百七十一話 特別講習
ジェイド様とソフィアさんの結婚式が終わった次の日、ジンさん達の披露宴会場にギルドを使えるかの交渉とティナおばあさまの無属性魔法の講習が開かれる。
ちなみに、流石に辺境伯様とイザベラ様は昨日の疲れが取れていないようで、辺境伯様の屋敷に様子を見に行ったらヘロヘロの状態で仕事をしていた。
辺境伯様の屋敷で一泊した来賓も、既に全員帰ったという。
それは王城にティナおばあさまを迎えにいっても同じ事が起きていた。
「うう、アレクよ、回復魔法を……」
「「……」」
つい最近帝国での結婚式でも飲みすぎて二日酔いになっていた陛下が、今回も飲みすぎて二日酔いになっていた。
僕とリズは、またかって表情で陛下を見ていた。
二日酔いの陛下の動き方が、まるでゾンビの様で面白い。
「アレク君、朝から見苦しい所をお見せしたわね」
「気にしないで行ってきてね。今日は公務少ないから、この状態でも大丈夫よ」
「うぁ。アレク、回復魔法を……」
陛下の両肩を掴んだビクトリア様にアリア様が、陛下を引きずりながら部屋に消えていった。
哀れ、今日の陛下は一日中二日酔いで過ごすことが決定した。
「アレク君、リズちゃんおまたせ。あら、どうしたの?」
「いえ、陛下が二日酔いの公務に行きました」
「リズ、助けるのは無理だったよ」
「あれは自業自得だから気にしなくていいわ」
完全武装で現れたティナおばあさまも、陛下の事はやむなしといった感じだ。
どうも陛下は、お酒が弱いのに一度飲むともっと飲みたくなるらしい。
ビクトリア様にアリア様は全く平然としている辺り、単純にお酒が弱いだけの様だ。
ルーカスお兄様にルーシーお姉様、エレノアも準備できたので、護衛の近衛騎士と共に僕の屋敷に向かった。
「お、時間通りだな」
「それでは行きましょうか」
僕の屋敷では、ジンさんとレイナさんとカミラさんの他にもルリアンさんとナンシーさんも待っていた。
結婚式を同時にやろう作戦なので、一緒に交渉しにいくという。
皆で街中を歩いているが、結婚式の飾り付けはそのままになっている。
あれ?
この飾り付けはいつ外すのだろうか?
そう思っていたら、商店街のおばちゃんが情報を教えてくれた。
「おや、皆でお出かけかい?」
「うん、これからギルドに行くんだ!」
「おばちゃん、この飾りはいつまでつけているの?」
「ジンの結婚式が終わるまではつけておくよ」
「「「え!」」」
おばちゃんの発言に、ジンさん達はびっくりしている。
どうもジンさん達の結婚式も直ぐやるので、じゃあそのままって事になっている様だ。
「めでたい事だし、ジン達の事もよく知っているからな」
「単に騒ぎたいだけだろうよ……」
恐らくジンさんの言うことが正解だろう。
街の人はお祭りが好きなのかもしれない。
街の人がお祭り騒ぎが好きなのは、ギルドに行っても証明された。
「おお、ジン来たか。レイナとカミラも一緒か」
「また、華の騎士様も来ているぞ」
僕達がギルドについた途端に、冒険者が集まってきた。
そして、何故か僕に質問が飛んできた。
「アレク、こんな大勢でどうした?」
「元々はジンさんが講習の講師だったんですけど、ジンさん達の結婚式の披露宴にギルドの食堂を使えないかってマスターに交渉しにきたのです。で、ティナおばあさまがジンさんの講師の代わりをすると」
「何? 華の騎士様が講師だと!」
「あの……、ジンさんの披露宴の件もあるんですけど……」
「そんなもん、直ぐに片付くわ。おーい、ギルドマスターと食堂のおっちゃん呼んでこい!」
「「「へーい」」」
冒険者の人が手分けしてギルドマスターと食堂のおじちゃんを呼びに行った。
その間、ティナおばあさまはまた冒険者から握手攻めにあっていて、リズ達は食堂のテーブルに座ってジュースを頼んでいた。
そして、ギルドマスターと食堂のおじちゃんにおばちゃんが到着。
「なんだ、そのくらいか。冒険者の結婚式の二次会をギルドでするのは前からあるぞ」
「最近は冒険者で結婚する奴が少なくてな、数年前は年に数組あったぞ」
「貴族向けの食事は出せないけど、それで良ければ問題ないよ」
あら、前例があるからあっという間にオッケーを貰った。
宰相も商務卿もどちらかというと庶民の料理好きだし、恐らく一緒に参加する気満々の王族も全く問題ない。
という事で、レイナさんとカミラさんにルリアンさんとナンシーさんがギルドに残って、色々と詰めの交渉をする事に。
「じゃあ、こっちは進めておくから、ジンは宜しくね」
