百八十六話 対テイマー戦第ニラウンド

「グルガー!」

「なになに? この魔力は」


 突然テイマーから湧き上がる強大な魔力。

 僕達は、腕で魔力の余波を防ぎながらテイマーを見ていた。


「え、腕が生えてきたよ!」

「なんだろう、魔力が人間って感じじゃない!」

「皆気をつけて、動くわよ」


 ゆっくりとテイマーが立ち上がると、魔導具だった杖の爆発で千切れていた左腕が再生している。

 更に、筋肉も発達してきて何だか異様な姿になってきた。


「グルガアー! ハアハア」


 まるでテイマーは狼の遠吠えの様に叫んだ後、僕達を睨んできた。

 その姿は人間ではなく魔物そのものに見えた。

 顔なんて、今までのゴブリンに似ている風貌から鬼みたいになっている。

 目も血走っていて、まともな状態ではないのか直ぐに分かった。

 しかも鑑定したら、とんでもない結果が表示された。


「フウフウ、ウガー!」


 ブォン、ガキン!


「お兄ちゃん?」

「ぐっ、なんて威力だよ」


 予備的に魔法障壁を張っていて助かった。

 テイマーがとんでもない勢いで突っ込んできて、パンチを繰り出してきた。

 少し勢いに押されたけど、体勢は大丈夫。


「はっ!」


 ヒュンヒュンヒュン。


「グエ?」

「くそ、皮膚も固くなっている」


 一瞬の隙をついてティナおばあさまが連続の突きを繰り出すが、テイマーには殆ど効いていない。

 身体能力がかなり上がっている。


「リズ、合体魔法の準備を。スラちゃんとプリンでテイマーを牽制して」

「私も攻撃するわ」

「私はお二人を守ります」


 ここは一気に畳み掛けた方が良いと思って、リズとの合体魔法を仕掛ける事にした。

 スラちゃんとプリンにティナおばあさまがテイマーを牽制しながら攻撃している。

 

「グオ、ウガー!」

「もう、まるで野獣ね」


 テイマーの動きは素早いけど、単調なので避けるのは難しくない。

 腕を振り回すだけで、本当に野獣の様な動きだ。

 ティナおばあさまのつぶやきもよく分かる。

 

「魔力が溜まりました」

「オッケーだよ」

「ええ、やってお仕舞いなさい」

「グガーーー!」


 僕とリズの魔力が溜まったので、前線の三人に呼びかけた。

 ティナおばあさまとスラちゃんは素早く避けて、プリンは電魔法をおみまいしてから下がった。

 どうやら魔法は普通通りに効くみたいで、テイマーはかなりのダメージを受けている。


「いくよ」

「うん」

「「えーい!」」


 プリンが離れた所を見計らって、僕とリズは合体魔法を放った。

 

「グオーーー!」


 テイマーはプリンの雷魔法で体が痺れていて殆ど動けず、僕とリズの合体魔法をモロに受けていた。


 ズドーン。


 僕とリズの合体魔法がやむと、テイマーは断末魔の様な叫び声を上げながら後ろ向きに倒れ込んだ。

 お腹に大きな穴が空いていて、全く動かない。

 すぐさま近衛騎士が確認に向かった。


「大丈夫です。死んでいます」

「ただ、異様な姿です」


 近衛騎士は、生死の確認が終わるとおかしい所に気がついた。

 皆が近づき見守る中、近衛騎士がテイマーの穴の空いたお腹の上を剣でさしていた。


「なんだろう。この塊は。魔力が集まっているよ」

「これは魔石よ。やはりあの薬を飲んだからだ」


 ティナおばあさまは何かを知っている様だ。

 思い出したくない何かを。

 すると、僕達の頭の上から声がしてきた。


「ほほほ、流石は華の騎士様だ。思い出されましたかな?」

「うむ、改良型はそれなりに良いようだな」


 空中に浮かんでいて、時々姿にノイズの様な物が入っている。

 一人は白衣の様な物を着ていて、まるで医者の様だ。

 もう一方は、サーカスのピエロの様な半分に割れた仮面を着けている。

 ティナおばあさまは、その二人をキッと睨みつけた。


「ドクター、ピエロ!」

「覚えて頂いて光栄ですな」

「いやはや、十年振りでございますね」


 二人はティナおばあさまに恭しく挨拶をするが、ティナおばあさまは怒りがおさまらない。

 二人に向けて風魔法を放ったが、魔法は二人をすり抜けてしまった。


「これはただの映像です。姿だけ表しているのですよ」

「テイマー如きではあなた達に勝てないと思いましたが、良いサンプルが取れました」


 言うだけ言って、二人の姿が薄くなっていく。


「またお会いしましょう。今日は、懐かしい再会に嬉しく思います」

「今度は戦場でお会いしましょう。それまでお体をご自愛下さいませ、華の騎士様」

「まて、逃げるのか!」


 そして、二人の姿は完全に消えてしまった。

 ティナおばあさまは、二人が消えた空中を睨みつけていた。

 いつも優しいティナおばあさまが、ここまで激しい感情を表すなんて初めてだった。

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