二百五十八話 色々な思惑の混ざった五歳の祝い

 メアリさんとの顔合わせも終了して、いよいよ五歳の祝いが始まります。

 僕達は陛下と共に呼ばれたタイミングで入場する事になっていて、サンディとメアリさんも一緒に入場するらしい。

 ということで、いざ入場です。


「王族並びに閣僚、エレノア王女殿下、アレクサンダー殿下、エリザベス殿下、ロンカーク伯爵、カーセント公爵令嬢が入場されます」


 舞台が整った所で、僕達は袖口から入場していきます。

 そしてそれぞれのポジションに着いたら、陛下が参加した貴族と子どもに向けて挨拶を行います。


「五歳の祝いに際し、皆が集まった事を嬉しく思う。我が子エレノアも病から無事に成長した様に、子育ては山あり谷ありだ。今日は子どもが成長した喜びを、皆で分かち合おうではないか」


 確かに初めてエレノアに会った時は毒に侵されていたし、かなりの病弱とも聞いていた。

 今じゃ、リズと共にお転婆になったよなあ。

 と、ここでグラスを持つ様にアナウンスされた。

 僕もジュースが入ったグラスを手に持つ。


「それでは、子どもの健やかな成長と国の発展を祝って乾杯する。乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 皆がグラスに口をつけて、拍手が起きた。

 さて、ここからは各貴族からの挨拶を受ける事になる。

 なるのだが、僕にとっては予想外のハプニングが続出した。


「国王陛下、王妃様、アリア様。この度はエレノア王女殿下並びにアレクサンダー殿下とエリザベス殿下が五歳になられて、私からもお祝いを申し上げます。つきましては、アレクサンダー殿下に私の娘を紹介したく……」

「「「キッ!」」」

「し、失礼しました」


 そう、僕に自分の娘を紹介しようとする貴族が続出しているのだ。

 その度にエレノアとリズとサンディが、五歳児とは思えない睨みをアホな貴族に突き刺していた。

 当然の如く、スラちゃんとプリンもアホな貴族に向けて睨みを効かせている。

 途中からは、メアリさんもリズと共にアホな貴族を睨みつける事に参加してきた。

 そして、リズ達と共にティナおばあさまも、強烈なプレッシャーをアホな貴族にぶち込んでいく。

 うん、一緒にいる娘さんは全く悪くないけどいい加減勘弁してほしい。

 僕の作り笑いも、そろそろ限界になってきました。


「はあ、疲れた……」


 ようやく挨拶ラッシュが終わり、僕はかなり疲れてしまった。

 リズ達は僕に色目を使う貴族が多すぎて、かなりプンプンしている。


「うーん、やはりアレクに狙いを定めてきたか」

「このメンバーで唯一の男子ってのもありますね」

「既にアレクの鬼才振りは国中に知れ渡っているし、正妻は無理でも側室ならって思っているのだろう」

「「「婚約者は決まっているの!」」」


 アホ貴族のあからさまな胡麻のすり方に、陛下も僕もがっくりとしてしまった。

 リズ達はぷりぷりとしながら、出された食事を食べている。

 僕がリズの立場だとしても、そりゃ怒るだろうな。


「アレク殿下、私も一緒に睨んでしまって申し訳ありません。余りにも非常識な人が多すぎて」

「あれはアホな貴族が悪いですよ。僕がメアリさんの立場だとしても、きっと怒ると思います」

「ありがとうございます。あと、私の事はメアリと呼んで下さい」

「分かった。じゃあ僕の事もアレクで良いですよ」

「今日は公式な場ですので、殿下とお呼びします」


 メアリも相当迷惑を被ってしまったな。

 あんなアホな挨拶が連発するとなると、そりゃ誰だって怒るだろう。

 

「この後は子ども同士で友情を築く場になるが、親が同行している者は避けた方がいいだろうね」

「はい、僕もそう思います。特に娘を勧めてきた貴族は、本人には申し訳ないですけどちょっと避けたいです」


 辺境伯様も助言してくれたのだが、僕だって下心のある人とは付き合いたくない。

 はあ、とため息をつきながらも交流タイムが始まります。

 といっても僕達は席を移動せず、リズ達とおしゃべりをしていた。

 そうしたら、何人かの男女がトコトコとやってきた。

 この子達は普通に挨拶してくれた所だなと思っていたら、意外な言葉をかけられた。


「「「あの、スライムを触らせて下さい」」」

「えっ?」


 大人も僕達も駆けつけてきた子ども達のお願いにびっくりしてしまった。

 スラちゃんとプリンに至っては、触手で僕? って自分の事をさしていた位びっくりしていた。

 そして、スラちゃんとプリンがやってきた男女の所にぴょんと飛び込んでいった。


「わあ、ぷにぷにだ!」

「ダンスをしているみたいだ」

「こっちのスライムは、ちっちゃくて可愛い」

「スライムの赤ちゃん見たい」


 あっという間に子ども達に囲まれていくスラちゃんとプリン。

 この場にスライムがいる事を珍しがって、陛下への挨拶の最中にスラちゃんとプリンをチラチラと見ていた様だ。

 元々スラちゃんはミカエルとかの相手をしているから、子どもの相手をするのは大得意。

 プリンも負けじとアピールしていきます。

 そして、いつの間にかスラちゃんとプリンのいるテーブルは子ども達でいっぱいになってしまった。


「この子はスラちゃんとプリンって言うんだよ」

「とっても頭の良いスライムなんだよ」

「魔法も使えるの」


 そして、いつのまにかリズ達もやってきた子どもに混じっておしゃべりをしている。

 確か辺境伯領の五歳の祝いでも、似た様な光景があったなあ。

 あの時もスラちゃんとプリンを通じて、他の子と仲良くなったっけ。

 そんな僕らの事を、陛下や王妃様にアリア様に加えてティナおばあさまも様子を見守っています。

 

「わあ、スライムが瞬間移動した!」

「小さいスライムが雷を出しているよ!」

 

 しかし、これはある意味助かった。

 最初は僕に全ての来賓の興味が向いていたけど、今はスラちゃんとプリンに人々の興味が向いている。

 お陰で僕もほっと一息付けたし、大人の思惑は関係なく子ども達が動けている。


「アレク君、後でスラちゃんとプリンちゃんに感謝しないとね」

「はい、とても助かりました。お礼を言っておきます」


 ティナおばあさまも少しほっとした表情を浮かべていた。

 やはり、度重なるアホな貴族による僕への側室発言が気になっていたのだろう。

 こうして、どす黒い大人の思惑とは裏腹にスラちゃんとプリンの活躍によって、和やかに五歳の祝いは終了したのだった。

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