百七十五話 喜びに水をさす者
屋敷に戻ってから、侍従のお姉さんに見守り隊の事を聞いてみた。
「なんて事はないですよ。この屋敷の事やアレク殿下の近くで何か疑問に思ったことがあれば、騎士に伝えてと言ってあるだけです」
「それが、いつの間にか隊の結成までしているのですか……」
「それだけアレク殿下とリズ殿下が街の人に愛されている証拠です。街の人も是非ともと言っていましたよ」
でもどのくらい大変なのか分からなかったので、次の日丁度ギルドに行くので道中あった人に聞いてみた。
先ずは商店街のおばちゃんに尋ねてみる。
「そんなの気にしなくて良いんだよ。こんな小さい子を狙うなんて、ありえないんだから。それこそ私達の子どもも襲われる可能性あるのよ」
「そうそう。それにアレク君には、ゴブリン騒ぎとかで色々と助けて貰ったからね。不審者を見つけて通報するくらい大した事じゃないよ」
続いては、ギルドの冒険者の面々。
「元々、何か不審な事を見つけたらギルドに報告する義務がある。だから、普通の冒険者活動だし、何も問題はないぞ」
「そもそもそんな奴がいたら、俺達も困る。だから、俺達の為でもあるんだ」
最後に、薬草を採りに森に行く時に防壁で守備兵の人に会ったので聞いてみた。
「先日盗賊が商隊を襲撃した事により、暫く巡回を強化しています。なので、全く問題ありません」
という事で、皆問題ないというので暫く街の人のご厚意に甘える事にした。
「お前らはまだ小さいのだから、大人の好意に甘えとけ」
「そうよ。それにアレク君とリズちゃんは、この街のアイドル的な存在なのだから」
「はい、暫くお願いする事にします」
ジンさんとレイナさんにも同じ事を言われたので、素直に頷く事にした。
街の人にもメリットがあるというので、このままお願いする事に。
「そうそう、こんな可愛い子をどうにかしようなんて、普通じゃ考えられないよ」
「ここはおばちゃんに任せておきな」
いつも薬草採取で一緒になっているおばちゃんからも、頭を撫でられながら同じ事を言われてしまった。
こんなに色々と言われたことがなかったから、少しくすぐったいな。
そんな事を思いながら、薬草採取を終えてギルドに戻ると事件が起きたのだった。
「はい、これで完了です。この依頼をこなした事により、Eランクに上がりましたよ」
「有難う御座います」
「おお、やったよ! ランクが上がったよ!」
少し時間がかかったけど無事に僕とリズの冒険者ランクが上がった様で、リズとスラちゃんは両手を上げて喜んでいた。
僕のフードの中でも、プリンが喜んでいた。
「おう、良かったな。これで初心者卒業だ」
「次のDランクから、上がるのは大変なのよ」
「でも、リズ頑張るよ!」
周りの冒険者も、僕達のランクが上がった事を褒めてくれた。
次のDランクに上がるためには、指名依頼をこなさないといけないのだ。
そんな時、食堂の方から嫌な声が上がった。
「けっ、ガキがランク上がった位で何騒いでいるんだ」
「そうそう。はは、ここのギルドは大した事はないな」
「おこちゃまのおままごとでちゅか? だははは」
下品な笑い声を上げている冒険者が三人いる。
うーん、見たことのない顔だな。
少なくとも辺境伯領や、その周辺にいる冒険者じゃないぞ。
その事に他の冒険者も気がついて、少し警戒をしている。
トドメはリズの一言。
「あ、この人達悪い人だ」
「何だって、こら。ガキがいきがるなよ」
「お仕置きが必要だな」
「しつけは厳しくしないとな」
リズの一言に過剰に反応した冒険者達。
あれ?
リズが王族って知らないのかな?
