百六十四話 来賓の接待

 ジェイド様とソフィアさんの結婚式が明日に迫る中、僕達も結婚式の準備のお手伝いをしている。

 と言っても僕達にできる事は限られてるので、辺境伯様の所に来たお客様の相手をする事が多い。

 今は、とある子爵家と男爵家の人と応接室で話をしています。


「そうなの。リズ殿下は、帝国の皇女様と仲良しなのね」

「うん。リルムちゃんっていって、とっても可愛いの。今度お姉ちゃんになるんだ」

「皇帝陛下にお子様が生まれるのね」

「そうなの。双子なんだ、楽しみ!」


 今は子爵夫人とリズが帝国の事で話をしている。

 大体が既に公表されている事なのだが、リズが一生懸命に話をするのでニコニコと一緒に話をしている。

 子爵も男爵も年配の方なので、孫を見る様な微笑ましい目でリズの事を見ている。

 と、応接室に新たに人がきた。


「おお、二人ともここにいたか」

「辺境伯様、大丈夫ですかここに来て」

「少し休憩だ。流石にずっとはできないさ」

「おや? 辺境伯様、大汗をかいていますな」

「訓練だ。明日は警備も厳重になるし、念の為にな」

「流石は勇猛名高い辺境伯様だ。万全を期す為に、直前の訓練を欠かさないとは」

「国家の中枢におられる方もくる。念には念を入れなければな」


 若干引き締まった顔の辺境伯様が部屋に入ってきた。

 子爵と男爵にはそれなりの事を言っていて誉められているが、本当の理由は言えないだろうな。

 昨晩も今朝もお粥とかがメインだったらしい。

 ただ、実際に警備はかなり厳重になっていて、軍も警備の応援に出ている。

 また、辺境伯様がお金を出して冒険者に街道沿いの魔獣を狩る様に指示を出している。

 なので、どの貴族も安全に旅ができたと言っている。


「あ、アレク君とリズちゃん、こっちにきてくれる? あなたはそのままお願いね」

「「はーい」」


 イザベラ様が応接室に顔を出したので、僕とリズは別の所に移動する。

 流石にダイエットを頑張っているのが分かっているので、辺境伯様はそのまま来賓の相手をする事に。

 ドアを閉める際に、中の貴族がお互い家では家内の方が力が上ですなと言っていたぞ。

 僕とリズが連れて来られたのは広めの部屋で、中には二十人程の男女がいた。

 全員ジェイド様とソフィアさんの同級生らしい。


「皆、連れてきたわよ」

「わあ、可愛いな」

「本当にスライムを連れているんだ」


 僕とリズの事は知っているみたいで、あっという間に囲まれてしまった。

 そしてイザベラ様は、ササッと部屋から出てしまったぞ。

 うーん、どうしようかな。

 あれ?

