二百三十三話 マイク様の恋人
「ははは。いやあ、出てきた罪状が多すぎて取り調べが大変だよ」
「どれだけの事をしでかしていたのですか……」
僕の暗殺計画を仕組んだコールセン伯爵が捕縛されて一週間。
王城での勉強の合間に会った軍務卿から、捜査の進展を教えて貰った。
既に僕の暗殺を指示した書類がでてきたから、反逆罪は確定しているという。
更に秘密裏に様々な犯罪に手を出していた事が分かり、全ての罪状を調べるのがかなり大変だという。
軍務卿曰く、反逆罪がなくても他に出てきた罪状で余裕でお家取潰になるそうだ。
うん、こればっかりは何も言えないな。
既に妻と子どもたちは、妻の実家に戻されているという。
そして当たり前というか、貴族の五歳の祝いには参加できなくなった。
「捕まっていた男爵の家族も無事に解放できたし、無理やり止められていた資金も戻った様だ。どうも男爵の経営する商店の売上を奪った様だね」
「普通に誘拐監禁に強盗じゃないですか」
「しかも誘拐に闇ギルドの構成員が絡んでいたよ。でなければ、伯爵の手の者だけで誘拐はできないしね」
貴族というより犯罪組織になり下がるなんて、これで貴族主義のトップに立っていたらとんでもない事になったぞ。
元々祝いの席での襲撃を考えている辺り、まともな人材ではないとは思っていたけど。
「とはいえ、貴族主義の連中のごたごたはまだ続いている。軍も当面は監視を続けないといけない」
「そこは軍務卿にお任せします。よろしくお願いします」
軍務卿と別れて勉強部屋に戻る。
うーん、今回の貴族は情報管理がキチンと出来ていなかったので事前にやろうとした事が分かったけど、キチンと情報管理をする貴族だったら襲撃されるまで分からなかったかもしれないな。
そんな事を思いつつ、皆の所に戻った。
「リズ、サンディ、準備出来た?」
「ばっちり!」
「いつでも大丈夫です」
部屋に入ると、帰り支度を済ませている二人の姿があった。
時刻は夕方なので元々屋敷に帰る時間なのだが、今日は屋敷に帰る前に一か所よるところがあるのだ。
「では、本日はこれで帰ります」
「気を付けて帰ってね」
「「はーい」」
ティナおばあさまに見送られて、僕は王城から王都の辺境伯様の屋敷にゲートを繋ぐ。
今日はエマさんとオリビアさんから、是非屋敷に来てくれと連絡があったのだ。
因みに、この場にいないルーカスお兄様を始めとした面々は、王妃様より追加宿題を出されて別部屋にいます。
あまりエマさんとオリビアさんを待たせたらいけないので、ティナおばあさまに帰りの挨拶をしてゲートをくぐります。
「「「こんにちは」」」
「はい、こんにちは。中にどうぞ」
「「「有難うございます」」」
屋敷の前に着いたら、いつもいる門番さんにみんなで挨拶をして屋敷の中に入ります。
「「「こんにちわ」」」
「お、良いタイミングにきたね」
「いらっしゃい、少しここで待っていてね」
「「はーい」」
屋敷に入ると直ぐにエマさんとオリビアさんが出迎えてくれた。
二人とも学校から帰ってきて時間が経っているのか、既に私服に着替えていた。
玄関ホールで待っていてくれとオリビアさんから言われたけど、一体何があるんだろうか?
