二百三十二話 教皇国を巡るお話

「あれ? お兄ちゃん、スラちゃんとプリンは?」

「ティナおばあさまと軍務卿と一緒にお出かけしてくるって」

「ふーん、そうなんだ」

「それよりも、ちゃんと勉強した?」

「バッチリ!」


 会議が終わって勉強部屋に戻ると、課題を終わらせて少しゆっくりとしているリズ達がいた。

 僕と一緒に会議に出ていたスラちゃんとプリンが僕の側にいないのだが、ティナおばあさまと軍務卿と出かけたのは間違いない。

 そう、あくまでもお出かけなのだ。


「午後はどうするの?」

「また会議に呼ばれているから、そっちに出るよ」

「「「「「えー!」」」」」


 あ、僕が午後も会議に出ると言ったら、女性陣から不満の声が上がった。

 僕やルーカスお兄様が会議中は、皆お勉強タイムだからなあ。

 食堂に移動して皆で昼食を食べたら再び会議なのだが、今回は外務卿との会議だ。


「お待たせしました。今回は皆さんも会議に参加しますよ」

「「「「「はーい!」」」」」

「「あはは……」」


 外務卿が僕達の事を出迎えてくれたけど、勉強しなくていいのが分かったらとたんに女性陣が元気になった。

 女性陣の現金な様子を見て、思わず僕とルーカスお兄様は呆れてしまったぞ。

 会議室に移動すると、陛下も待っていた。


「今回は全員に関わることだ。実は来年の春頃に、教皇国から聖女様が我が国にやってくるのが決まったぞ」

「聖女様は十二歳。皆さんよりも少し年上ですが、歓迎式典とかでも一緒に行動することが多いでしょう。仲良くしてあげて下さい」

「「「「「はーい」」」」」


 来年だとそこまでイベントが多いわけではないので、僕としても全然オッケーだ。

 特に女性陣を中心にして、歓迎ムードが高まっている。

 しかし、話はそれだけではなかった。


「ここからの話は他言無用だ。実は聖女様が我が国に来るのは、一種の国外避難も兼ねている」

「国外避難、ですか?」

「そうだ。教皇国内も権力争いがあってな、そこに聖女様も巻き込まれているのだ」


 おっと、いきなりキナ臭い話になってきたぞ。

 皆も真剣な表情で、陛下と外務卿の話を聞いている。


「実は教皇国内には、聖女様の他に聖女候補が存在している」

「つまる所、聖女様の代わりなどいくらでもいるので、聖女の存在は常に派閥争いにも利用されているのです」

「そんな、人を物の様に扱うなんて……」


 ルーカスお兄様が憤慨しているけど、散々人の嫌な側面を経験してきたからな。

 アイビー様も話を聞いて、プリプリと怒っている。

 と、ここでこの場にいないはずの人が入ってきた。


「そこから先は、私も説明するわ」

「あれ? ティナおばあさま、それにスラちゃんとプリンとアマリリスも。何でここにいるんですか?」

「もう終わったからよ。全く歯ごたえのない奴らで不満が溜まるだけでした」

「「「「「?」」」」」


 ティナおばあさま達がどこで何をしていたのか知らない女性陣は、全く分からないといった顔をしていたけど、午前中会議に出ていた僕やルーカスお兄様に陛下と外務卿はただ苦笑するだけだった。

 戦果は聞くまでもないだろうな。


「数年前に教皇国を訪れた際に、今の聖女様とあった事があるわ。孤児院出身でとても心が優しい女の子よ」

「あ、もしかして孤児院出身だから権力争いに巻き込まれたのですか?」

「元々、後ろ盾がないからですか?」

「アレク君とルーカスは分かったみたいだね。他の聖女候補は有力者の娘が多い。今の教皇様は平民から絶大な信頼を得ていて、同じく孤児院出身の聖女様も平民からの支持が高いのよ」

「だけど、他の有力者の後ろ盾がないから、何かあったらあっという間に聖女様ではなくなってしまうと」

「そういう事なの。聖女っていうのは一種の役目だからね」


 ティナおばあさまの言うことが理解できた。

 とはいえ、それは他国の事だしこちらとしても手出しができない。


「そして、現在の教皇様は高齢の為に来年夏に教皇の地位を退かれる事を公表している。次期教皇を巡る争いが起きる前に、聖女様をこの国に避難させる事にしたのだろう。仮に聖女の地位を退いても名誉聖女という事になるのだかな」

「うーん、その話を聞く限り、来年は教皇国関連で一波乱ありそうなのですが」

「その可能性は考慮に入れないとならない。何せ教皇を選ぶには各地の司教以上の投票を行うのだ。その為に、選挙を行う度に血生臭い事が起きているのだ」


 うーん、国家代表を決めるだけでなく各地にもある教会のトップを決めるのだから、それだけ激しい争いになるのだろう。

 新教皇が誰になるか次第では、国同士の関係が悪くなる事も想像されるぞ。

 

「因みに、選挙には投票権は無いが各国の代表も参加する。来年の選挙には、アレクと閣僚に行ってもらうぞ」

「え! 僕ですか?」

「仕方ないだろう。来年は子どもも産まれるし、余も下手に動けぬ」

「それに、以前から教皇国からアレク君とリズ殿下を招きたいと言われていますので」

「絶対にゴタゴタに巻き込まれそうですよ……」


 教皇国に行かなくて済むルーカスお兄様とアイビー様は、明らかにほっとしていた。

 もう聖女様をこの国に逃がすような状況を聞いただけで、ろくでもない事が起きそうだぞ。


「まだ暫く時間はある。常に現地在住の者から情報は仕入れている。半年の間に、情勢は変わっている可能性もあるぞ」

「僕としては、是非情勢が変わっていて欲しいです」


 僕は、がっくりとしながら陛下からの話を聞くのだった。

 

 これで午後の会議は終了。

 因みに、午前中話のメインだった僕への暗殺計画の件は、ティナおばあさまやスラちゃん達が出る幕もなくあっという間にけりがついたそうだった。

 奇襲的にやったのもあるけどほぼ無抵抗だったらしく、大騒ぎした主犯格の伯爵のみスラちゃんにお尻を触手でさされてティナおばあさまにボコボコにされ、アマリリスに糸でグルグル巻きにされたあとにプリンの電撃で気絶したそうだ。

 うん、主犯格とはいえ伯爵だけやり過ぎだと思うぞ。

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