 集団から少し離れた所に、顔に包帯をしている女性がいるぞ。

 リズもその事に気がついたみたい。


「あのお姉さんどうしたの? お顔痛いの?」

「ああ、少し前に火事に巻き込まれてね。顔だけでなく他にも火傷の跡が残ったのよ」

「私達は全く気にしないし、ジェイドもソフィアも気にしないけど、他の人の視線が気になるみたいだね」

「そうなんだ。お姉さんが、可哀想だよ」


 と、リズがトコトコと包帯を巻いたお姉さんの所に近づいていった。

 恐らく考えている事は一緒だから、僕も近づいていった。


「包帯を巻いたお姉さん、ちょっと待っていてね」

「リズ殿下、何をされるのですか?」

「お姉さんの火傷の跡を治すの!」

「「「え!」」」


 おお、お姉さんよりも周りの人の方がびっくりしているぞ。

 その間に僕とリズは魔力を溜め終えた。

 スラちゃんとプリンも一緒に魔法を溜めている。


「「えーい」」

「え!」


 僕とリズの合体魔法でお姉さんの火傷の跡を治す。

 お姉さんは火傷でできた皮膚のひきつれが無くなったので、直ぐに効果を実感したらしい。


「ちょっと待っていてね」

「おお、すげー。火傷の跡が全く無いぞ」

「凄いわ。綺麗サッパリ跡がないわよ」


 包帯を巻いていた女性を椅子に座らせて、包帯を外した。

 綺麗に治っている様で、肌色も問題ない。

 火傷した所だけ化粧をしていないので、少し顔色に違いがあるけど。

 直ぐに他の女性がササッとお化粧直しをして、女性に手鏡を渡した。

 女性は鏡に写っている自分の姿を呆然と眺めていた。

 そして、ポロポロと涙を流し始めた。

 泣いているお姉さんに、リズがニコッと話しかけた。


「お姉さん、治って良かったね」

「うう、リズ殿下有難う御座います」

「わっと」


 リズは、抱いていたスラちゃんと共にお姉さんに抱きしめられている。

 男の人も含めて、何人かはお姉さんにつられて泣いている。

 良かったねと、皆がお姉さんに声をかけていた。


「本当に有難う御座います。このお礼は、何年掛かっても必ずお返しします」

「リズが治したいって思ったから。お金は要らないよ」

「ですが……」


 お姉さんはリズに相当恩義を感じているのだが、リズは全くお金を受け取る気がない。

 リズも相手をちゃんと判断して治療するので、その辺は譲らないだろう。

 ここで主役の二人がやってきた。


「おや、もう治療してもらったか」

「うんうん、すっかり綺麗になったわね。ちなみに不妊で悩んでいたと思うけど、体の方も良くなったわよ」

「えっ!」


 各方面への挨拶が終わってようやく顔を出したジェイド様とソフィアさんが、治療をした女性に話しかけていた。


「そういえば、お腹も悪かったみたいでした」

「でも、一緒に治したよ!」

「えっ、本当ですか?」

「うん」


 女性は少し立ち上がってみると、軽く体を動かしてみた。


「凄い、自分の体なのに自分の体じゃないみたい。とっても体が軽いの」


 女性は自分の体の変化にびっくりしていた。

 顔色も良くなったので、体調も良くなった様だ。


「ちなみにその女性は王都の大商人の娘だ。あのソースの事も相談に乗ってくれると思うぞ」


 ジェイドさんが僕とリズに話しかけてきた。

 そして、あのソースを使った料理を出してきた。

 皆料理に夢中になっている。


「なんだコレ、すっごい美味しいぞ」

「ただの野菜炒めなのに、なんでだろう」

「このソースに秘密がありそうだ」


 あー、更にソースの中毒になる人が増えそうだ。

 そんな中、治療した女性がソースの分析をしている。


「これは野菜を発酵熟成させたソースですね。スパイスの配合が絶妙ですね」

「おお、お前のお眼鏡に叶ったか」

「はい、これは良いものです」


 流石は大商人の娘だ。

 直ぐにソースの正体に気がついた。

 

「お姉さん、このソースになります」

「アレク殿下、このソースはどこで販売されていますか?」

「隣のバザール伯爵領の市場で販売しています」

「そうですか。是非領主の人と交渉してみたいですね」

「では早速やります? ちょうど辺境伯様の屋敷におりますので」

「え?」


 という事で、さっき到着したハンナさんをお招きして、皆で話し合いに。


「販路については悩んでいたのでとても有難い提案です」

「我が商会は王国内に留まらず、帝国にも販路が御座います。また、既存の商会を潰す真似は致しません」

「このソースにバリエーションとかあったら、もっといいなあ」

「お前の領地はトマトの産地だから、お手軽パスタソースとかできそうだな」

「ふふふ、私の領地の親方なら、長期保存に向く瓶を作れるのよ」


 皆で色々と意見を出し合っている。

 うーん、この話し合いに閣僚も混ぜてあげたい。

 それほど、このソースの虜になったらしいぞ。

 そして、話してみてびっくりしたのがハンナさんと他の人が同じ年だったこと。

 その内にハンナさんと他の人の気があって、商売抜きで話が盛り上がっていた。

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