二百三十五話 いざマロード男爵領へ

 そして、マロード男爵領に向かう当日。


「気をつけるんだよ。これを男爵殿に渡してくれ」

「はい」

「気をつけてね」

「「はーい」」


 辺境伯様からマロード男爵宛の手紙も預かり、準備万端。

 イザベラ様にも見送られて、皆で馬車乗り場に向かいます。

 馬車で移動するのは、僕とリズとサンディにティナおばあさま。

 ジンさんとレイナさんとカミラさんに冒険者のお姉さん達。

 それに護衛の近衛騎士が二人つきます。

 因みにルーカスお兄様達は、現地に着いてからゲートを繋いで合流する予定です。

 マロード男爵領に向かう人は多く馬車には他にも乗客がいるので、二台の馬車に分かれて乗車します。


「リズちゃんも温泉に行くのね」

「そうなの! お兄ちゃんとおばあちゃんと一緒で楽しみ!」

「そうかいそうかい。男爵領の温泉はとても良い所だから、きっとリズちゃんも満足できるよ」

「おお、楽しみ!」


 一緒の馬車には、同じく温泉に行くという老夫婦も乗車していた。

 教会の奉仕作業の時にたまに治療する人だから、僕もリズもよく覚えていた。

 老夫婦の話を聞いて、リズとスラちゃんのテンションはドンドンと上がっていく。

 楽しげなリズの様子に、ティナおばあさまだけでなく乗客もホッコリとしていた。

 

「まさかここでも一緒になるとはね」

「たまには家族でゆっくりしたいものだな」

「温泉楽しみ!」

「「「ははは……」」」


 対してジンさんの馬車には、薬草採取で一緒のおばさん一家が同乗していた。

 まさかって言っているけど、絶対に一緒になる様に計画しただろう。

 この前の五歳の祝いでも一緒だった元気の良い男の子は純粋に温泉を楽しみにしているけど、ジンさん達はおばさんの行動力に空笑いをしていた。

 

 秋のとても気持ちいい気候の中、トコトコと二台の馬車は進んで行きます。

 街道も平原沿いなので特に獣も魔獣も出てこなくて、平和そのもの。

 あっという間に、中間地点の小さな村に到着です。

 小さな村と言っても街道沿いにあって辺境伯領と男爵領の中間なので、訪れる旅人や観光客が結構います。

 その為に宿屋もあって、食堂も併設されていました。

 今日は、その村にある宿屋の食堂で昼食を食べます。


「もぐもぐもぐ、美味しいよ!」


 田舎の家庭料理なのだが、なんだかホッとする味でとても美味しい。

 今日は地元の野菜とキノコの炒め物に、イノシシのお肉も出ている。

 リズも料理に大満足で、スラちゃんとプリンと共に一生懸命に食べていた。


「久々だけど、相変わらず美味しいわね」

「ここの料理は本当に美味しいわ」

「何だか、安心する感じですね」


 以前この食堂を利用した事のあるティナおばあさまと、依頼で毎年男爵領に行く度にここに寄っているレイナさんとカミラさんも、安心する味に大満足だ。

 そういえば、閣僚もこういった田舎料理が好きだから、味の虜になるかも知れないぞ。


 お馬さんも十分に休憩が取れたので、マロード男爵領に向けて再び馬車は動き始めます。


「「スヤスヤ」」


 お腹が満腹になり気温もちょうど良いので、リズとサンディはティナおばあさまと近衛騎士の膝を借りてスヤスヤとお昼寝をしている。

 スラちゃんとプリンも寝ているので、街道沿いに危険な物は全くないのだろう。

 というか、僕も少しうつらうつらとしてきたぞ。

 

「アレク君も寝て良いのよ」

「はい、おばあさま……」


 僕もおばあさまの膝を借りてスヤスヤ寝てしまった。

 眠る直前に、おばあさまがニコニコしながら僕とリズの頭を撫でてくれていたのだけ覚えていた。

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