百六十一話 事態の終息に掘り出し物の発見

 今日も朝から王城なのだが、辺境伯様の屋敷に行ってジェイド様を迎えに行った。

 そして王城に向かったのだが、何故か騎士服に着替えているティナおばあさまとエレノアとルーシーお姉様の姿があった。


「調査の続きで安全だからね。昨日ルーカスが良い勉強になったと言ったので、ルーシーとエレノアもって事になったのよ」


 うーん、正直まだルーシーお姉様とエレノアには早いかもしれない。

 リズも全部は把握できていないようだし、見学くらいに思っておこう。

 今日は外務卿と内務卿が同行する事になった。

 王都郊外の駐屯地に一回移動して、それからバザール伯爵領へ。

 

 先ずは昨日押収した資料の分析の続きだ。

 外務卿は違法奴隷になった人のリストを見て溜息をつき、内務卿は中抜きされた農家の一覧を見て目を覆っていた。


「話には聞いていたが、実際に物を見るとあ然とするな」

「今日明日にも、農家への補填を開始したいな。輸送と護衛の件でギルドと交渉しないと」

「ここは手分けしましょう。リズちゃんにエレノアとルーシーもね。冒険者の人も行きましょう」

「「「はい」」」


 流石はティナおばあさまだ。

 暇そうにしていたリズとエレノアとルーシーお姉様に、やる気になる仕事を与えている。

 冒険者のお姉さんを連れて行くのは、村の地理を把握するためだな。

 その間も、内務卿とハンナさんと官僚が農家に戻すリストを作っていく。

 僕も少しお手伝いしてリストを作っていった。

 外務卿も違法奴隷のリストを元に対応検討中。

 タブレットみたいな魔導具を使って、頻繁にやり取りをしていた。

 

「よし、これで良いだろう。次は金を準備するか」

「屋敷の金庫を開けます」

「それがいい。個人の資産や屋敷の備品は処分が決定するまで売却はできないぞ」

「はい」


 農家への保証金のリストができたので、今度は革袋にお金を入れ始めた。

 ちょうどそのタイミングで、ティナおばあさまが冒険者を引き連れて戻ってきた。


「ギルドとの交渉はオッケーよ。冒険者もやる気満々だわ」

「こういう護衛任務なら任せてくれや」

「この領地の村は、一日あれば往復できるぞ」

「よし、リストと金を纏めたものを兵に渡そう。一緒に行って道案内を頼む」

「任せてくれや。魔物も討伐したし、街道は安全だ」


 何人かのグループに分かれて、準備できた分から兵と冒険者が馬車に乗って各村に向かっていった。

 これで農家への補填金は大丈夫。

 

「報告します。王都から物資を乗せた馬車が到着しました」

「よし、各商会に引き渡して村へ運ぶ様に」

「はっ」


 兵から王都からの物資が届いたと連絡があった。

 内務卿が直ぐに指示を出して、これも冒険者の護衛がついて村に向かっていった。

 辺境伯領との取引も再開したし、周辺の領地とも取引再開の交渉中らしい。

 これでひとまず生活面は安心かな。


「華の騎士様、このお店がお勧めです」

「有難う。いいわね、こういう雰囲気は好きよ」


 街中は物資が行き届く様になり、お店も再開し始めている。

 再開した商店にお金を落とそうと、皆で食事と買い物に出かけた。

 地元の冒険者に案内されたのは、人気だという定食屋。

 大人数でお店に到着。

 注文をして皆で待っています。


「良い匂いがしてきたね」

「お肉の焼けるいい音だよ」

「楽しみ!」


 厨房からはジュージューといい音と匂いがしている。

 リズ達はもう待ち切れない様だ。

 待ち切れないのは大人も同じだ。


「こういうお店はきっと美味しいわよ」

「久々に、肉にかぶりつきたいですな」

「テーブルマナーも気にする必要もないし、楽しみだ」


 ティナおばあさまと内務卿と外務卿は、こういう大衆料理をとても楽しみにしている。

 閣僚は、やっぱりこういう料理が好きなんだな。

 堅苦しい貴族料理よりも、こういう気楽な料理が好きらしい。


「はい、おまたせ」

「「「わーい」」」


 食堂のおばちゃんが、お皿に大量に盛られた野菜炒めを持ってきた。

 他にも沢山の料理が運ばれてきている。


「「「美味しい!」」」

「そうかい。いっぱい食べな」


 リズ達は、出された料理をもりもりと食べている。

 僕も食べるけど、とても美味しい。

 このソースに秘密がありそうな気がするぞ。


「おかみさん。このソースって秘伝の物ですか?」

「いや、この辺りの名産なんだよ。領主様は、庶民の味っていって嫌いだったみたいだよ」

「そうなんだ。ソースかけて炒めればこんなに美味しいのに」


 僕とおかみさんの会話に、早速大人が反応した。

 食後に市場に行くと、直ぐに店頭に並んでいるソースを発見。

 ティナおばあさまは、早速店主に話を聞いていた。


「これってさっきのお店でも使っていたソースですか?」

「そのソースは、この辺の店ならどこでも使っているよ。濃厚で少しスパイシーなソースだ」

「これ、いくつか貰えますか?」

「私も買おう」

「あ、抜け駆けはズルいぞ」


 トンカツソースみたいな味わいで、色々な料理に合いそうだ。

 ティナおばあさまと内務卿と外務卿は勿論の事、ジェイド様やハンナさんもソースを購入している。

 僕も買ったけど、リズ達も買っているぞ。

 どれだけあのソースの中毒になったんですか。

 

「あ、このアクセサリ可愛いな」

「リズちゃんに似合うよ」

「じゃあ買っちゃおう」


 リズ達は露店で売っているアクセサリを購入している。

 ティナおばあさまは、珍しい反物や服を購入している。

 内務卿と外務卿は、地元のお酒を買い漁っているぞ。

 市場の人も買い漁った人も、皆ホクホク顔になっていた。

 といいつつ、僕も珍しい食べ物を買ったけど。


 屋敷に戻って仕事の続きをする。

 緊急対応は終わり、兵の部隊も引き継ぎは完了。

 元々農業が盛んなバザール伯爵領では、一定の農業収入もある。

 冒険者ギルドも動き出して、そこからの税収も見込まれる。

 専門家である官僚の計算はこうだ。


「なので計算した所、実は最低税率でも十分に国庫に納める分の支払いができます」


 経理担当の官僚は、眼鏡をクイッとしてドヤ顔だ。

 更に内政担当の官僚も不敵に微笑む。


「開墾がされていない土地が多く、水源も十分にあります。村人のやる気も高く、開墾計画も進めます」


 開墾計画もたて放題で、人手もある。

 元々農業のノウハウを持っている人が多いから、士気も高い。

 内務卿も外務卿もうんうんと頷いている。

 そこにティナおばあさまも加わった。

 

「調度品とか見てみたけど、どれも価値があるものね。屋敷に必要な物以外を売却しても、余裕で罰金を払えるわね」

「伯爵夫人が持っていた宝石コレクションの数々も、物凄い価値です。罰金を払っても開拓資金は大丈夫でしょう」


 ジェイド様も宝石の数々を見て、どれだけの価値があるかが分かったようだ。

 

「ハンナさん。屋敷に残したい物はありますか?」

「母の形見の宝石と、後は屋敷にある書籍は残して頂ければと」

「形見は既にハンナの物だから心配はない。書籍も屋敷の人間の共有財産だから、徴収の対象外だ」

「というか、ハンナは読書が趣味か。道理で頭が良いはずだ」

「本はいつでも読んで良かったので、時間が空いている時に良く読んでいました。それこそ、無作為に読んでいました」


 ハンナさんの知性の秘密は読書か。

 というか、当主であった父親と兄よりもよっぽど領主としての適性があるのでは?

