百八十七話 共和国首都制圧と忌々しい過去の事件
「ふう、冷静になりましょう。テイマーの死体は分析しないといけないから、回収しましょう」
「はい、直ぐに回収します」
ティナおばあさまは少し頭を振って冷静になり、直ぐに近衛騎士に指示をだした。
近衛騎士も準備を終えていて、魔法袋にテイマーの死体を回収した。
何だか人間じゃなくて動物の死体だな。
「私達も屋敷の中を確認しましょう」
「「はい」」
そして、ティナおばあさまについていき、屋敷の中に入って行く。
さっきテイマーが玄関扉を壊したときに怪我した人は、もう全員手当を受けていた。
治療は大丈夫だと言うことで、そのまま屋敷の中を進む。
すると、町長が出迎えてくれた。
「おお、外の戦いをみておりましたぞ。正しく双翼の天使様に華の騎士様に相応しい強さで、皆惚れ惚れしておりました」
どうやら窓の外で起きていた戦闘を集まった人が見ていたらしく、町長もかなり興奮していた。
「町長、ブッフォンはどうなりましたか?」
「ふふふ、こちらを見てください。面白い姿が見れますぞ」
町長の案内で歓迎会が行われていたホールに向かう。
そこには他の有力者とサンラインさんとクレイモアさんが、とある人物を取り囲んでいた。
「ぐーがーぐーがー」
「凄いね、怪物の様なイビキだね」
「「「ぶっ」」」
ブッフォンは、手足を縛られて担架に乗せられた状態でいびきをかいて爆睡していた。
ブッフォンのいびきを怪物と例えて、そこにいた人は皆噴き出していた。
「いやはや、最初にあったときから既に顔色が悪く、乾杯で一口飲んだらいきなり寝始めましたから」
「寝室のワインをすり替えたのが、かなり効果的だった様ですね」
スラちゃんがドヤ顔でいるけど、今回は確かに大手柄だ。
「既に部隊の半分は他の施設を抑えに向かっている。拘置所が抑えられたら、直ぐにブッフォンを放り込むさ」
「サンラインさん、ブッフォンはこれからどうなりますか?」
「間違いなく死刑だろう。既に何人もの人を毒殺している。酌量の余地はないさ」
「では、こちらを。僕の誕生日にブッフォンから贈られた飲み物一式です」
「うむ、大切に預かろう。これも大切な証拠になる」
サンラインさんは色々決着したと報告してくれた。
僕も少し肩の荷が下りた気がした。
そういえば、ブッフォンにいたずらされた子どもはどうなったのだろうか?
「ブッフォンにいたずらされていた子どもはどうなりましたか?」
「大丈夫だ。全員助け出して、診療所に送った。心に大きなダメージを負っているから、十分なケアをしてあげないと」
流石にこの時ばかりは、サンラインさんもクレイモアさんも他の人も怒った表情だった。
リズも怒っているな。
「報告します。拘置所を制圧しました。また、ブッフォンの親衛隊も全員捕縛しています」
「よし、直ぐに関係者を運ぼう。特にブッフォンと幹部は厳重な監視をつけるように」
「了解しました」
兵が入ってきて、主要施設の制圧は終わったと報告してきた。
早速担架に乗せられたブッフォンは、拘置所に運ばれていった。
まだ凄いいびきをかいているぞ。
ブッフォンが運ばれている所を見ていると、町長が話しかけてきた。
「実は有力者や他の辺境から軍を派遣してくれる事になった。早いところでは、明日にも一部が到着するだろう」
「じゃあ、この前レイクランド辺境伯を襲った兵も、その時に送った方が良いですね」
「拘置所の収容人数もあるから、その方が助かるな」
兵が首都に到着すれば、一段落する様だ。
僕達は町長と別れて、軍務卿や外務卿の所に向かった。
町長の屋敷の前に戻ると、レイクランド辺境伯様と軍務卿と外務卿が立ち話をしていた。
三人とも僕達の事に気がついたのか、僕達に手を振っていた。
「お待たせしました。無事にブッフォンは連行されていきました。テイマーも倒しました。明日には有力者の軍も来るそうです」
「そっか、それは上々だな。軍の件は私も聞いている」
「王国に入ってきた兵も送り返すのだが、それも明日だっけな」
「あ、はいそうです」
「こちらの撤収は、兵が着いてからでいいな」
軍務卿とレイクランド辺境伯様と話をしたけど、軍の事は既に連絡がいっていたんだ。
そんな中、外務卿がティナおばあさまの様子がおかしい事に気がついた。
「ティナ様、いかがなされましたか?」
「どうもこうもないわ。危うく十年前の惨劇を繰り返す所だったわ」
「ティナ様、それってまさか」
「そうよ。薬にドクターにピエロと言えば分かるでしょう?」
「忘れたくても忘れられる事はないでしょう。あの惨劇の事は」
外務卿も思わず下を向いてしまった。
十年前に一体何があったのだろうか?
