二百三十四話 来週の予定

 マイク様が婿に行く可能性が高いマロード男爵家は、僕達が住んでいる辺境伯領のお隣だ。

 定期的に馬車が出ていて、領都からも一日とかからず辿り着く事が出来るという。

 とはいえ、僕達は五歳児なので子どもだけで遠くに行ってはいけない事になっている。

 うーん、どうしようかと思っていたところ、思わぬ所から助太刀の声がかかった。

 それは皆でギルドに薬草採取に行った時だった。


「それなら俺らと一緒に行くか? 毎年秋になると、指名依頼で温泉街に出没するいのししや鹿とかを狩っているんだ」

「「やったー!」」

「あんた、何気軽に答えているの!」

「あて!」


 僕の話を聞いたジンさんが気軽に答えてしまったのだ。

 そう、気軽に。

 しかも今回ギルドには皆で来ています。

 僕とリズとサンディに加えて、ティナおばあさまにルーカスお兄様とルーシーお姉様にエレノア、そしてアイビー様もいるのだ。

 リズとエレノアはスラちゃんとプリンと一緒に両手を上げて喜んでいるが、僕としてはジンさんに鋭いツッコミを入れたカミラさんと同じ気分だ。

 

「それでは、私も二人の祖母としてついて行かないといけませんね。ルーカスとルーシーにエレノアとアイビーは、現地に着いてからアレク君にゲートで迎えに来てもらいましょう」

「「「「はい!」」」」

「あっ」

「あっ、じゃないでしょうが! ほら、こうなるでしょう!」

「あそこの温泉は貴族も泊まれる宿があるし、その前にこのメンバーに話せばこうなるでしょうが!」


 ティナおばあさまの提案に、ルーカスお兄様達も元気よく返事をしている。

 というのも、この前セシルさんから聞いたマロード男爵領の事を、ギルドに行く前にリズが皆に熱弁していたのだ。

 更にティナおばあさまも前に温泉に湯治で行ったことがあるらしく、良いところだと言っていたのだ。

 そして、マロード男爵領に行く理由を作ってしまったジンさんに対して、カミラさんとレイナさんが容赦ないツッコミを入れていた。

 とはいえ、決まってしまった事はどうしようもないので、出発は来週として予定を立てることにした。


「マロード男爵領の領主様にもご挨拶をしないといけませんね」

「そうね、元々辺境伯と男爵は親戚関係だけど、より結びつきが強くなるわ。男爵も夫人も良い人だから、何か心配する必要はないわ」


 ティナおばあさまは湯治の時に男爵夫妻とあっているらしく、感じの良い人だと言っていた。

 それならとっても安心だし、僕にとっても今後は知り合いになるので良い情報を貰えた。


 とりあえず来週の予定は決まったのですが、目の前の薬草採取という目的を果たさないといけない。

 いつものおばちゃん達に加えて、今回はバザール領の時にも活躍した冒険者のお姉さんも一緒だ。

 ここでティナおばあさまが、冒険者のお姉さん達に声をかけていた。

 勿論、来週のマロード男爵領の件である。

 

「私達にもお声をかけて頂き、有難う御座います」

「良いのよ。手は欲しいし、あなた達の実力は評価しているわ」


 ティナおばあさまは冒険者のお姉さんも一緒に来てくれと誘っていた。

 というのも、実はジンさん達はジンさんとカミラさんとレイナさんしか動ける人がいないのだ。

 実はルリアンさんとナンシーさんの妊娠が発覚して、暫く冒険者活動をお休みする事になったからだ。

 冒険者活動が出来なくても僕達の勉強を見てもらったりしているので、仕事には困らないという。

 流石にジンさん達でも三人だと厳しいので、ティナおばあさまが冒険者のお姉さん達に声をかけたのだ。


「というか、ジンも頑張って子どもを作らないと。あの温泉は子宝の効能があるらしいわよ」

「ティナ様、流石にストレートに言い過ぎでは?」

「問題ないわ、この位は。ジン、貴方は名誉貴族とは言え貴族の一員なのですから、後継者をもうけるのは貴族の義務ですよ」

「はい……」

「そうですわね、ティナ様。ほら、ジンもカミラちゃんとレイナちゃんの両親に赤ちゃんを抱かせてやる為に頑張らないと」

「そうそう、お金がないわけじゃないし、子沢山でないとね」

「努力します……」


 そしてジンさんはいつの間にかティナおばあさまと一緒にきているおばさん達に囲まれて、ボロボロに言い負かされている。

 ルリアンさんとナンシーさんの妊娠発覚もあってか、ティナおばあさまとおばさんは今日は遠慮なく言っているよ。

 ジンさんは既に大ダメージを受けていて、返事も適当になっている。

 因みにカミラさんとレイナさんは、自身に飛び火するのを避ける為に、冒険者のお姉さん達とガールズトークに励んでいた。


「俺は、もう、駄目だ……」


 いつもの薬草採取の場所に来たけど、ジンさんはティナおばあさまとおばさんの集中砲火をくらってもうクタクタになっていた。

 スラちゃんの看護を受けながら、僕が出したシートに横になっていた。

 そんなジンさんを横目に、薬草採取を開始する。


「アマリリスが次から次へと薬草を見つけてくれますわ」

「流石は薬草を主食としているだけあるね。凄いね」

「直ぐに籠がいっぱいになるよ!」


 アイビー様の従魔であるアマリリスがどんどんと薬草を見つけるので、一緒に探しているルーカスお兄様とルーシーお姉様の手元には、紐で括られた薬草が束になっていっている。


「お、こっちにもいっぱいあるよ!」

「リズちゃんは本当に薬草を見つけるのが上手ね」

「えへへ!」

 

 リズは、いつも勘で大量に薬草を探し当てるスタイルだ。

 こちらも豊作の様で、一緒に薬草を採っているティナおばあさまとエレノアとサンディも大量に薬草を採っていた。


「どっせーい。ははは、思いがけない収穫だね」

「秋で動物も餌を求めているんだね」


 僕はある程度量を採ったら近衛騎士と共に皆の護衛にまわったけど、おばさんがたまたま遭遇したイノシシを二匹倒してご満悦だった。

 うーん、おばさんは相変わらずの大迫力だなあ。

 豪快にイノシシをメイスでぶっ飛ばしたよ。

 早速プリンがイノシシの血抜きを始めている。

 他にもオオカミとかを倒したので、獲物もそこそこ取る事ができた。

 僕としても大満足だ。


「うーん、うーん」

「駄目だこりゃ」

「アレク君、悪いけどうちにゲートを繋いでくれる? 寝かせてくるね」

「あははは、はい、分かりました」


 因みにジンさんは帰るまで復活しなかった。

 流石にカミラさんとレイナさんも呆れていて、さっさと屋敷のベッドに寝かせに行っていたのだった。

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