この辺にいる人なら常識なんだけど。
「「「うぎゃあ!」」」
「おお、プリンちゃんナイス」
とりあえず冒険者三人が武器を構えて近づいてきたので、プリンがショートスタンを放って痺れさせた。
ギルド内で武器を取り出したので、直ぐに拘束された。
受付でことの成り行きをマリーさんが見ていたので、ちょっと聞いてみよう。
「マリーさん、この三人鑑定してもいいですか?」
「いいわよ。こいつら、何だか怪しいわね」
マリーさんの許可を取ったので、僕は三人を鑑定した。
すると、驚くべき事が判明した。
「マリーさん、この三人の職業が盗賊になっています。しかも、共和国のブッフォンの所の所属になっていますよ」
「この冒険者カードは本物だけど、ランクがGのままだわ。冒険者を隠れ蓑にして活動しているっぽいね」
「「「うがが」」」
三人は痺れていて喋れないが、こっちは淡々と三人を調べていく。
そのうちに騒ぎを聞きつけた守備兵もやってきて、身体検査が始まった。
「こいつ、毒草を持ってやがる」
「暗闇の中で活動する為の服装だぞ」
「あ、通信用の魔導具まで持ってやがった」
次から次へと色々な物が見つかっていく。
スラちゃんとプリンも身体検査に参加して、バックの中から色々な物を見つけていた。
「マリーさん。こいつは厳重に監視する必要があります。後程、ギルドとの合同捜査を行いたいと思います」
「ギルドの名を騙って、何をするつもりだったのかな。久々に調べがいのある人だわ」
何だかマリーさんが怪しい目で三人を見ていた。
どうも怒らせてはいけない人を怒らせてしまった様だぞ。
とりあえず辺境伯様の所に行って、調査結果を待つことになった。
「せっかくランク上って喜んでいた所に水をさすなんてね」
「うん……」
ギルドでゴタゴタがあったので、リズはしょぼんと落ち込んでいた。
その様子を見たイザベラ様が、リズの事を慰めていた。
そこに、マリーさんと騎士団長がやってきた。
「領主様、面白い事が分かりました。奴らは斥候を専門とする盗賊で、どうもアレク君の屋敷に忍び込もうと計画していました」
「更にギルドで暴れたのも、辺境伯領の治安を悪くして犯罪を起こしやすくする為らしいです。ただ、飲み過ぎて気が大きくなって今回の騒ぎになりました」
「この事は直ぐに陛下に報告しよう。更には領民にわざと騒ぐ人がいたと周知させよう」
「畏まりました。見守り隊にそれとなく流しておきます」
この事は、共和国が本格的に王国に何かを仕掛けてきたと判断できる。
辺境伯様は、更に手を打つことにした。
「スラちゃんにバイトを頼もう。守備兵と一緒に防壁で身分を偽った人がいるか監視をお願いしよう。すぐ確認できる様に、鑑定が使える魔法兵も待機させよう」
「おお、スラちゃん頑張って!」
スラちゃんはスライム的直感で悪い人を見つけられるし、既に実績も上げている。
リズの呼びかけに、触手を振って頑張ると気合が入っている。
「リズちゃんとプリンは屋敷にいてもらおうかな。ミカエルもいるし、万が一に備えよう」
「うん。リズとプリンちゃんで、ミカちゃんの事を守るよ」
流石は辺境伯様。
リズとプリンにもさりげなく指示を出している。
僕的には、屋敷で大人しくしていなさいといっている様にも聞こえるけど。
という事で、後を任せて僕と辺境伯様は王城に向かった。
「ホーエンハイム辺境伯領でもならずものが出たか」
「でも?」
「そうだ。レイクランド辺境伯領でも、ならずものがでたぞ」
王城に着くと、陛下とレイクランド辺境伯が話をしていた。
直ぐに僕達も会議に参加した。
「恐らく王国内を混乱させて、共和国に手出しをさせないようにする目的もあるだろう。何にせよ、国境の警備を増強しないといけない」
「やるべき事はやらないといけませんね」
「現在駐留する軍の準備を進めている。アレクには悪いが、明日朝にレイクランド辺境伯と軍を送ってくれ」
「はい、畏まりました」
戦争には発展させたくないけど、何だか避けられそうにもない。
何にせよ、ブッフォンの悪巧みを止めないといけないぞ。
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