百七十六話 共和国からの亡命者
翌日、僕はリズと共に王城に向かった。
ちなみにスラちゃんは今日も守備兵と一緒に防壁に行き、プリンは屋敷に残って屋敷の人の護衛をする事に。
スラちゃんは今回の共和国の件とは関係なかったが何人か悪人を見つけたらしく、守備兵の評判も上々だという。
王城に向かうと、陛下と辺境伯様に何故かティナおばあさまもいた。
しかも騎士服をきて完全装備でいるぞ。
「ティナ様には、我が軍と辺境伯領の守備兵の訓練をつけてもらう事になったのだ」
「確かに、この間ギルドで行った訓練は物凄い効果がありましたから」
「国の一大事よ。私でできることがあれは、いくらでも協力するわ」
「おお、おばあちゃんカッコいい!」
「ふふ、リズちゃんありがとう。でも、王族として当然の務めよ」
流石はティナおばあさまだ。
兵士に訓練をつけるという大変な事を、あっさりと王族の務めと言っている。
レイクランド辺境伯様は馬車で王都に来たので、一度王都郊外の軍の施設に移動してからまとめてレイクランド辺境伯領へ移動した。
レイクランドの街の郊外にある駐屯地に着くと、ティナおばあさまは早速訓練の準備を始めている。
「アレク君はレイクランド辺境伯と話し合いね。リズちゃんは訓練で怪我する人がいるかもしれないから、おばあちゃんと一緒にいようね」
「分かった。リズも訓練に少し参加している」
僕はレイクランド辺境伯様と一緒に、馬車で屋敷に移動する。
ティナおばあさまの訓練も午前中で終わるので、昼食時に迎えにいく予定だ。
屋敷に着くと、早速レイクランド辺境伯様と話をする事に。
「共和国と取引をしている商人に話を聞いたが、共和国国内はだいぶ危ないらしい。副代表が収監されたことにより、権力闘争が激しくなっているという」
「血で血を洗う事にならなければいいのですが。そういえば、代表は表に出てきませんが何をしているのでしょうか?」
「どうも入院しているらしい。相当体調が良くないらしく、治療もままならないらしい」
「それってかなりヤバいのでは? 代表が亡くなったら、絶対に波乱がおきますよ」
代表の体調が優れないのはとても気掛かりだ。
万が一の事があったら、それこそ共和国は大混乱になるだろう。
「共和国国内で、例のガイアード国民党に対抗できる組織はあるのですか?」
「ガイアード国民党に従属している政党でガイアード人民党は、表面上だけ従っていて裏ではどうにかしようとしている。ただ、議会の大半をガイアード国民党が占めているので中々手出しができないでいるのだ」
「絶対与党のガイアード国民党をどうにかしたいですね」
きっとガイアード国民党の中にもまともな人がいる。
そう思いたいのだが、上手く行かないのが世の定めなんだろう。
午後になって、レイクランド辺境伯様に面会を希望する人が現れたのだ。
「ガイアード人民党のサンラインです」
「同じくガイアード人民党のクレイモアです」
レイクランド辺境伯様と話をしていたガイアード人民党の人が訪ねてきた。
サンラインさんは中年くらいの年齢の男性で、意外とガッチリとした体格。
クレイモアさんは若い女性で赤っぽい髪をポニーテールにしている。
気になるのは、二人ともかなり疲れ切っている事だ。
「遠いところからはるばるようこそ。久しぶりですねサンライン殿」
「ええ、出来ればこういう形では会いたくはなかったのですが。隣にいるのはクレイモアで、文武に優れた若手有望株です」
「辺境伯様、クレイモアでございます。どうぞよろしくお願いいたします」
どうもレイクランド辺境伯様とサンラインさんは会ったことがあるらしく、この状況下での再会は想定外だった様だ。
「先ずは、少し休まれるが良い。リズ殿下、二人に治療をして頂けませんか?」
「はーい、直ぐに治療するね」
疲労困憊だったサンラインさんとクレイモアさんに、リズがささっと治療して生活魔法で綺麗にしてあげた。
レイクランド辺境伯様とリズの会話に、クレイモアさんが疑問を持った様だ。
「辺境伯様、先ほどリズ殿下とそちらのお子様の事を呼ばれましたが、殿下とは一体?」
「ああ、そういえばご紹介がまだでしたね」
レイクランド辺境伯様が、改めてサンラインさんとクレイモアさんに向き直って僕達の事を紹介し始めた。
