百七十三話 故郷の事とちょっとした対策

「そうですか。やはり故郷はなくなってしまったのですね」

「なんとなく分かってはいましたが、それでも寂しいものです」


 謁見の翌日、僕は元違法奴隷のお姉さんに現状の事を話した。

 お姉さん達は、やっぱり故郷の事を何となく知っていたようだ。

 それでも、だいぶ悲しい表情をしていた。


「共和国自体、今は政情が不安定で交渉が進んでいません。この先どうなるかも、まだ不明です」

「共和国は、実質ガイアード国民党の独裁政権です。ガイアード国民党に反対する党は潰されました」

「国の復興の為に強力なリーダーシップは必要でしょう。代表はお年ですが、それがあります。逆に、次期代表を狙うブッフォンは権力の欲にまみれています。恐らく私達の村を潰したのも、ブッフォンに従わなかったからかと」


 お姉さんもブッフォンの事を知っていたんだ。

 そして、評判はすこぶる悪い。

 国内でガイアード国民党の批判ができないから、かなり好き勝手に増長していそうだ。


「アレク殿下はブッフォンに警戒されたと言いますが、ブッフォンは政敵を見つけるのが上手いです」

「今までも多くの政敵を葬り去ってきました。今は収監されているとはいえ、何かやってくる可能性もあります」


 ブッフォンが帝国で国外退去を命じられた時、僕の事を睨みつけていたよな。

 何か良くないことを考えているのは間違いなさそうだ。


「何れにせよ、私達は暫くアレク殿下の元にいるしかありません」

「先に保護された女性はそろそろ故郷に帰られるそうなので、私達も色々とお手伝いしますね」

「有難う御座います。とても助かります。ちゃんとお給料は支払います」


 一旦話は纏まったので、部屋から出る。

 応接室に移動すると、ティナおばあさまが待っていてくれた。

 リズは、スラちゃんとプリンと一緒にミカエルの部屋に行っている。


「アレク君、どうだった?」

「はい、冷静に受けとめていました。それどころか、故郷を滅ぼしたのがブッフォンだろうという事まで分かっていました。僕に対しても、ブッフォンに注意してと言ってくれています」

「そう、なら良かったわ。故郷を壊されてしまって、絶望に打ちひしがれる人もいるわ」


 お姉さん達は辛い思いをいっぱいしているのに、僕の事まで気にしてくれる。

 僕も前世そして今世で住む所を失った辛さは分かるけど、自分の事で手一杯だったなあ。


「大変な思いをした分だけ、とても強くなったのよ。暫くはこの屋敷にいる事が決定しているし、何も心配はないわ」

「どちらかというと、僕やリズの事を警戒する必要があるかなと。相手が何をやってくるか、見当もつかないです」

「副代表は執念深い性格って聞くし、間者を放つ可能性もあるわね」


 うーん、僕達の事は一体どうすれば良いのだろう。すると、ティナおばあさまに名案があるらしい。

 侍従のお姉さんと話をし始めて、何やら指示を出していた。

 

「ティナおばあさま、お姉さんと何を話しているんですか?」

「それはちょっと内緒よ。まあ、この街の守備兵は優秀だから、そう簡単に外部からの不審者は入り込まないはずよ」


 ティナおばあさまと侍従のお姉さんは、僕にどう対応するのか内緒の様だ。

 とはいえ、直ぐに誕生日パーティだし、外に出ることも少ないかも。

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