百六十三話 寂しがりやのヤンキー当主

 取り敢えず群衆には説明をして帰ってもらった。

 それでもかなりプリプリしていて、あの馬鹿貴族に厳罰をって叫んでいた。

 ちなみにベストール侯爵の馬車や侍従は、王都郊外の駐屯地へ送っておいた。

 そして、皆で辺境伯様の屋敷の応接室に集合して話をする事に。


「あいつは一応同級生ですよ。クラスメイトではありませんが」

「見ての通り粗暴で頭も悪く、取り巻き以外は誰にも相手にされない人でしたよ」


 来客の応対をしていたので駆けつけるのが遅くなったジェイド様とソフィアさんが色々と教えてくれた。

 なんとあのベストール侯爵はジェイド様とソフィアさんの同級生だという。

 ヤンキー貴族の学園生活には、ちょっと興味があるな。


「一応招待状は送ったけど、辞退するって普通に帰ってきたぞ」

「新しい当主になってから念の為にもう一回確認したけど、やはり辞退って返事だったわよ」


 辺境伯様とイザベラ様もキチンと対応しているし、相手先の返事も普通だったという。

 再確認もしているし、こちらに落ち度はない。


「父上の新年の挨拶の時や謹慎を言い渡したときに僕も同席していましたが、人の話を聞いていない様なそんな感じでした」


 ルーカスお兄様も実は会っているという。

 というか、ベストール侯爵はルーカスお兄様に会っていてそれで暴言を吐いたのかよ。


「何だか動物って感じだったよね」

「ちゃんと躾されてないようだな。感情を抑えられていないぞ」


 リズの感想に、ティナおばあさまが更に感想を言った。

 確かに感情を制御できない辺り、甘やかされて育ってきた可能性が高いな。


「結局、何しに来たんですかね?」

「それが一番の問題だな。辺境伯領にきたのは、何か裏があったりするかも」


 僕の感想に軍務卿も同意している。

 今回何を考えて辺境伯領に来たかを確認しないと。

 と、ここでティナおばあさまの魔導具に連絡が入った様だ。

 タブレット端末みたいで良いなあ。

 おや?

 ティナおばあさまは、結果を見てかなりびっくりしているぞ。


「奴の取り調べで、いま時点の動機が判明したわ」

「それは一体?」


 辺境伯様がティナおばあさまに問いかけると、ティナおばあさまは溜息をついてから答えた。


「ベストール侯爵がここに来た理由は、寂しかったからだそうだとの事よ」

「「「は?」」」


 ちょっと待って、意味がわからないぞ。

 寂しかったからって、何で結婚式に乗り込んで来るんだ?

 この場にいる全員が、はてなって感じになった。


「謹慎処分になって誰にも会えなくて寂しかった。結婚式に行けば誰かに会えると思った。侯爵だから押し通せば何とかなると思ったらしい」

「えっと、つまりベストール侯爵はヤンキーだけど寂しがりやという事ですか」

「そうらしいな」

「「「はあ……」」」


 何というアホな理由だよ。

 そんな理由で謹慎処分を破ってまで辺境伯領に来たのかよ。

 一同、呆れて物が言えないでいる。


「ちなみに頭に血が上って途中の事は全く覚えておらず、気がついたら牢屋だったという事だ」

「確かに言動が普通じゃなかったからなあ……」


 感情が爆発して何も覚えていないのか。

 これじゃ取り調べしても、何も進展はなさそうだ。

 

「当主交代はするとして、矯正教育の為に強制労働と合間を見ての教会での説教が基本路線らしい。ちなみに弟は兄のせいでだいぶ苦労したからか、かなりまともらしい」

「あの兄を見たら、反面教師になりますね」


 今更になるけど、カツンとした教育をしないとなあ。

 貴族当主が強制労働って屈辱的だけど、ヤンキー根性で乗り切ったりして。

 という事で、この事は終了。

 裏に何かあるかと心配したけど、表しかなくて良かった。

 そして、辺境伯様ににっこりと笑うイザベラ様。


「さて、あなたは減量の続きですよ。たっぷりと汗をかいて貰わないと」

「では、再開しましょうか。近衛騎士流の訓練を。結婚式までに体を絞らないと」

「ひいいい……」


 ティナおばあさまが、辺境伯様の事を何処かへ連れて行く。

 行き先は僕の屋敷の庭らしい。

 そこで減量の為に訓練を行うそうだ。


「イザベラ様、頼まれていた物です」

「あら、ありがとうね。早速ビリッといってしまったズボンを治さないとね」

「来賓の挨拶が終わっていないので、私とソフィアは戻ります」

「それでは、私も同席しよう。さっきの騒動の顛末を伝えないとな」


 辺境伯様はいないものとして、皆が一斉に動き始めた。

 僕達もうちに帰ってミカエルの元に行こうとした時だった。

 

「そうだ、せっかくだからリズちゃん達は勉強を教えてあげるよ」

「王城と同じく書き取り問題ね」

「「「「えー!」」」」

「ははは……」


 レイナさんとカミラさんの提案に、リズ達の絶叫が響き渡った。

 こうして、結婚式三日前の日常が元に戻ったのだった。

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