百六十七話 結婚式本番そしてブーケを巡る争い

「あ、やっと来たね」

「皆、こっちだよ」


 教会の客席の所では、エマさんとオリビアさんが遅いって顔で待っていた。

 僕達子ども達もそうだけど、どちらかというとジェイド様とソフィアさんのクラスメイトも待たせてしまった様だ。

 急いで所定の席に着くと、周りの大人達もやっと来たという表情で僕達を見ていた。


「すみません、遅くなりました」

「もう、どこか行ったと思ったわよ。アレク君がいるから、それはないと思ったけどね」


 イザベラ様からも少し心配された様な口調で言われてしまった。

 これからは注意しないと。

 因みに、僕とリズは辺境伯様と同じ長椅子に座ります。

 是非とも一緒にいてくれとのありがたいお誘いだった。


「それでは新郎の入場です」


 係のアナウンスで、後ろの扉が開いてジェイド様が入ってきた。

 やっぱりというか緊張していて、クラスメイトからも冷やかしが入っていた。


「やっぱりというか、お兄ちゃんも緊張しているね」

「普段の姿からは想像つかないくらい珍しいね」


 エマさんとオリビアさんも周りの人と同じ感想の様で、それでもお兄ちゃんしっかりとか言っていた。

 辺境伯様もイザベラ様も、緊張しているジェイド様の様子を穏やかな目で見つめていた。

 きっと今までの成長過程の事を思い出しているのだろう。

 

 少し教会内が落ち着いてから、係の人がアナウンスした。

 いよいよ新婦の入場です。


「それでは、新婦の入場です。皆様、大きな拍手で迎えて下さい」


 パチパチと沢山の拍手の中、再び扉が開くとケーヒル伯爵と共にウェディングドレスを着たソフィアさんが現れた。

 一礼した後、バージンロードを二人で進んで行く。

 そしてバージンロードを三分の二進んだ所で、ジェイド様がソフィアさんを迎えに来た。

 ジェイド様はケーヒル伯爵と少し話をした後、ケーヒル伯爵とガッチリ握手をしてソフィアさんを受け取り祭壇へ進んで行った。

 祭壇に向かって歩いていく二人の後姿を、ケーヒル伯爵は少し眺めてから所定の席へ移動した。

 

「それでは、これから二人の結婚を神様に報告する」


 いつもよりも豪華な司祭服に身をつつんでいる司祭様が、結婚式の開始を宣言した。

 来賓全員の視線を集める中、式は進んで行く。


「汝、ジェイド・フォン・ホーエンハイムは、ソフィア・フォン・ケーヒルを妻とし、終生愛する事を誓いますか?」

「誓います」

「次に、汝、ソフィア・フォン・ケーヒルは、ジェイド・フォン・ホーエンハイムを夫とし、終生愛する事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「それでは、お互い指輪の交換を」


 お互いの宣誓も無事に終了し、結婚指輪をお互いの左手の薬指にはめていく。


「それでは、誓いの口づけを」

「ソフィア......」

「ジェイド......」


 ジェイド様がソフィア様のベールを上げ、お互いの名前を口にしてから誓いの口づけをした。

 

「おお、ここに新たな夫婦が誕生しました。皆様、もう一度盛大な拍手を」


 口づけが終わってからこちらの方を向いたジェイド様とソフィア様に向けて、来賓から大きな拍手が起こった。

 イザベラ様とケーヒル伯爵夫人は、お互いの子どもの結婚に感涙してハンカチで目じりを押さえていた。

 おめでとうの声が響く中、ちょっとはにかんだジェイド様と笑みを浮かべているソフィアさんが腕を組みながらバージンロードを歩いていき外に出ていった。


「それでは皆様も外にお願います」


 司会のアナウンスに従って、教会内にいた来賓も全員外にでます。

 特に女性陣はワクワクが止まりません。

 というのも、これから結婚式の恒例行事が行われるからです。


「それでは、これからブーケトスを行いますので、参加される方はこちらにお集まりください」


 係の人が集合地点で手をあげると、ジェイド様とソフィアさんのクラスメイトを中心として独身の女性がわらわらと集まっていく。

 それを不思議そうに見つめてるのが、リズとエレノアとルーシーお姉様。

 

「ねーねー、お兄ちゃん。ブーケトスってなあに?」

「うーんとね、結婚式で新婦さんが持っているブーケを投げて、そのブーケをとると次に結婚できるだったけな?」

「おお、そうなんだ! リズも行く!」

「エレノアも!」

「二人とも待って」


 三人は僕の話を聞いて自分もブーケをとろうと女性の集団に近づいていく。

 が、中まで入れないで立ち止まった。


「うう、何だか凄い迫力だよ」

「怖くて近づけないよ」

「ちょっと無理だよ」

「「あはは......」」


 三人は、ブーケをゲットしようとする女性陣の気迫に完全に押されてしまった。

 三人の後を僕と一緒についてきたエマさんとオリビアさんも、目の前にいる女性陣の輪に加わる自信はなさそうだ。


「少し離れた所で、ブーケトスを眺めていましょう」

「三人とも小さいから、あの中に入ると怪我をしちゃうわ」

「「「はーい......」」」


 エマさんとオリビアさんに言われて、皆で少し離れた所で様子を見守る事に。

 その間にブーケトスの用意が出来た様で、女性陣の前にソフィアさんが後ろ向きで立っている。


「それではブーケを投げてください」

「えーい」


 ソフィアさんが声を出しながらブーケを高く投げた。


「ちょっと、私がとるのよ」

「私がとるの!」

「邪魔よ、どきなさい!」

「「「「「あはは......」」」」」


 空高く舞い上がったブーケをめがけて殺到する女性陣。

 さながらブーケを狙うブーケハンターになっている。

 あまりの迫力に、エマさんとオリビアさんを含むちょっと離れて見ている組はドン引き状態。

 そんな中、ブーケがバレーボールの様に大きくはじかれている。

 そして、何故か離れてみていた僕達の方に飛んできた。


「「あっ!」」

「「「おお!」」」


 ブーケはボロボロになりながらも、エマさんとオリビアさんの所に飛んできて二人でキャッチ。

 リズ達は、エマさんとオリビアさんがブーケをゲットした事にびっくりしている。

 勿論、想定外の事にエマさんとオリビアさんは固まっていた。

 ブーケハンターになっていた女性陣も、こちらを見たまま固まっていた。


「はい、壮絶な争いの結果、ブーケは新郎の妹である双子ちゃんがゲットしました。今一度大きな拍手を!」


 司会の人も想定外の事だったらしいけど、もめる前に強引に終了にしてしまった。

 もうこうなると女性陣も文句は言えず、とぼとぼと離れていった。


「ごめんなさい、ブーケをゲットしちゃいました」

「新郎の家族なのに」

「うふふ、何も問題はないわ。二人ともおめでとう。次は二人が結婚式かな」

「「「おめでとう!」」」


 エマさんとオリビアさんは、ボロボロになってしまったブーケをソフィアさんの所に持って行ったけど、ソフィアさんは何も問題ないと二人に言っていた。

 リズ達もついて行って、一緒に祝福していた。

 うん、血で血を洗う事態にならなくて良かった。

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