二百四十六話 後始末はお任せします

 ティナおばあさまは、直ぐにムノー子爵が殴り蹴飛ばした二人の様子をカミラさんに確認した。


「カミラ、二人の容態は?」

「息子の方は即死ですね。頭部に重篤なダメージを負っていました。嫁の方は重傷ですけど、治療が効いて今は容態が安定しています」

「そう、息子が死んだとなると、跡取りなしで断絶になるかもね」


 元々息子も宿の従業員に乱暴な事をしようとしたので、その息子が死んだと報告を受けてもティナおばあさまは全く顔色を変えなかった。

 ティナおばあさまの言う通り跡取りなしで断絶の可能性もあったけど、そもそもが王族や貴族に加えて現地の領主にも歯向かったのだから普通に御家断絶の可能性はあるだろう。


「魔物になったムノー子爵は、軍が回収する事になるわ。薬の成分とかを調べないとならないし」

「どうします? 夜間ですけど、王城にゲートを繋ぎますか?」

「夜間でも王城の軍の施設ならいいでしょう。あそこなら必ず誰かが起きているわ」

「分かりました。直ぐに繋ぎます」


 ティナおばあさまに確認して、王城の軍の施設にゲートを繋いだ。

 当直の兵が起きていて、ティナおばあさまが事情を話すと直ぐに体勢を整えて黒焦げになったムノー子爵の成れの果てと死亡したムノー子爵の息子をシーツで包んで担架に乗せていった。

 更には捕らえた兵やムノー子爵の息子の嫁に加えて、宿の前にもゲートを繋いで放火犯も連れて行ってもらった。

 罪状が罪状だけに、かなり厳しい取り調べが行われるでしょう。


「ティナ様、助かります。正直な所、私の手に余る物でした」

「マロード男爵、軍でキッチリと調べて結果を報告させます。当主と跡取りが死亡した状態ですが、賠償金も男爵に支払う様手続をさせますので」


 確かにマロード男爵領で起きた事件だけど、王族や貴族の殺人未遂に闇ギルドまで絡むような大事件なので、マロード男爵が処理するには厳しいだろう。

 捜査結果と賠償金はキッチリ報告しないといけないですね。


 ティナおばあさまが色々と対応してくれている内に、僕が部屋を生活魔法で綺麗にしていく。

 カミラさんの治療を受けた従業員は、他の従業員によって従業員控室に運ばれていった。

 戦闘によってごちゃごちゃになった部屋も、従業員によって片付けられた。

 とりあえず、こんなものかな?


「主人、今日は上がるがまた後日伺う。あと、現場検証で兵が残る」

「いえいえ、現場もそんなに荒らされずに済んで大変助かっております。これなら、直ぐに宿泊も可能です」


 できるだけ部屋を荒らさない様に戦ったから、ムノー子爵が僕達に投げて壊した備品以外は殆ど壊れていない。

 従業員も無事なので、高級宿の主人もほっと胸を撫で下ろしている。


「うーん、ちょっと退屈だったなあ」

「うちの宿に喧嘩を売った割には、結局小物だったな」


 冒険者のおばちゃんと宿のおかみさんは、ムノー子爵が魔物化までしたのにあっという間に倒されたのを不満に思っていた。

 確かにあんなに大騒ぎした割には、ムノー子爵は弱かったよなあ。


「ふわぁ……」

「あらあら、アレク君もお眠ね。私達も宿に戻りましょうか」


 事件もとりあえず解決して気が抜けたからか、僕眠くなっちゃったな。

 やばい、本格的に眠くなってきたぞ。

 幸いにして今いる所から宿まではとても近いから、わざわざゲートを繋ぐまでもない。

 

「よし、誰がアレク君を抱っこするかジャンケンね」

「負けませんわ」

「わ、私も参加します」


 あ、ティナおばあさまの発言から女性陣が熱いジャンケン大会を繰り広げている。

 でも、もうだめだ。

 ここは安全牌を選んでおこう。


「ジンさん、すみません……」

「おう。ほら、肝心のアレクが寝ちまったぞ。さっさと帰って寝かすぞ」

「「「えー!」」」


 ジンさんに抱っこしてもらったら、僕は直ぐに夢の中へ。

 ジンさんに向けて非難の声が上がっているけど、ここはジンさんに頑張って貰おう。

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