二百六十四話 避難所の設営
ナシュア子爵領に戻った僕は、再び炊き出しと治療の方に回った。
内政はルーカスお兄様も閣僚もいるし、特にやる事がないからだ。
炊き出しは一旦落ち着いたとはいえ、夕食の分も必要になる。
調理の準備は進めておき、いつでも提供できるようにする。
「お兄ちゃん、こっちは大丈夫だよ!」
「この位でしたら、私達で大丈夫ですよ」
どうもとても忙しかったのは朝の内だけで、今は治療もひと段落しているという。
ここも二人と治療兵に任せて、僕は次の現場に向かって行く事に。
次の現場は、住宅に流れ込んだ土砂の片付け現場です。
「殿下、お疲れ様です」
「うわあ、凄い土砂ですね。それに、壊れた家具も凄いなあ」
兵が分担して、土砂や壊れた家具を外に運び出している。
とても大量だし、僕の持っているマジックバックでは到底入りきれないぞ。
と、ここでおかしな光景が。
カッポカッポ。
「あれ? 馬が一頭でこちらに歩いているぞ」
「ご安心を。ちゃんと制御されていますから」
少し小さめの馬の鞍に、確かに小さい物が乗っていた。
そして、僕に気がついて触手をふりふりしていた。
「スラちゃん、馬に乗れたんだ……」
スラちゃんは、僕の言葉にドヤ顔で答えている。
そしてぴょんと馬の背中から飛び降りると、大量の土砂と壊れた家具を次々とスラちゃんのアイテムボックスにしまい始めた。
「あっ、そうか。スラちゃんはアイテムボックスが使えたのか」
「はい。ですので、運搬役としてとても助かっております。更に土砂は圧縮して土手の改修材としても使われております」
確かにこれだけの土砂や壊れた物を一気に運ぶとなると、沢山の人手が必要だよね。
スラちゃんだけで運搬役ができるとあって、兵としても大助かりだろう。
スラちゃんはある程度土砂とかをアイテムボックスに入れたら、また馬に乗って土手の方にカッポカッポと向かっていった。
うーん、馬に乗るスライムか。
僕はまだ馬に乗れないから、ちょっと悔しい。
「土砂がある程度片付けたら、今度は水魔法を使って汚れた箇所の洗浄を始めます」
「僕も水魔法を使って家を洗浄したらと思いましたが、まだ先なのですね」
「はい、集めた土砂が水で流れてしまいますので。予想以上に作業が早く進んでいますので、一部区画では明日にでも洗浄作業を開始します」
となると、ここでも僕はお手伝いできないぞ。
実は土砂を土魔法を使って何とかできないかなと試したのだけど、全然出来なかった。
ちょっと悔しさを残しながら、僕は郊外に建設中の避難所に向かっていった。
「だいぶ避難民も纏まってきましたね」
「はい。ですが、生活する上での施設がまだ足らない状況です」
テント村となっている避難所では、何とか夜露を防げる人とテントも何もなく着の身着のままの人もいる。
この状態でよく今まで過ごせてきたというところだろう。
なので、僕は兵と確認して公共施設を作り始めた。
「この辺りにお願いできますか?」
「はい、ではいきます!」
先ずはトイレを作る事にした。
不衛生なのは病気が広まる原因だから、真っ先に対応しないと。
地中深く穴を掘って、その上に洋式便器を土魔法を使って作る。
土をかなり圧縮したから、便器も結構丈夫だ。
不要になったら便器を壊して穴を埋めればいいだけだし、とってもエコです。
幾つかトイレを作って、周りに見られない様に囲いを作ります。
これも土魔法だけど、圧縮してあるからある程度の雨にも耐えます。
夜はランプを付けてもらおう。
トイレの囲いを作った原理で、今度はテントも何もない人用に簡易の部屋を作ります。
強度を持たせる為に、土壁は少し厚めにしておきます。
ドアは開けっ放しだけど、布で覆ってもらおう。
窓も作って換気もバッチリにしよう。
長屋作りで、六畳間の部屋を十個。
全部で長屋を五つ作った。
避難所とはいえ、プライベートがあった方が良いよね。
もう一つ大きめの部屋を作るが、こちらは更に頑丈にする。
犯罪者を入れておく牢屋代わりだ。
二十畳くらいの物を二つ作る。
食事を作るためのかまども作った。
勿論炊き出しもするけど、自分達で食事を作りたいという人もいるよね。
水を入れるカメは、流石に一度土魔法でカメを作ってから火魔法で焼いて作った。
水漏れもしていないし、全然大丈夫だな。
ここに水魔法で水を補充していく。
最後にお風呂を男女別に作った。
囲いを作って、湯船は先程と共に土魔法で作った浴槽を火魔法で焼いて固める。
排水の為の穴を作って、木の栓で蓋をする。
すのこは兵に作ってもらった。
「ふう、先ずはこの辺までかな?」
「いや、十分過ぎる施設です……」
一緒に付き添ってくれた兵も唖然としていたけど、辛い思いをしているからこの位は当然の権利だと思っているよ。
現に、特にお風呂にはできて直ぐに人が入って行った。
やっぱりさっぱりして疲れを取りたいよね。
「この位でしたら土魔法使いならできると思いますよ」
「はい、私も非常に参考になりました」
「現地調達できますし、後始末も楽ですね」
「早速、兵の分は私達が作っていきます」
魔法兵にも上々の評判だったので、軍でも運用を検討するという。
生活の向上は、軍の士気にも関わってくるのでとても重要だという。
先ずは避難所の生活もひと段落しそうだ。
ガラガラガラガラ。
「あっ、街道から沢山の兵がやってきたな」
「あれは、アホラ子爵を捕縛に行った部隊ですね」
「よく聞こえませんが、ギャーギャーと何か叫んでますね」
ちょうどひと段落ついた所だったので、これから第二ラウンドが始まる事になりそうだ。
僕はナシュア子爵の屋敷に向かい、準備を進める事になった。
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