「こちらにいらっしゃるのが、ティナ殿下です。先王陛下の妹君にあたります」
「ティナです。どうぞよろしく」
「そして、お二人を治療した少女が、ティナ殿下の孫にあたるエリザベス殿下です」
「リズだよ!」
「そしてエリザベス殿下のいとこにあたる、今回の件のキーパーソンであるアレクサンダー殿下です」
「アレクです。よろしくお願いします」
「「あ、え?」」
いきなり紹介されたのが王族で、しかも僕というキーパーソンが目の前にいる。
サンラインさんとクレイモアさんは、かなりびっくりしているぞ。
「レイクランド辺境伯様、陛下を交えて話をした方が良いのではないでしょうか」
「うむ、その方が良いだろう。サンライン殿、如何かな?」
「もし可能でしたら、その方がありがたいです」
「では、直ぐにゲートを準備しますね」
トントン拍子に話が進んで、サンラインさんとクレイモアさんはちょっと混乱している。
王城にゲートをつなぎみんなで王城に着くと、サンラインさんとクレイモアさんは更にポカーンとしてしまった。
直ぐに会議室に通されると、暫くしたら陛下と閣僚にルーカスお兄様が入ってきた。
念の為にと、ホーエンハイム辺境伯も呼んでいる。
いきなりの大物との会談になって、サンラインさんとクレイモアさんも恐縮している。
「陛下、こちらにいるのはガイアード人民党のサンライン殿とクレイモア殿になります。サンライン殿には以前お会いした事があり、誠実な人物でございます。クレイモア殿は、文武両道の逸材だとの事です」
「ガイアード共和国のサンラインと申します」
「同じくクレイモアと申します」
「うむ、よく遠い所から来られた。ここは安全だ。何でも話すが良い」
僕とリズのチェックで良い人だと分かっているので、陛下や閣僚も直ぐに話を聞き始めた。
いきなり衝撃的な事実がもたらされた。
「まず共和国のガイアード国民党について、ご連絡します」
「もしや、代表が亡くなった事か?」
「は、はい、その通りになります。実際には、三日前にブッフォンに殺害されました」
「うむ、余も先ほど情報を聞いたばかりで、その事で会議をしようとしていた所だった」
僕もびっくりした。
まさか代表が殺されたなんて。
これは共和国にとってかなりまずい事だろう。
「死因は毒殺です。毒入りのワインがガイアード国民党の幹部会で振る舞われ、治療の甲斐なく亡くなりました。併せて、代表以外の主だった幹部も殺害されています。勿論、ブッフォンの仕業です」
「今までの帝国や我が国に仕出かした事を考えると、何も不思議ではないな」
「ブッフォンは牢を抜け出し、今度は自分に反対する者の粛清に入りました。私とクレイモアは、辛くも逃げ出すことができましたが、多くの人が虐殺されています」
「その情報も先ほど入った。欲に塗れた者が暴走し始めたという事か」
一番危惧していた、ブッフォンの独裁政権になりつつある。
となると、王国に戦争を仕掛けてくるのは避けられないぞ。
「レイクランド辺境伯、これからも難民がくる可能性があるので受け入れの準備を。軍も更に追加しよう」
「しかし、難民にまぎれて共和国からの刺客がくる可能性があります。どうやって防ぎましょうか」
「あ、ならスラちゃんかプリンのどちらかをレイクランド辺境伯に派遣します。ホーエンハイム辺境伯様、僕が不在の間はミカエルと元違法奴隷のお姉さんの警備を強化してもらえますか?」
「ミカエルと元違法奴隷の女性は、我が屋敷で面倒を見よう。それなら警備も一箇所に集中できる」
と、とんとん拍子に話が進んでいく。
偉い人達が集まっているだけの事はあるぞ。
「レイクランド辺境領の郊外に避難所を造成し、避難民を受け入れよう。軍務卿と外務卿もレイクランド辺境伯領に向かう様に」
「「畏まりました」」
「アレクとリズも、少しの間レイクランド辺境伯領に行く事になるな。特にアレクのゲートは多用するかもしれん」
「なら私もレイクランド辺境伯領にいましょう。当分の間、軍の強化を行います」
また、サンラインさんとクレイモアさんは、この前王城で保護されるという。
こうして、共和国の暴走に対して少しずつ対応が進んでいく。
来るべき決戦の時に向けて。
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