「ほらほら、男どもは行ったいった。こういうのはあたしら女性の出番だよ」
ジンさんは、カミラさんと食堂のおばちゃんに追い出されて、結局講師に逆戻り。
「よーし、お前ら行くぞ」
「「「おー!」」」
冒険者も沢山の人が参加する事に。
結婚式関連でギルドにも色々と依頼があったから、ちょうど暇して集まっていただけらしい。
冒険者はかの有名な華の騎士から指導を受けられるとあって、テンションも上がっている。
そのお陰が分からないけど、僕達の護衛が冒険者によって物凄い事になっている。
流石にギルドの練習場では広さが足らないので、街の郊外にある原っぱで練習する事に。
大勢で移動する事を防壁の守備兵がびっくりしていたけど、僕が理由を話したら逆に守備兵から提案があった。
「ティナ様、もしご面倒でなければ守備兵を何人か訓練に連れて行ってくれませんか?」
「勿論、かまいません。辺境伯領はいわば国の防波堤です。いざという時の為に、訓練を重ねるという事はとても大切な事です」
「ありがとうございます。直ぐに人員を選抜いたします」
「うおー、流石は華の騎士様だ。かっこいい!」
「凄い、あんなセリフ憧れる」
守備兵からの提案に対して、王族の威厳ある態度で許可をするティナおばあさま。
冒険者はティナおばあさまの対応に何故か興奮している。
そして、更に大人数になった一行は原っぱに移動した。
各自軽く準備運動をしてから、早速訓練に入った。
「身体強化も魔法ですので、日々の魔法の訓練が大切です。剣士型も格闘型も、日々の訓練を忘れずに行いましょう」
「「「はい」」」
「さて、身体強化ですが、実は一般にはあまり知られていませんが、瞬発力系と持続系に分かれています。短距離を走るのが得意か、それとも長距離を走るのが得意かというのを思い浮かべて貰えば結構かと」
「「「へえ」」」
ティナおばあさまの説明に、皆びっくりしている。
身体強化は、ただ単に体を強化するだけじゃなかったんだ。
この件は、冒険者も守備兵もびっくりしている。
というか、ジンさんもびっくりしているんだけど。
「勿論、瞬発力系も少しずつ魔力を出す様に制御すれば長時間制御出来ますし、持続系も爆発的に魔力を放出する事が出来れば大きな力を出すことが出来ます」
「ティナおばあさま、僕は多分両方出来そうな気がします」
「あ、僕も同じです」
「アレク君とルーカスの様に、瞬発力系と持続系の両方が使える人も稀にいます。実は私もそうです。しかし、それは例外と覚えて置いてください」
「ではどうやって、自分の特性を見分ける事が出来ますか?」
「簡単よ。身体強化した状態でかけっこすれば良いのよ。瞬発力系は速いけど長時間走れないわ。持続系は逆ね」
という事で、僕とルーカスお兄様を除いたメンバーで自分が瞬発力系と持続系のどちらかを確認し始めた。
まだ魔法が上手く使えない面々は、ティナおばあさまや近衛騎士から魔法の使い方を習っていた。
「おお、確かに速く走れるけど、持続しない。これが瞬発力系か」
「俺、今まで上手く身体強化が出来ないと思っていたけど持続系だったのか。目から鱗が落ちる感覚だよ」
皆が色々と走って、ティナおばあさまの説明した理論にびっくりしていた。
因みに、何で瞬発力系と持続系に分かれるかは研究の途中らしい。
冒険者は自分の系統が分かって、びっくりすると共に納得している人も多くいた。
「あれ? リズはどっちだろう?」
「リズちゃんは恐らく瞬発力系ね。魔力が膨大だから、長い間速く走れるだけだわ」
「そうなんだ」
うん、リズは特殊タイプだろう。
大量の魔力を使ってガンガン進んで行く方だな。
一緒に走っていたスラちゃんとプリンも、リズと同じタイプかな?
因みにルーシーお姉様は瞬発力系で、エレノアは持続系だった。
皆の系統が分かった所で、少し休憩をして講習を再開する。
「身体強化も他の魔法と同様に、慣れない内はイメージをする事が大切です。速く走るイメージや長く動くイメージなど、考えてやってみましょう。その内に、無意識で出来る様になりますよ」
「おばあちゃん、他の無属性魔法もイメージが大切?」
「そうよ、例えば探索が使える人は悪い人を思い浮かべて行うと、悪人が見つかりやすくなるわ」
「へえ、そうなんだ。ちょっとやってみよう」
どんな魔法も、慣れるまではイメージが大切だと改めて認識させられた。
そしてリズを始めとした何人かが、悪人をイメージして検索をしている。
というか、リズはいつの間に探索を使える様になったんだ?
