二百六十話 大規模な災害?

 ジンさん達のドタバタの件も解決したので、僕達は少し平穏な日々を過ごしています。


「あうー」

「あうあう」

「はあ、赤ちゃん可愛いです!」


 今日は王都での炊き出しに参加予定なのだが、たまたま参加するメアリが侍従のお姉さんの赤ちゃんを見たいといって少しだけ連れてきた。

 メイちゃんもリラちゃんも首が座ってきたんだよ。

 メイちゃんを抱いているメアリは、目がハートになっている位デレデレした表情だ。

 

「いとこのレイナさんの赤ちゃんも、来年には抱っこできますね」

「はい、私赤ちゃんが大好きなのでとっても楽しみなんです!」


 因みに我が家を走りまくる小さな竜巻ことミカエルは、もう赤ちゃんではなく幼児にレベルアップだもんな。

 ミカエルがとてとてと一生懸命に走る姿も可愛いけどね。

 名残惜しいけど、時間なので皆で王都に向かいます。

 今日はルーカスお兄様とアイビー様に、ルーシーお姉様とエレノアも炊き出しに参加します。

 ティナおばあさまと王妃様とアリア様は参加できないので、今日の王族と関係者は子どもだけになったんだ。


「今日は普通に炊き出しができますね」

「まな板ごと人参を叩き切る先生も見たかったけどね」


 炊き出しの準備をしながら前回の衝撃映像を見ていなかったルーカスお兄様が苦笑しながら言っているけど、あの光景を見た人は忘れる事はできないだろうな。

 今日の僕は、スラちゃんと共に前回に引き続いて炊き出し担当です。

 治療班は僕以外の人が担当してくれます。

 近衛騎士としても、護衛対象が一か所にいるので守りやすいそうです。


「お兄ちゃん、今日は何を作るの?」

「今日はちゃんこ鍋とおにぎりだよ」

「あ、この前屋敷で作っていたのだね」


 今日の炊き出しメニューは、野菜たっぷりの味噌ちゃんことおにぎりです。

 おにぎりはご飯を炊いて具材を入れて握れば良いだけだし、何より辺境伯領でお米が豊作だったのでアピールもあるのだ。

 そしてマロード男爵領で麦を使った田舎みそが売られていたので、折角だから使う事にした。

 屋敷で試しに作ってみたけど皆に好評だったので、簡単にレシピを纏めておいたのだ。

 前世ではバイトで料理を作っていたけど、自分が作った料理で笑顔になるっていい気持だよね。


「スラちゃん、今日は野菜は大きめに切ってみようね」


 スラちゃんは分かったと言わんばかりに触手をふって、早速風魔法で野菜を切っていきます。

 スラちゃんは最近料理に目覚めたのか、たまに商店街で調理道具を買う様になりました。

 なんだか、スライムなのにどんどんと人間ぽくなっていくなあ。

 対してプリンはのんびりマイペース。

 今日も僕の頭の上に乗ってぐっすりと眠っています。


「お、良い匂いがしてきたな」

「今日は何も特別な事はやっていませんので。直ぐに出来上がりますよ」


 レイナさんとカミラさんの様子を見に行っていたジンさんも炊き出し現場に合流です。

 ちなみにレイナさんとカミラさんはつわりが少し良くなったら食欲が爆発しているそうで、二人が食べ過ぎない様に商務卿の奥様を中心として食事のコントロールがされてるそうです。

 さてさて、肝心のちゃんこ鍋の方は問題なく出来上がり、ご飯も炊きあがったので次々とおにぎりが出来上がっていきます。

 流石に梅干しとかはなかったので、野菜炒めとキノコの炒め物と塩のみの三種類を用意しました。


「あのぼうずの作る料理は旨いなあ」

「今回も当たりだぜ」


 前回の鹿肉入りの野菜スープにも並んだ人が今回も美味しいと言ってくれたけど、炊き出しに当たりはずれってあるのかな?

 いずれにせよ好評の様なので一安心。

 僕もスラちゃんも並んだ人への配膳を手伝っていますが、今日はおにぎりの所に注目が集まっています。


「小っちゃくて可愛いね」

「一生懸命に働いているな」


 炊き出しを食べて元気いっぱいになったプリンが、おにぎりを配るところで周りの人と一緒に配っています。

 小さなスライムが一生懸命におにぎりを配っていて、並んでいる人も思わずほっこりしています。

 そんな中、ちょっと気になる事がある。


「うーん、今日は何だか並んでいる人が多いような気もするなあ」

「そうだな。ちょっと調べてみるかか


 前回の炊き出しよりも並んでいる人が多い。

 治療に並んでいる人も多いなあ。

 前回と炊き出しをしている場所は違うけど明らかに様子がおかしいので、ジンさんが食べている人に事情を聞いてくれた。

 すると、直ぐにジンさんが他の人も呼び始めた。


「おい、この人らはナシュア子爵領からの避難民だ。十日前に大規模な水害があったらしいぞ」

「「「え!」」」


 ジンさんの報告に一同びっくり。

 とは言えこれは不味いので、僕はルーカスお兄様とジンさん共に直ぐに王城に向かった。

 今日は王族関係の大人がいなかったけど、ジンさんが合流してくれて助かった。


「軍は直ぐに調査隊の派遣を。道中の領地でも話を集める様に」


 僕とルーカスお兄様とジンさんが王城に着くと、会議室に通された。

 陛下は直ぐに軍務卿に調査の指示をだした。


「ナシュア子爵領の周囲は貴族主義の連中が多いので、援助を断った可能性が高いですな」

「そして援助を断った上に通報もしなかったと。これは由々しき事態だな」


 宰相と内務卿が話をするが、貴族主義の連中がまたもややらかした様だ。

 今回の件は国に報告されていないという。

 周囲の領地で異変があった際は国に通報するのが義務らしく、ましては今回はその領地で紛争があったわけでもなく自然災害の可能性が高い。

 面倒くさい事に手を出したくなかったのだろう。


「ナシュア子爵領までは馬車で三日はかかる。調査隊の報告で軍用船が着陸可能なら、アレクにも現地に向かってもらうぞ」

「はい、それは勿論です」


 水害があってから十日経ってしまっているけど、出来るだけ早く支援をしてあげないと。

 

「どうも晴天なのに土石流が発生した様です。確かナシュア子爵領は山沿いだったので、天然ダムが決壊した可能性もありますね」

「その辺りは軍を派遣しよう。空からなら何か分かるだろう。何にせよ、ナシュア子爵領の領民が無事に年を越せる様に支援をしないとならないな」


 大雨でもないのにいきなり土石流に襲われるなんて怖いなあ。

 何にせよ、現地の人を救わないとならないぞ。

 もうそろそろ年末だというのに、ここに来て大きな災害が発生するなんて気の毒としか思えない。

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