 ここにいる全員が同意する事だろう。


「何れにせよ、処罰が確定してから計画は実行となる。策定は進めておいてくれ」

「「畏まりました」」


 内務卿がこの場を締めて、うん、やることがなくなっちゃった。

 なので、王都郊外の駐屯地に最初に対応した部隊を送ってから、皆で王城に向かった。

 リズとエレノアとルーシーお姉様は、直ぐにルーカスお兄様の所に向かっていった。

 そして、陛下と閣僚にジェイド様やティナおばあさまも会議室にいるが、何故か冒険者のお姉さん達も同席する事になった。

 閣僚とは全員会っているけど、流石に陛下の前では緊張している様だ。


「冒険者よ、そなた達は立派に故郷の為に働いたのだ。閣僚や他の者からも高く評価されている」

「「「恐れ入ります」」」


 冒険者のお姉さん達は、今回は大活躍だった。

 バザール伯爵の兵も捕らえたし、違法奴隷の救出もしている。

 閣僚や王族の護衛もそつなくこなし、ティナおばあさまと共にギルドとの交渉もしている。

 十分過ぎる程の活躍だったよな。


「三日間の従軍活動や護衛に対しては、正当な対価を支払おう。これからは故郷に戻るか?」

「一度故郷には戻りますが、上位ランクを目指し辺境伯領での活動を続けようと思います」

「成程な。有能な冒険者が増える事は、国益にも繋がる事だ。これからも精進するように」

「「「有難う御座います」」」


 冒険者のお姉さんもきっと凄い冒険者になる。

 僕はお姉さんを見ながらそう思った。


「しかしながら、この税収見込みは凄いな。今までどれだけ自堕落な生活を送っていたかの証拠にもなるな」

「財産などを鑑定しましたが、公爵や辺境伯を軽く超える規模があります」

「そんな財産を集めてどうするつもりだったのか。内務卿にハンナよ。開墾計画は早急に策定し実施するように。正当な統治行為なので、問題ないぞ」

「「承知しました」」


 リストをペラペラとめくりながら、陛下は内務卿とハンナさんに開墾の指示を出した。

 罰金が減る以上に、税収が上がる方が旨味があると睨んだらしい。


「違法奴隷は全て保護した。殆ど侍従として扱われていたぞ。給料は払われてなかったがな」

「とはいえ、怪我がなくて良かったです。私の屋敷で保護している人も、あと数日で怪我は全快します」

「とはいえ、心のケアもしなければならない。引き続きアレクの所で面倒をみてくれ」

「はい、承りました」


 違法奴隷は王城で保護されたけど、ベストール侯爵一派に対する今回の処罰はこれかららしい。

 外交交渉も必要なので、当分はこのままの予定だ。


「今回の処罰の結果は、ジェイドの結婚式の後になるな。アレクの誕生日パーティで発表できれば良いだろう」

「だいぶ先になりますね」

「簡単に言うとハンナの存在が大きい。領地持ちだから、断絶してもその後どの法衣貴族を充てがうかで揉める事になる。今回はその方向も考えたが、ハンナの存在が明らかになったからな。降格して罰金が基本線だ」

「我が家の不祥事に対し、色々と申し訳ありません」

「ハンナが悪い訳ではない。あくまでもそなたの父と兄の所業と捉えよ」

「はい」


 ハンナさんの身の振り方も決まりそうだし、これで一段落かな。

 会議は終わってハンナさんをバザール伯爵領へ、ジェイド様に冒険者のお姉さん達を辺境伯領へと送ったが僕とリズは残ることに。

 その理由が、例のソースだった。


「このソースを使った料理が美味と聞いたが、これは旨いな」

「本当よね。バザール伯爵は、舌が腐っているのでは」

「調理人にも研究させましょう。帝国も好む味付けですわ」

「ルーシーもエレノアもリズも、こんな美味しいのを食べたなんて。僕も、昨日行った時に食べたかったよ」


 おやつ時なので軽めのメニューだったけど、王族の人もこのソースの虜になった様だ。

 更に研究もさせようとするほどの熱の入れようだ。

 まさかこんなにも人を虜にするなんて、魔法のソースだ。


 屋敷に戻っても、このソースは大好評。

 僕とリズが元違法奴隷のお姉さんの治療を行っている間に、いつの間にか試食会が始まっていた。

 屋敷に来てから部屋に閉じこもっていた元違法奴隷のお姉さんも、試食会に参加している。

 うーん、美味しい物の影響力って半端ないな。

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