二百三十六話 マロード男爵との会談

「わあ、綺麗な所だね!」


 辺境伯領を出発して半日が過ぎた所で、目的地のマロード男爵領に到着。

 林業と観光地が主な産業なだけあって、遠くの山には手入れがされている森が見える。

 そして、街の中心から少し離れた所に温泉街があるらしく、湯気っぽい物が立ち込めているのが分かった。

 絵になる光景に、リズも感嘆の声を漏らしていた。

 

「馬車ターミナルから領主の屋敷まで直ぐに着くぞ」

「おお、セシルお姉ちゃんのお父さんとお母さんに会えるんだ!」


 馬車を降りると直ぐに男爵様の屋敷に着くという。

 リズはセシルさんの両親に会える事を楽しみにしていた。


「もう、ルーカス達を呼んでも大丈夫ね。周りも特に不穏な気配はないし」

「分かりました」


 ティナおばあさまから言われた通り、周りに怪しい気配もないし安全だ。

 早速王城にゲートを繋いで、ワクワクしていたルーカスお兄様達をこちらに呼び寄せた。

 ルーカスお兄様達も、辺りの綺麗な景色にわーっと声を上げていた。


「じゃあ、あたしらは先に温泉宿に行っているよ」

「「「はーい」」」


 一緒に馬車に乗っていたおばさん一家は、一足早く温泉街に向かうそうだ。

 僕達はおばさん一家を見送ってから、男爵様の屋敷に向かっていく。

 馬車ターミナルの本当に直ぐそばで、僕達子どもが一緒に歩いても十分で屋敷に着いた。

 早速ジンさんが門番に話しかけている。


「おや、これはこれはジン様。今年は大勢で」

「ああ、助っ人もいるからな。あと、ティナ様も一緒だ」

「はっ? えっ? ちょっとお待ちを。領主様、領主様!」

「あっ……」

「「はあ」」


 ジンさんが門番にティナおばあさまもいると言っちゃったから、門番の一人が慌てて屋敷の中に駆け込んでいった。

 ジンさんもやっちゃったという表情になり、もう一人の門番の前なので何もしていないけどレイナさんとカミラさんからはため息が聞こえてきた。

 屋敷からは慌てた様子のご婦人がやってきた。

 そりゃ、いきなり王族が来たのだからなあ。


「ティナ様、お久しぶりに御座います」

「ハーニャ夫人、突然の訪問になってしまい申し訳ありません。今日は、孫とかと一緒に来たのですよ」

「そ、そうですか。ここでは何ですから、どうぞ中にお入り下さいませ」


 男爵夫人に案内されて、皆で屋敷の中に入っていく。

 冒険者のお姉さん達は、私たちが一緒でいいのかとちょっと戸惑っていた。

 あ、そうか。

 冒険者のお姉さん達以外は、全員が王族か貴族の当主や令嬢なんだっけ。

 でも、一緒に来てもらいますよ。


「わあ、木彫りのくまさんだ!」

「我が領は温泉と林業が主産業ですから。観光客向けに、こういったものを作っております」


 屋敷に入ると、木彫りの大きなクマがお出迎え。

 結構リアルに作ってあって、リズとスラちゃんに限らずアイビー様も一緒に木彫りのクマを見ていた。

 これでシャケを咥えていたら、本当によくある木彫りグマだな。

 応接室に案内されると、直ぐにマロード男爵もやってきた。

 二人並ぶとセシルさんの髪色とかにそっくりで、特に夫人はセシルさんに容姿も髪型もそっくりだった。

 僕は早速辺境伯様から預かった手紙をマロード男爵に渡した。

 手紙の中身に色々と今回の事を書いてあったので、マロード男爵はふむふむと納得したように手紙を読みながらうなづいていた。


「いやはや、ティナ様だけでなく殿下までお越し頂くとは何事かと思いましたが、セシルと温泉絡みでしたか」

「ここの温泉はとても良いので、いつかは孫達にもと思っておりました。ちょうど御息女と辺境伯の子息に良縁があるのと魔物の討伐もあるというので、伺ってみようとなりました」

「それはそれは、わざわざご足労頂き有難うございます」


 マロード男爵は僕達の訪問理由にニコニコとしてこちらを向いていた。

 ティナおばあさまと男爵夫人が話しているけど、雰囲気は穏やかだ。


「この前ね、マイクお兄ちゃんとセシルお姉ちゃんとお話ししたんだ。セシルお姉ちゃん、とっても良いお姉ちゃんだったよ!」

「僕から見てもお二人はお似合いだと思います。辺境伯様も了承しておりますし、リズは既に二人の結婚式を楽しみにしております」

「あら、リズ殿下も結婚式に参加してくれるのですか?」

「うん、そうだよ! おばあちゃんとお兄ちゃん達と皆で参加するの!」

「まあまあ、それは有難うね」


 男爵夫人とリズがニコニコしながら話しているけど、絶対に他の偉い人も結婚式に参加したいと言ってきそうだ。

 何せここには温泉と美味しい料理があるのだ。

 そうなったら、マロード男爵はパニックになりそうな気もするよ。


「成程、ルリアンさんとナンシーさんはご懐妊ですか。それはめでたいですね。そして、そちらのお嬢様方が助っ人として参加されるのですね」

「はい、突然押しかけてきて申し訳ありません」

「貴方達がバザール領で活躍されたという噂は、実は私も聞き及んでいるのです。その様な方に来て頂き、私どもも心強いです」

「恐縮です」


 そしてマロード男爵は冒険者のお姉さんにも丁寧に接している。

 領内に観光客が多いのもあるけど、マロード男爵は本当に低姿勢だ。

 セシルさんも良い両親に育てられたんだ。

 と、ここでマロード男爵からちょっと不安な情報がもたらされた。


「ティナ様、実は先程ムノー子爵様の一行が温泉街に向かいました」

「ムノー子爵ですか! これはまたタイミングが悪い」

「実は屋敷にも押し寄せてきまして、何故下級貴族は上位の貴族が来ても挨拶しないのかと怒鳴り散らしていきました」

「……ほう」


 あ、もしかしなくても貴族主義の貴族なんだろう。

 ティナおばあさまだけでなく、ルーカスお兄様やアイビー様も目つきが鋭くなっていく。

 

「ムノー子爵は貴族主義の中でも過激派ですので、ティナ様も十分にお気をつけて下さい。念の為に、兵に監視する様言い付けてあります」

「こちらも十分に気をつけますが、馬鹿な事をやっていたらちょっとお仕置きしてあげませんとね」


 これで皆の団らんの時間を潰されたら、間違いなくティナおばあさまは遠慮なくその子爵を潰すだろうな。

 こうして、ちょっと不穏な情報を貰いつつ男爵夫妻との面会は終了したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る