「本当だ、森の中に悪い人の反応があったよ」
「俺も分かったぞ」
「私も出来た」
「本当に出来たのかって、森の中に悪い人がいるって。あ、本当にいた、しかも街道で誰かを襲っているよ」
思わぬ結果に、僕とティナおばあさまは顔を見合わせた。
僕と同じ結果をあの冒険者のお姉さんチームの魔法使いの人が言い当てた。
「ここから先の街道で、十五人程の悪人に襲われている人がいます。三人で馬と思わしき反応も二つあるので、恐らく商隊かと」
「よし、直ぐに助けに行くぞ。足の速いのは、防壁に行って連行の準備を」
「俺達も行くぞ。悪人は見過ごせないぞ!」
あっという間に、守備兵と冒険者が動いていった。
この辺の判断の素早さは見習いたいな。
「それでは、残っている人は治癒魔法の勉強を兼ねて準備しましょう。リズちゃんも色々と教えてあげないとね」
「おお、リズ皆に色々教えるよ!」
「エレノアも!」
残った僕達で、怪我人が発生した時に備えて治療体制を整えている。
念の為にもう一回探索を行っても魔物とかの反応はなかったから、守備兵と冒険者だけで大丈夫だろう。
というか、悪い人の反応の所に五十人以上向かったしこっちにも二十人以上いる。
人数的にも万全だろう。
「あ、帰ってきたよ」
十分後には盗賊と思われる襲撃者が、何でこんなに守備兵と冒険者がいるんだって顔をしていた。
そりゃ五十人以上の守備兵と冒険者に囲まれれば、一瞬で終わるだろう。
「華の騎士様。早速教わった事を生かせました」
「それぞれの特性を活かした連携をする事ができました」
「そう、それは良かったわ。でも、これからも浮足立たない様に訓練を続けないとね」
「「はい」」
おお、流石はティナおばあさま。
教わった事が上手くいったと興奮気味に話す冒険者を褒めつつ、気を引き締めていた。
この辺の話し方はマネをしたいな。
僕の横で、ルーカスお兄様もうんうんと頷いていた。
さて、僕達の所には襲われた三人がきていて、三人とも軽傷だけど怪我をしていた。
これから治療の勉強をします。
というか、リズが教える気満々でいるぞ。
スラちゃんとプリンもやる気満々だが、プリンは攻撃特化型で回復魔法は使えないでしょう。
「えっとね、回復魔法をかける前に軽く治す人と魔力を循環させるの。そうすると、どこか悪いか分かるんだ」
「リズちゃんの言う通りよ。後は悪い所が良くなるようにって思いながら回復魔法をかけてあげてね」
「や、やってみる」
リズが言っているのは僕が以前教えた事で、リズもしっかりと守っている事だ。
勿論、治癒魔法が使える様になったエレノアにも教えている。
ティナおばあさまからも背中を押されて、十歳位の女の子が治療を開始する。
「えーっと、腕の怪我の他にも腰が悪いですね」
「おや、見破られてしまいましたか。ここ最近腰痛が酷くてね」
「わ、分かりました。では、治療を始めます」
「おお、腕だけでなく腰も良くなったぞ。ありがとう、小さな治癒魔導士さん」
「い、いえ。治って良かったです」
女の子の治療が上手くいって、商会の会頭らしい人も女の子を褒めていた。
女の子も、ほっと一息ついている。
他の人も、ティナおばあさまの助言を聞きながら治療を行い上手く行っていた。
その間に、僕は守備兵の人と一緒に会頭さんに話を聞いてみた。
「あの盗賊は何か言っていましたか?」
「辺境伯領の商人は領主様の跡取りの結婚式後で金を持っているだろうと言っておりました」
「成程、そんな事を考えていたのか。今回はたまたま合同訓練をしていたから分かったが、暫く巡回を強化する様にしないと」
「合同訓練が行われていましたか。私達は運が良かったのですな」
確かに辺境伯領は、結婚式関連でお金が動いたからな。
今度はジンさん達の結婚式もあるし、暫く注意しないと。
という事で、今日の訓練は終了。
ギルドに戻ってきた全員がニコニコ顔だったので、ギルドマスターが冒険者に色々聞いていた。
「なんだ? そのにやけ面は。そんなにためになったか?」
「おお、凄い成果だったぞ。冒険者として一皮剥けそうだ」
「そんなに凄かったのか。仕事が無ければ俺も見てみたかったぞ」
「探索使えるやつも治癒魔法使えるやつも、更にパワーアップしたぞ。流石は華の騎士様だ」
「あそこまで囲まれて感謝されているという事は、本当に凄い効果があったんだな......」
ギルドマスターが見ている先には、沢山の冒険者に囲まれて改めて感謝を言われているティナおばあさまの姿があった。
騎士としての腕前もそうだけど話し方も場面によって上手く変えているし、何だか二つ名以上にカリスマ的存在になっちゃった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます