百七十九話 レイクランドの戦い
「いやー! あのハゲデブはいやー」
念の為、さっきの手紙の内容をリズに伝えたら、それはもう拒否が凄かった。
スラちゃんも一緒になって嫌がっている。
とはいえ、相手は独裁政権になってしまった上に一方的に王国に喧嘩を売ってきたので、こちらも準備をしないといけない。
「こちらは既に戦力を整えている。街にも非常事態宣言をだした」
「うーん、何も来ないですね」
「最悪電撃戦で一気に攻めてくる事も想定したが、そこまでの練度は無いようだ」
僕と軍務卿は軍勢の後ろで戦況をみている。
間違いなくすぐ側に敵兵がいて、僕の探索にも引っかかっている。
とはいえ、相手はこちらの軍勢の半分以下。
しかも精鋭部隊なので、まともに戦えば相手の勝ち目はない。
「市街地戦になるのは避けたかったのですが、こればっかりは仕方ないですね」
「将校と思われる人物があの体たらくだ。略奪を防ぐためには、ここで食い止めないとならない」
市街地から離れた原っぱで戦えれば良いのだけど、ほぼ私兵なので何をするかわからない。
やむなく防壁付近で迎え撃つ布陣をとった。
リズとスラちゃんは、既に後方支援の準備をしている。
辺境伯様とティナおばあさまも指揮をとる様で、部隊の後方にいる。
外務卿も全身完全武装で、リズとスラちゃんの所にいる。
と、ここで前線に動きがあったようだ。
「防壁の検問所を、共和国側が無理やり押し通してきました」
「よし、陣形を固めて作戦通りに行くぞ」
共和国側が検問所を無理やり通過してきた。
うーん、兵というよりかは盗賊団っていった方が良い感じだな。
ある程度、敵兵がこちらに来るまでひきつけた。
「よし、今だ。一斉攻撃開始」
「はい!」
「くそ、魔法かよ」
「ぎゃあ」
こちらにある程度出てきてから、魔法兵の一斉攻撃。
僕も軍務卿の隣からスタンショットを放つ。
実は事前の偵察で、歩兵部隊が多いと分かっていた。
なので、こちらの重装備兵に守られながら一気に魔法攻撃をかける事にした。
効果はてきめんで、相手は魔法攻撃になすすべなく沈んでいく。
できるだけ行動不能にするようにしているけど、そこは本気の紛争だ。
相手側にはかなりの怪我人がでている。
対して、こちらには怪我人がでていない。
「ここまでは順調ですね」
「でも、どうやら真打ち登場らしいぞ」
多くの敵兵が倒れていく中、一人魔法障壁を張ってこちらに近づいてくるのがいる。
風貌からして怪しい魔道士っぽいから、あれが例の闇ギルドナンバーズのテイマーなんだろう。
あの人だけ周りの敵兵よりも強い感覚はあるけど、オカマやスキンヘッドよりは弱いと思う。
きっと例の魔導具が関連しているのだろう。
「リズ、スラちゃん。こっちも作戦開始だよ」
「分かった!」
これも事前に決めていた作戦で、テイマーが現れたらリズとスラちゃんが僕の側にくる様にしている。
「くくく、貴様らもここまでだ。我はナンバーズのテイマー。今からお前らを血祭りにしてやるわ」
テイマーが魔道士のフードを取り、姿を表した。
うーん、なんだろう。
ゴブリンに似たしわくちゃな感じで、テイマー自体はやっぱり強くなさそうだ。
「うーん、やっぱりオカマの方が強いよ」
「だよね。手に持っている魔導具の性能でナンバーズにいるのかな?」
リズとスラちゃんの感想も、僕と一緒だった。
ともかくとして、こちらも作戦開始。
僕とリズは魔法を溜め始め、スラちゃんは密かに前線に進み始めた。
その時、テイマーは杖を高く掲げた。
「集まれ魔物に野獣よ。奴らをくい殺せ!」
やはりあの杖が魔導具で、魔物を呼び寄せる発動体なんだ。
周囲からウルフやネズミなども集まってくるが、テイマーが思っている程の数ではなかったようだ。
「くそ、何故街中なのにネズミなども少ないのだ!」
「ははは、それは疫病対策をしっかりとしているからだ。ここは国境の街だぞ。当たり前ではないか」
テイマーが疑問に思っている所に、レイクランド辺境伯様がその理由を説明した。
ここは国境の街なので、防疫の為に疫病の元になるネズミの駆除を定期的に行っているという。
なので、テイマーが呼び寄せたネズミも少ないのだ。
「くっ、仕方ない。お前ら、敵を喰い尽くせ!」
それでもテイマーは、テイムできた動物をこちらに放ってきた。
これが大量のネズミが襲ってくるとなると、かなりの恐怖を伴った攻撃なのだろう。
しかし、今回は数が少ない上に事前に練った戦略がある。
「リズいくよ」
「いいよ、お兄ちゃん」
「「えーい」」
「な、何が起きたんだ?」
僕とリズがとある合体魔法を放つと、襲ってきた動物に変化が現れた。
突然動きが止まったかと思ったら、辺りを見回してどこかに行ってしまったのだ。
「くそ、ガキが何をした?」
「教えないよ!」
「くそ!」
テイマーはかなり悔しがっているが、実は仕組みはとても簡単。
魔法効果を解除するデスペルを動物にかけただけなのだ。
動物に魔法をかける発想がないだけで、簡単に解決できるのではと思ったのだ。
そして、すすすとスラちゃんが悔しがっているテイマーの後ろに忍び寄った。
「ぐお、痛い痛い! 何だ何だ?」
スラちゃん、またお尻に触手を突き刺したよ。
あれはかなり痛そうだ。
痛みで地面を転げているテイマーが、馬鹿にしているスラちゃんを見つけたようだ。
「くそ、下等生物が。ぐはあ」
スラちゃんは下等生物と言われたので、怒ってテイマーのお尻にもう一撃を食らわせたようだ。
テイマーは痛みに悶絶しながら、魔法障壁を展開した。
あ、もしかして。
「この場は帰るが、共和国で再びまみえたら、その時がお前らの最後だ!」
スラちゃんが魔法障壁を壊そうとしたけど、その前に逃げられてしまった。
しかし、テイマーへの対策はできた。
次に会っても、問題なく対応できるだろう。
そして、この瞬間を軍務卿は逃さなかった。
「全軍前に。敵兵を捕縛せよ」
「「「うおー!」」」
テイマーもいないし、残ったのは練度の低い敵兵だけ。
こうなれば王国軍の敵ではない。
敵兵も戦意喪失していて、あっという間に捕まっていく。
さり気なくスラちゃんも敵兵を捕まえているが、そこはお任せしておこう。
「終わってみれば、圧勝でしたね」
「テイマー頼りの構成だったのだろう。テイマーがいなくなればこんなもんだ」
時間にして一時間もかからずに、全ての敵兵が捕縛できた。
今回の争いは、王国軍の完全勝利で終わった。
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