その答えは、報告に向かった王城で判明した。
ティナおばあさまが陛下に簡単に報告した時、陛下の考え込んだ表情が印象的だった。
そしてホーエンハイム辺境伯様も呼んでくれと頼まれた。
「あの忌々しい事件からもう十年も経ったのか……」
会議室には多くの人が集まっていた。
ビクトリア様にアリア様、ルーカスお兄様にルーシーお姉様にエレノアもいる。
「特にルーカスとアレクはよく聞くがいい。十年前の出来事を」
「「はい」」
陛下から言われたので僕とルーカスお兄様は姿勢を正した。
陛下は、その様子をうんうんと頷きながら見て話し始めた。
「今から十年前、闇ギルドが主導で起こしたと思われる紛争が各地で起きた。それこそ王国だけでなく帝国や共和国に教皇国もだ」
「そうね。国の支配に不満を持つ者を、闇ギルドが支援する形で紛争が始まったわ」
「当初は直ぐに鎮圧できると思ったのだが、思ったよりも激しい戦いになってな。今となっては、闇ギルドが新たな兵器のテストをしていたというのも分かっている」
「そして、あの事件が発生したわ。そうね、今日の様な夏の初めの頃だったわ」
ティナおばあさまも話に加わり、事件の事が語られ始めた。
「王国内のとある場所に、闇ギルドのメンバーと手を組む貴族がいると情報が入ったわ。私は夫と共に子どもを王城に預けて現場に急行したのよ」
「その時は、私も軍の幹部の一人として参加した。確かに闇ギルドのメンバーはいたよ。しかも、ドクターとピエロがな」
「ドクターは人体実験をしていたのよ。薬を使ってね」
「ティナおばあさま、それってまさか」
「今日テイマーが使った薬の様な物よ。ただ、その時使っていた薬は失敗したみたい。薬を飲んだ人が突然苦しみ出したと思ったら爆発したのよ。爆発に巻き込まれて、多くの人が死んだわ。私の夫は、私を庇って死んでしまったわ」
「アレク君とリズちゃんが倒したテイマーの体の中に魔石があったと聞いている。あの時は、何らかの力を魔石化しようとして上手くいかずに爆発した様だ」
「そんな事があったんですね」
「人の命を何とも思っていないのですね」
僕とルーカスお兄様のつぶやきに、ハンカチで目尻を押さえているティナおばあさまが頷いた。
リズとエレノアは、ティナおばあさまにギュッと抱きついている。
「人を魔物に変える悪魔の薬。テイマーの言動がおかしい所を見ると、なにかの薬を事前に飲まないと魔物に変わらない様だな」
「人を魔物に。だからあの時テイマーを鑑定したら、種族が魔物と表示されたのですね」
「ああ、魔物の特徴は体に魔石があることだ。ゴブリンとかにも小さな魔石があるぞ」
人から魔物に変える禁断の薬。
それが出来上がったのかもしれない。
「現在確認されている闇ギルドナンバーズは、テイマーとドクターとピエロに、オカマとスキンヘッドの五人。今回テイマーを倒した事により、残りは四人となった」
「オカマとスキンヘッドはまだ人の話が分かる。しかし、ドクターとピエロは本当の悪だ。目的を達成するためには、手段を選ばない」
「確かにドクターとピエロはそんな感じでした。人を馬鹿にするような、そんな話し方でした」
陛下と軍務卿の話も僕はよく分かる。
ドクターとピエロはテイマーの死のことはどうでも良くて、あくまでも薬が上手くいったとしか見ていなかった。
とても危険な感じしかしなかった。
「今回の件は、共和国を使った実験だったのかもしれない。そうでなくても、毒を購入する為にブッフォンから闇ギルドに沢山の金が流れただろうな」
「闇ギルドにとっては、テイマーが死んでも痛くも痒くもないのかもしれませんね」
「金が手に入った上に薬の有効性を実戦で試せたのだ。テイマーの死くらい何も問題無いだろう」
何れにせよ、闇ギルドが何をしたいのか確認しないと。
それでないとこちらも対抗できないぞ。
しかし、ドクターの薬の知識はとても気になる。
この世界では、そこまで薬の知識が発達していないからだ。
しかも白衣まで着ていた。
うーん、嫌な事しか思い浮かばないぞ。
会議も終わり、それぞれの人を送っていった。
僕とリズとティナおばあさまも撤収が明日なので、今日まではレイクランド辺境伯様の屋敷にお邪魔する事になった。
「おばあちゃん。色々な人が死んじゃって寂しくない?」
「そうね、特にアレク君とリズちゃんに会える前までは寂しかったわ。でも、今は二人がいてくれるから寂しくはないわよ」
「でも、無理しないでね」
「ええ、有難うね。アレク君とリズちゃんがいてくれて良かったわ」
僕とリズは、ティナおばあさまとそんな事を話しながら眠りについた。
僕はずっと家族と呼べる存在がなかったから、リズとティナおばあさまの存在は有り難いな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます