り上げた上、当主は教会送りとする。夫人と長男も教会送りだ。アホラ子爵は断絶の上、全ての資産と領地を取り上げる。王都の屋敷も没収。そして、主犯のアホラ子爵現当主は死罪として首を市中に晒した上で、墓を作るのを禁じる。夫人と長男は終生孤島での強制重労働刑とする」
「ううっ……」
「罪人どもを連れて行け」
「「「はっ」」」
王が謁見の間で貴族に直接死罪を言い渡すのは、過去に遡っても殆どの例がないという。
アホラ子爵は執行猶予中の大罪というのもあって、直ぐに死刑が決まった様だけど。
連行される際も未だにギャーギャー騒いでいて、アホラ子爵は相当往生際が悪いなあ。
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