二百五十七話 王都での五歳の祝いに向けて出発

 マロード男爵領と炊き出しで色々あったけど、強制的に花嫁修行をする事になったレイナさんとカミラさん以外はとりあえず落ち着いたと思いたい。

 まさかのジンさんが二人の下着も洗っている事が発覚して、特に商務卿の奥様が情けないと落ち込むと共に娘の再教育にやる気になっているそうだ。


 そして、いよいよ王都で五歳の祝いが行われる。

 今日は主役が子どもだから、いくら貴族が相手とはいえ何もないはずだ。

 という事で、僕とリズとサンディはゲートを繋いで王城に向かいます。


「おお、エレノアがお姫様みたい!」

「あら、リズちゃんもサンディもお姫様になるのよ」

「そうなんだ!」


 僕らの事をエレノアとアリア様がでむかえてくれた。

 アリア様もだいぶお腹が大きくなってきたなあ。

 エレノアは王女らしいフリフリのついたピンク色のドレスと銀のティアラを身につけていて、とってもご機嫌だ。

 そして僕達も、ティナおばあさまの部屋に移動して着替える事に。

 

「あら、三人とも可愛らしいわね」

「「えへへ」」


 もう着替えは準備されているので、パパッと着替えます。

 ティナおばあさまに褒められて、リズとサンディはちょっと照れている。

 リズはエレノアと同じくフリフリのついたピンク色のドレスで、同じく銀のティアラを装着していた。

 サンディはオレンジ色のすっきりとしたドレスで、髪の毛を綺麗に編み込んでいる。

 僕は青と白を基本とした王子様の様な服で、髪も少しセットしています。


 部屋の外に出ると、王妃様も待っていた。

 王妃様もだいぶお腹が大きくなってきたなあ。

 王妃様もアリア様も年明けから直ぐが臨月になるので、出産はもう少し後になる。

 ルーカスお兄様にアイビー様、ルーシーお姉様もそれぞれ着替えは完了している。

 そんな中、とある人物が姿を見せていない。


「あれ? 陛下はどこにいるんですか?」

「あの人は会議中よ。最後の打ち合わせね」


 王妃様が苦笑したように答えているけど、こればっかりは仕方ないなあ。

 と言うことで、先にパーティ会場に移動します。

 

「何だか五歳になる貴族って、思ったよりも多くないですか?」

「私の妊娠が発覚してから、特に下級貴族が一斉に子作りに励んだのよ。まあ、目的は分かりきっているけどね」


 控え室からそっとパーティ会場を覗き込んでいるけど、アリア様から理由を教えてもらった。

 特に爵位の低い貴族にとっては、アリア様が産んだ子どもにお近づきになれれば躍進する可能性もある。

 貴族主義の連中にとっては、婿や嫁にする事が出来れば勢力拡大の可能性もある。

 簡単に考えても、様々な理由が出てくるなあ。


「今回の参加者では、王家の他だとサンディのロンカーク伯爵が1番位が高いかな。何せ貴族当主だからね。爵位で一番上は、カーセント公爵の孫娘だったはずよ」

「後は、子爵家と男爵家が多いわ。上位貴族は、ルーカスとルーシーの時に合わせて子どもを作っていたのよ」


 サンディの他には五歳で貴族当主はおらず、爵位継承者に当たる人物もほぼいないという。

 カーセント公爵の所は孫娘だし、爵位を継ぐ可能性は少なさそうだ。

 あれ?

 そうなると、カーセント公爵の孫娘はアイビー様とは血縁関係があるのかな?

 と、ここで追加の人物が控え室に入ってきた。

 陛下と閣僚に、話に出てきたカーセント公爵と孫娘も入ってきたぞ。


「下心のある貴族はエレノアには近づけさせないが、今回はアレクとリズにも近づいてくる可能性はある。辺境伯も側に付けるが油断は禁物だな」


 陛下も色々と警戒をしてるので、今回僕達の周囲は厳重警戒する事になった。

 スラちゃんとプリンにアマリリスも僕達の護衛をする気満々なので、仮にナンバーズが攻めて来ても大丈夫だろう。

 

「ついでと言っては悪いが紹介しよう。カーセント公爵家の孫娘のメアリだ」

「皆様、初めまして。メアリと申します」

「「「宜しく!」」」


 メアリと自己紹介した少女は、赤っぽい色のショートヘアで少し大人しめの感じがする。

 この髪色はレイナさんに似ているなあ。

 髪色に近い鮮やかな赤いドレスを着ています。

 早速リズ達がメアリさんに話しかけていきます。


「実は、私の息子の所に商務卿にも嫁いだ貴族から嫁が来ているのです」

「だから、レイナとメアリはいとこに当たるのよ。アイビーとメアリは父親が違うから、こちらもいとこ同士ね」

「ちなみに軍務卿の親戚にあたる貴族から、レイナとメアリの母親が出ているのよ」

「へえ、そうなんだ」


 カーセント公爵に加えてティナおばあさまと王妃様が補足してくれた。

 だから、メアリさんはレイナさんと同じ髪色なんだ。

 そしてアイビー様ともいとこ同士となると、メアリさんは生粋のお嬢様なんだ。


「我がカーセント公爵家は男女関係なく武人を輩出しているが、メアリも魔法使いとしての素養があるのだよ」

「おお、凄いねえ!」

「いえ、私なんてまだまだです」

「謙遜しているわね。流石にアレク君とリズちゃんには敵わないけど、メアリの魔法も中々のものよ」

「へえ、そうなんですね」


 カーセント公爵が誉めると孫バカに聞こえるけど、アイビー様も言うのなら間違い無いようだ。

 うん、皆に褒められて照れてる様子を見ると、メアリさんはレイナさんとアイビー様といとこなんて全く分からないなあ。

 ふと、メアリさんが僕の方に顔を向けてきた。

 何かあったのかな?


「アレク殿下、商務卿のおじさまの所に挨拶に行ったら、レイナお姉様がヘロヘロになって家事をやっていました。詳しくはアレク殿下に聞いてくれと言われましたが、何かあったのですか?」

「「「あちゃー」」」


 あ、メアリさんは見てはいけない物を見てしまったようだ。

 事情を知っている大人は全員あちゃーって表情をしていた。

 どうやって答えようかと思っていたら、リズが話に割り込んできた。

 そして、どストレートに原因を話してしまった。


「レイナお姉ちゃんはね、お料理が下手くそだから勉強しているんだ!」


 今度は僕はあちゃーって思っていたけど、意外にもメアリさんは冷静だった。


「それなら納得です。半年前にレイナお姉様がクッキーを作るといって、真っ黒焦げな物が出てきた事がありました」

「この間も、人参をまな板ごと切っていたんだよ」

「如何にもレイナお姉様らしいですわ」


 あはは、メアリさんは既にレイナさんの料理の被害者だったんだ。

 レイナさんの料理の失敗談で、皆が仲良くなっていっている。

 とは言え、黒焦げクッキーを作る前に、何でレイナさんは自分でクッキーを作ろうとしたのだろうか。

 そしてレイナさんの父親である商務卿が、娘の失敗談で盛り上がる五歳児を見つめながらめそめそと涙を流していた。

 心中お察しいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る