百七十八話 共和国からの書状
事態が大きく動いたのは四日目の事だった。
「どうも斥候の情報では、レイクランド辺境伯に共和国の斥候が入れないのが相当痛いみたいだな」
「スラちゃんの手柄ですね」
「スラちゃんすごーい!」
朝食時に軍務卿が共和国の動きを教えてくれた。
スラちゃんは連日不審者を検挙してるので、これが共和国側に結構なダメージとなっている様だ。
僕とリズがスラちゃんを褒めると、スラちゃんはドヤ顔になっていた。
「しかし、その為に本格的に私兵が動き始めた様だ。少なくない人数が国境に向かっているという」
「争いは避けられそうにないですね」
「私も紛争が起こる可能性は高いと思う。この後で部隊を国境に追加する事が決まっている」
軍務卿からの話に、食事中の全員が静まり返った。
共和国側が兵を動かしているのは間違いなさそうだからだ。
そして追加でもたらされた情報が、事態を大きく動かした。
「領主様、お食事中に失礼致します。国境に共和国側の使者という人物が現れました」
「ふう、共和国側も動き出したか。こちらも迎え撃つとしますか」
「そうですな。さて、どんな相手が出てくるか楽しみですぞ」
侍従からの発言に、レイクランド辺境伯様と外務卿もニヤリとした。
どんな相手が出てくるか、非常に楽しみらしい。
食事を終えて直ぐに全員着替えて、国境の街に向かった。
国境の街の出張所に着くと、直ぐに待ち構えていた守備兵が報告してきた。
「領主様、相手は国家ガイアード党を名乗る礼儀を知らない若者三人組です」
「ほう、中々イキのいい奴ではないか」
「全くですな。党名を変えて新しい指導者気取りなのかな」
「腕がなりますぞ。どんな要求が出てくるか楽しみですな」
守備兵の報告を聞いて、レイクランド辺境伯様と軍務卿と外務卿のテンションが上がってきた。
どうせ馬鹿な要求をするのだから、それならこちらもやりやすいという考えらしい。
そして国境の検問所の事務所に着いたのだが、会談にはレイクランド辺境伯様と軍務卿と外務卿の他に、ティナおばあさまと僕も参加する事に。
リズとスラちゃんは、国境の検問所で不審者の洗い出しを行うという。
レイクランド辺境伯様の守備兵や近衛騎士もばっちり護衛についています。
勿論リズやスラちゃんにも護衛が周囲を固めています。
部屋に入る前から何やらもめ事を起こしている声が聞こえる。
どうも給仕係の兵をナンパしているらしい。
中からの声を聞いた時点で、全員のテンションが上がります。
勿論、僕もどんな人か楽しみになった。
「辺境伯様が入られます」
「「「ちっ」」」
おお、係が僕達の入室を告げると中から舌打ちが三連チャンで聞こえたぞ。
皆、ウキウキしながら中に入った。
部屋の中には明らかに態度の悪い若者がいた。
髪はかっこつけているのか良く分からない髪型で、軍服も崩してきていた。
給仕係の兵は、助かったと思いながら部屋を出ていった。
全員揃った所で、会談開始。
「レイクランド辺境伯だ。横にいるのは王国の外務卿と軍務卿だ」
「ほお、いきなりの大物登場でヤバくね?」
「俺ら大出世じゃん」
「やったじゃん、俺ら」
えーっと、なんだこいつら。
僕以外の護衛を含めた全員のこめかみがぴくぴくとしている。
ティナおばあさまの圧力が増してきたぞ。
「ごほん。共和国からの使者だというが、どの様な用件で?」
「ああ、俺らこれを渡してくれと言われたんだわ」
足を組んでニヤニヤしている人物が、懐から手紙を出した。
宛先は王国国王となっている。
ティナおばあさまの許可も出たので、手紙をあけて中を確認した。
辺境伯様が中身を確認した瞬間、天を仰いだぞ。
外務卿と軍務卿も頭を抱えてしまったぞ。
僕もティナおばあさまと手紙を見たけど、目を疑った。
「申し訳ございません。この子と一緒にお手洗いに行きますね」
ティナおばあさまは手紙を見た瞬間、そう言ってにっこりと笑いながら席を立った。
レイクランド辺境伯様と外務卿と軍務卿もうんうんと頷いていた。
目の前のチャラい兄ちゃん三人組は、ばばあだから便所が近いのだろうと言っていた。
うん、こいつらティナおばあさまの殺気を感じていないんだ。
ティナおばあさま、今にも目の前の三人を殺しそうな殺気を放っていたぞ。
直ぐに廊下にでたら無言で王城にゲートを繋いで向かい、至急という事で陛下と閣僚を集めた。
「よし、では直ぐに返信を書こうではないか」
ティナおばあさまが陛下や閣僚に一切を報告したら、レイクランド辺境伯様達と同じ様に頭を抱えていた。
そんな中、陛下は直ぐに手紙を書いて封蝋をした。
陛下の書いた手紙の内容に、全員が頷いていた。
そして直ぐに国境の街に戻る。
部屋に戻ると、三人組がティナおばあさまが大をしてきたのだろうと、下品な事を言っていた。
「こちらが王国からの回答となります。封蝋がしてありますので、責任者にしっかりと渡してくださいね」
「わかったよ。よし、戻るぞ」
「へへへ、これで仕事は終わりか」
「帰って何をしようかな」
ティナおばあさまが殺意を込めながらにっこりと手紙を渡したのに、全く気が付かない三人組。
そして三人組が共和国側に帰るのを窓越しに確認してから、一気に場の空気が更に殺気だった。
「もう遠慮はいらないでしょう。ええ、一切いらないでしょう」
「どうも自分たちは偉いんだと勘違いしていましたね。ふふふ、教育のし甲斐がある馬鹿ですな」
「直ぐに戦闘配備だ。午後にでも動くだろう」
全員の視線がギラついている。
その気持ちは僕も同じだった。
「ティナおばあさま、僕もここまで頭にきたの初めてです」
「奇遇ね、私もここまで頭にきたの久々よ」
共和国からの手紙の差出人は、あのブッフォンだった。
ご丁寧に、国家党首というわけわからない役職名だった。
手紙の中身は簡単にいうと、無条件降伏を迫る内容だった。
しかも追加でとある条件が書いてあった。
「リズとエレノアをブッフォンの嫁として差し出し、一緒に僕の首ももってこいとはね。ロリコンもここまでくると犯罪だよ」
「元からまともじゃないからね。さあて、これから忙しくなるよ」
僕とリズとエレノアの事まで書いてあり、どちらかというとこっちの記載に皆怒り心頭だ。
それに対し、陛下の回答は全てを拒否するという簡潔なものだった。
正直リズとエレノアの事を持ち出されて、僕も怒っている。
こうして、王国の共和国に対する態度が固まった瞬間だった。
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