二百五十九話 レイナさんとカミラさんの妊娠発覚

 王都の五歳の祝いも無事に終了し、今年はもう大きな事業も無い。

 来年は教皇国から聖女様がきたり教皇選挙で教皇国に行ったりと忙しいけど、暫くは落ち着きそうだ。


 そんな中、ジンさんからSOSが入った。

 正確には、ジンさんの妹さんのリリーさんからジンさんにSOSが入った。

 まあ、どう考えても理由は一つしかないなあ。


「リリーから助けてくれと連絡が入った。流石に行かないとまずいだろう」

「ですよね。リリーさんが音を上げるとなると、相当の事なんでしょう」


 と言うことでちょうど休日というのもあったので、皆でレイナさんとカミラさんが花嫁修行を行っている商務卿の屋敷に向かった。

 商務卿の屋敷に行くのは僕とジンさんの他に、リズとサンディとたまたまうちに来ていたティナおばあさま。

 屋敷に着くと、早速リリーさんが出迎えてくれた。


「皆様、お待ちしておりました。先ずは中にお入りください」

「リリー、大丈夫か?」

「はい、何とか……」


 随分とボロボロになったリリーさんだが、絶対に大丈夫そうではない。

 ともあれ応接室で話を聞くことに。

 応接室には、商務卿と奥様もいたが肝心のレイナさんとカミラさんの姿はなかった。

 うーん、商務卿も何だか疲れ切っているぞ。


「すまんな、休みなのに来て頂いて」

「実は二人の事で二つ報告があるのよ」


 あの、商務卿に奥様。

 凄く深刻そうな話に聞こえるのですが。


「最初は私から話します。お義姉様は、掃除などの体を動かす系の家事はできました。ただ、じっとする物は全く駄目で、お料理だけでなく裁縫とかも駄目でした」

「ああ、それは何となく分かるぞ。二人はじっとするのが苦手だからなあ」


 最初はリリーさんからの花嫁修行の進捗具合だが、なんとなく予想は着いた。

 二人とも冒険者なだけあって、じっとするのは苦手そうだ。

 でも、それはリリーさんや奥様が大変なのはあるけど、商務卿が落ち込む理由にはならない様な気がするよ。


「二つ目はね、どうもレイナもカミラさんも妊娠している様なの」

「「「えっ?」」」

「うおー、可愛いレイナに子どもが!」


 奥様が話した二つ目の報告に商務卿を除いて皆びっくりしている。

 そして商務卿が落ち込んでいる理由が二人の妊娠だった。

 結婚式でも号泣していた位、商務卿はレイナさんを溺愛していたからなあ……


「お兄ちゃん、パパになるのよ」

「ああ、だけど急に言われて戸惑ってなあ……」


 一方のジンさんは突然の事で訳が分からない様で、父親になる事に戸惑っていた。

 二人は悪阻が酷くて寝込んでいるというので、号泣している商務卿を残して皆で部屋に向かった。

 

「あ、ジンじゃん」

「どうしたの、こんな所まで来て」

「「「……」」」


 部屋に入ると、ソファーに座って果物をもりもりと食べているレイナさんとカミラさんの姿があった。

 悪阻が酷いって聞いたのに、二人ともケロッとしているなあ。


「いや、二人が妊娠したとさっき聞いてな。悪阻が酷いとも聞いていたのだが」

「ああ、確かに食べ物によっては全くダメなのよ」

「果物なら平気で食べられるから、今はもっぱら果物を食べているのよ」

「そ、そうか。それは良かったよ……」


 ジンさんは二人が何ともないと知ると、へなへなと床に座り込んでしまった。

 そんなジンさんの様子を見て、流石にレイナさんとカミラさんもバツが悪くなってジンさんの側にやってきた。


「私達は大丈夫よ。こうして元気になったわ」

「立派な赤ちゃんを産むから、ジンも安心してね」

「ああ」


 三人はぎゅっと抱き合っていた。

 とりあえず大丈夫そうだな。

 でも、気になった事があるぞ。


「でも、お二人が妊娠しているとゲートを使って辺境伯領へ連れて行けないですよね?」

「「「あっ」」」

「そうね、ゲートでは流産の危険性があるから馬車旅になるわね。安定期までは、大人しくしているしかないわね」


 ティナおばあさまの案が一番妥当だろう。

 となると、レイナさんとカミラさんは暫くは商務卿の屋敷に留まる事になる。

 ジンさんは僕がゲートで連れて行けば問題なさそうだ。

 と、ここで奥様が娘に向かってビシッと一言。


「折角だから、安定期に入るまで様子を見ながら花嫁修行は継続ね」

「「えー!」」

「産まれてくる我が子に、自分で縫った服を着せてあげなさい。その位までできるようになってもらわないとね」

「「ひえー」」


 この様子だと、レイナさんとカミラさんは悪阻を理由に花嫁修行を休んでいたみたいだ。

 既にレイナさんとカミラさんは涙目だぞ。

 裁縫は座ってでもできるし、問題はなさそうだ。

 

「因みにお兄ちゃんは裁縫ができます。昔、私のほつれた服を縫ってくれましたから」

「簡単な物ならできるぞ。人間必要に駆られたら、できるようになるもんだ」


 あ、なるほど。

 ジンさんはリリーさんの世話をして家事スキルを身につけたのか。

 これなら、我が子に服を作るという目標があれば、きっとレイナさんとカミラさんも裁縫が上手くなるはずだ。


 ともかくとして、レイナさんとカミラさんの花嫁修行は続く事になる。

 そして、レイナさんとカミラさんが妊娠した事はあっという間に広まっていくのであった。

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