二百六十二話 人為的に引き起こされた災害

「うん? ティナ様からの連絡だ。アレク君、王城にゲートを繋いでくれ」

「はい、分かりました」


 ティナおばあさまの準備も終わったのだろう。

 僕は王城内の兵がいる場所に向かった。

 ティナおばあさまとサンディの姿は直ぐに分かったのだが、ティナおばあさまの直ぐ側には不安そうにしている夫妻と少女がいた。


「アレク君、こっちよ」

「お待たせしました。こちらの方は?」

「ロロノア男爵夫妻と娘さんよ。今回被害を受けたナシュア子爵家の嫡男に娘さんが嫁ぐ予定で、今朝ナシュア子爵領から応援要請が入ったそうよ」

「そうですか、フィル様の婚約者ですか」


 僕はロロノア男爵夫妻と娘さんに現地の状況を軽く説明する事にした。


「ナシュア子爵領は、川の決壊で酷い事になっています。現在は決壊した川岸の復旧と市内の復旧にあたっています。それから、ナシュア子爵夫妻は濁流に巻き込まれて遺体で発見され現場指揮はフィル様がとっております」

「おお、何と言う事だろうか」

「アレク殿下、ナシュア子爵夫妻は亡くなったのですか?」

「はい、現場に入った軍の兵によって発見されました。フィル様は怪我はありませんが、疲労とご両親を亡くされたショックで精神的にダメージを受けておられます」

「そんな、フィル様……」


 三人はナシュア子爵領の惨状に絶句していた。

 とりあえずはと言う事で、追加の救援物資と共に僕達はナシュア子爵領の屋敷に向かった。


「「「こ、これは……」」」


 辺り一面泥まみれの市内を見たロロノア男爵夫妻と娘さんは、言葉を失っていた。

 これでもだいぶ市街地の土砂は取り除かれたんだよね。

 そして屋敷に入ると、棺桶に入っている両親と悲しみの対面をしているフィル様の姿があった。


「フィル様!」

「サ、サラさん。どうしてここに?」

「アレク殿下に連れてきて貰いました。こんな酷い事になっているとは……」


 ロロノア男爵夫妻の娘サラさんが涙が止まらないフィル様の元に駆けつけていった。

 そして、内務卿がロロノア男爵夫妻に話しかけてきた。


「ロロノア男爵、大変な時に来て頂きかたじけない。フィル殿は肉体的にも精神的にも限界にきている。少し休ませてくれないか?」

「はい、こちらにお任せ下さい。閣僚閣下には色々とお手数をおかけします」


 幸いにして屋敷の二階は洪水の被害を受けていないので、フィル様はロロノア男爵夫妻とサラさんと共に二階に移動した。


「報告します。バラバラに避難していた住民を郊外の一箇所にまとめ始めました」

「報告します。決壊した川岸の仮復旧が完了しました。しかし亀裂が入っている場所が複数あるため、引き続き対応にあたっております」


 矢継ぎ早に様々な報告が入ってきて、次の指示が飛んでいく。

 王国としてもこの規模の災害はあまり例がなく、閣僚が現地にいてとても助かっている。

 と、ここで気になる報告が入ってきた。

 

「報告します。軍用船での調査により、川の上流でダム湖が決壊しているのが確認されました」

「となると、ダム湖の決壊がこの災害の原因と見て良いだろう」

「しかし、ダム湖は岩盤が安定していて、そう簡単には決壊しないはずです。排水対策もしておりました」


 対策会議に残っている家宰の説明に、一度首を傾げた。

 では、なぜダム湖は決壊したのか。

 その原因は更にもたらされた追加報告で判明した。


「軍用船より追加報告です。山肌が崩れていて排水路を塞いでいるのが確認されたとの事です。しかし、土砂崩れの様な跡ではなく発破をかけた様なえぐれた跡との事です」

「そういう事か。人為的に土砂崩れを起こして排水路を塞ぎ、その結果で越水が起きたのか」


 いち早く農務卿が越水の原因に気がついた。

 つまり、今回の災害は人為的に起こされた事と判断されたのだ。

 するといち早く軍務卿が動いた。

 

「アレク君、王都郊外の駐屯地にゲートを繋いでくれ。周辺三貴族の領地と王都の屋敷に捜索に入る」

「はい」


 僕も周辺貴族の犯行が濃厚だとおもっている。

 何せ貴族主義の連中な上に、災害を見過ごして領主乗っ取りを計画していたのだからだ。

 直ぐに王城郊外の駐屯地にゲートを繋ぎ、軍務卿指示の下軍が一斉に動き出した。

 周辺三領地へも一個中隊を派遣し、徹底的に調査する事になった。

 こうなると閣僚の手がもう少し必要なので、宰相も呼び寄せる事に。


「召喚された領主は、王都に着き次第身柄の拘束を行おう。情報が漏れる様では、ロクに証拠保存はしておらんだろう」


 宰相も憤慨している状況だ。

 貴族間の領地を巡る紛争はあるらしいが、今回の事は遥かに紛争レベルを超えてしまっている。

 すると、三領地に向かった兵より直ぐに連絡が入った。


「軍務卿閣下、主犯と思われるアホラ子爵領にてアホラ兵と軍が交戦しております」

「早速尻尾を出しやがったか」


 軍務卿と共にティナおばあさまも立ち上がった。

 おお、ティナおばあさまのこめかみが怒りでピクピクとしているぞ。


「アレク君、早速現地に行くわよ」

「はい!」

「ルーカスはナシュア子爵領を宰相と共に取りまとめてね」

「はい、二人ともお気をつけて」


 僕はティナおばあさまとプリンと共に追加で交戦地に行く兵と馬車で向かいます。

 先ずは現地を抑えないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る