そう思っていたら、玄関のドアが開いて入ってくる人がいた。
「ただいま」
「お邪魔します」
「「あ! マイクお兄ちゃんに彼女が!」
「「あっ……」
玄関ホールに入ってきたのは学園帰りの制服を着たマイク様。
そのマイク様の横には清楚なロングヘアの小柄な女性が。
うん、僕もマイク様の彼女だと思うけど、リズとサンディに加えてスラちゃんとプリンも二人の事を指ささないの。
状況が分かっていない人が多いので、エマさんとオリビアさんの案内で応接室に移動する。
若干エマさんの顔が小悪魔の様に見えたのは、きっと気のせいだと思いたい。
「初めまして、マロード男爵家のセシルと申します。どうぞ宜しくお願いします」
「うちの領のお隣さんだ。まあ、その、彼女になる」
「おお! マイクお兄ちゃんが照れる!」
セシルさんが挨拶をしてくれた後、マイク様が彼女と照れながら紹介してくれた。
リズにスラちゃんよ、せっかく紹介してくれているのだからマイク様を冷やかさないの。
「マロード男爵領は昔から辺境伯家と付き合いがあって、セシルさんとも小さい頃からの顔見知りなの」
「でも、こっそり隠れて付き合っていたんだよ。学園では生徒会長はずっと婚約者も恋人もいないから、男色疑惑が流れていたんだよ」
「その噂、初めて知ったのだけど……」
「お兄ちゃんに言えるわけないでしょう!」
「男色疑惑が流れてから、私達の所にも噂の確認をしにくる人がいたんだから」
あー、自分の兄に男色疑惑が流れていたら居た堪れないよね。
そういうのが好きな女性にとっては堪らないよな。
「昨日、お父様とお母様への紹介も終わったのよ。二人ともとても喜んでいたわ」
「セシルさんの所は男子がいないのでマイクお兄ちゃんが婿に行くのだけど、お隣だし昔からの付き合いもあるし何も問題ないとお母様が言っていたわ」
「母親にとっては、良くわからない所と結婚するよりも安心だというわけですね」
「マイクお兄ちゃんおめでとう!」
「おめでとうございます」
「はは、有難うね」
セシルさんはとても良い人だし、家族も了承しているなら何も問題はない。
辺境伯領に接しているっていうのも大きいのだろうね。
「セシルさんの所はどんな所ですか?」
「農業と林業が主な産業です。幸にして辺境伯領という大きな消費地が近くにありますので、領民の生活は安定しているといえましょう」
「領民の生活が安定しているのは良い事ですね」
「そうですね。アレク殿下が提案したという高地農業にも取り組んでおります」
「僕の提案が活用されていて、びっくりしています。それから、僕の事はアレクと呼んでください」
「そうそう。マイクお兄ちゃんのお嫁さんになるんだから、リズの事もリズっていいってね」
辺境伯様の所も僕達は家族だって思っているから、セシルさんに呼び方については一緒にして欲しいとお願いした。
直ぐにリズも続いたので、セシルさんも頷いてくれた。
「では、マイクさんと同じくアレク君とリズちゃんとサンディちゃんと言わせて意頂きます」
「「はーい」」
「あ、我が領でもう一つ紹介しないといけないものがあります。少し山沿いになりますが、実は温泉街があります」
「「温泉!」」
「あ、私も小さい頃に温泉に行った事があるよ。とっても気持ち良い温泉ですね」
「そうでしたね。山の幸も美味しくて、イノシシ鍋は絶品でした」
「「美味しい料理!」」
あ、温泉のネタになったらリズとサンディとスラちゃんのテンションが爆上がりだ。
うちの家族は、皆お風呂大好きだからな。
それに美味しい料理もあるとなると、気になるのは当然か。
プリンは、どちらかというと料理に興味を持っていた様だ。
「お兄ちゃん、辺境伯様に聞いて今度行ってみようよ」
「そうだね。一度現地に向かえばゲートを使えるし、マイク様が婿に行く領地だから挨拶に行くのもいいね」
「どんな場所か、とっても楽しみ!」
「そっか、アレク君がいると直ぐに男爵領に行けるね」
「エマ、アレク君を馬車代わりにしないの」
マイク様とセシルさんはいきなり僕達が押しかけた状態で最初はアワアワしていたけど、最後の方はとっても和やかな雰囲気になった。
結婚とかの話はまだまだだけど、僕から見た感じ二人は良いカップルに見えた。
と、ここでリズが爆弾発言をしてきた。
「ねえ、マイクお兄ちゃん。ジェイドお兄ちゃんの様にいつになったら赤ちゃんできるの?」
「ブフォ、えーっと結婚してからだよ。兄貴もそうだっただろう?」
「そうなんだ」
「すみません、リズに悪気はないんです」
「いいさ。兄貴の所の事もあるし、リズちゃんはまだ五歳だからな」
「うん?」
リズは良く分かっていないけど、今の発言は良くないぞ。
セシルさんが顔を真っ赤にして下を向いちゃったぞ。
僕はマイク様に謝っておくのだった。
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