百六十話 御用商会の捜索と雑談

「久々に有り合わせの物で食べたが、たまにはこういうのもいいなあ」

「私はこういう料理は結構好きですよ。豪華な料理は脂っこくて、実はあまり好きではないのですよ」


 今日も、昼食は炊き出しの料理を皆で食べています。

 商務卿も農務卿も、待ってたと言わんばかりに食べている。

 昨日は宰相も美味しそうに食べていたし、閣僚はこういう料理が好きなのかも。


 住民への炊き出しも今日は程々の列になっている。

 昨日は長蛇の列だったけど、今日は辺境伯領から物資が集まってきているのが大きい。

 市場にも、チラホラと商品が並んできている。


「物流が少しずつ改善してきましたね」

「お金と品物が動き始めれば、経済は少しずつ回復する。安値で買い叩かれた農家に対しても補償を行えば、だいぶ状況は変わるだろう」

「ギルドに教会も協力的になっている。それだけ歴代の当主に対する鬱憤が溜まっていたのだろう」


 午後の捜索の対象となる、御用商人の商店に皆んなで向かいます。

 僕は、閣僚と話しながら街の様子を眺めています。

 冒険者のお姉さんも護衛についてくれています。

 お姉さん達も、街の状況がかなり良くなって安心している。

 故郷の村にも商隊と冒険者が向かっているという。

 

「こりゃまた豪華な建物だ」

「正に無駄使いの極みだな」


 商務卿と農務卿が、御用商人の商店を呆れて見上げている。

 うん、豪華な看板に中の調度品も派手だ。

 ここも兵によって厳重に警備されている。

 僕達は、二階の会頭の部屋に向かった。


「ご丁寧に、農家ごとにどれだけの収穫と金額で買い取ったかが記載されているな」

「帳簿だけ見ると丁寧な仕事だが、やっている事がクズだな」


 取引帳簿を見ると、直ぐに農家との取引実績が載っていた。

 この帳簿があれば、農家への補填も直ぐにできそうだ。

 そんな中、ハンナさんがとある書類を持ってきた。


「我が家の財政情報を記した資料です。御用商会が、我が家の財政管理を一手に引き受けていました」

「いや、ハンナよ。どうしてこの資料がここにあると知っているのだ?」

「私は、よく色々な所に使いに出されていました。父に付き添ってこの商会にも訪れております。私が侍従だからなのか、父はよく無警戒で資料を広げておりました」

「はあ、身内だから情報が流出する危険がないと思ったのだろう。ちっ、違法奴隷が誰の所有物なのかも書いてやがるぞ」

「違法奴隷の方々のお世話も私がしておりました。兄の子が嬉々として奴隷を叩くのを止める事ができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです」


 つまりバザール伯爵家にとっての恥部の世話を、ハンナさんに押し付けていたのか。

 皮肉にも、情報が一手に集まる事になったのだが。

 違法奴隷の事を思い出して暗い表情のハンナさんに、僕が提案をしてみた。


「ハンナさん、夕方になりますが違法奴隷の方々に会いますか?」

「是非会わせて下さい。彼女達にバザール家の者として謝罪をしないといけません」

「分かりました。僕とリズが帰る時に、一緒に行きましょう」

「アレク殿下、ありがとうございます」


 ハンナさんが感謝のお辞儀をしてきたけど、違法奴隷になった方々もハンナさんなら会いたいと思うはずだ。

 そんな時に、会頭の部屋で宝探しをするかの様にゴソゴソと動いていたリズとスラちゃんが、戸棚の中から何かを見つけた様だ。

 部屋にいる皆が、リズとスラちゃんの元に集まります。

 ちなみにプリンは、昼食後にもう定位置になってる僕の服のフードの中で寝ています。


「お兄ちゃん、袋の中にお金がいっぱいあるよ!」

「どう見てもまともなお金じゃないですね」

「このお金の事は、私も知りません」

「もしかしたら、捜索で探されないように隠していたのかもな」

「いずれにせよ大手柄だ、リズちゃん」

「えへへ」


 ジェイド様に誉められて、満面の笑みのリズとスラちゃん。

 このお金は帳簿外の物だろうな。

 屋敷と商会の資産一覧に農家との取引記録に加えてリズが見つけた金貨が入った皮袋も押収し、僕達は屋敷に戻った。

 早速処分できる資産と処分できない資産をリストアップし、農家への補填金の算出を始めた。

 そんな中、軍務卿がジェイド様に結婚式の件で話し始めた。


「そういえばジェイドよ。結婚式の準備は大丈夫なのか?」

「母上とソフィアが張り切って準備していまして。実は、何もやることがないんです」

「ははは、もうソフィアに尻に敷かれているのか」

「学園の頃からずっとです。ソフィアは行動的ですから」

「そういや、うちも娘の結婚式の準備で家内がえらく張り切っているぞ」

「結婚式なんて、どこでもそんなもんだ。うちの息子の時も、女性主導だったぞ」


 何だか閣僚のうちの結婚式事情になっているが、どこも女性が主導で動いているんだ。

 商務卿の所ではレイナさんの結婚式が夏にあるから、きっと準備で奥様が忙しく動いているのかも。

 そんな雑談をしながら仕分け作業をしていると、あっという間に夕方になった。

 一旦全員王城に向かって、今日の進捗を報告する事に。


「ハンナが調査に加わって、捜索もかなり進んだ。この功績は大きいな」

「我が家の恥を晒す形となり、申し訳御座いません」

「不正はそなたの父と兄のせいになる。とはいえ、処分は継続して審議になる」


 ハンナさんは謙遜しているけど、今日の捜索の進展は間違いなくハンナさんのお陰だ。

 そして陛下はルーカスお兄様に話しかけた。


「ルーカスよ。今日はいい経験になっただろう」

「はい。今日見て感じた事は、一生の財産になると思います」

「うむ。良い顔をする様になったな」


 陛下もルーカスお兄様が何かを感じ取った事を嬉しく思っている様だ。

 ルーカスお兄様も、きっとこれから民の為の事を思ってくれるはずだ。


「明日朝に商隊が着くはずだ。軍も朝には出せるだろう。状況次第だが、明日でジェイドの副官も解除できよう」

「陛下、今回領地統治について重要な事を学ぶ事ができました。これから更に勉強していきたいと思います」

「そなたも良い顔をする様になった。辺境伯領は国の砦だ、これからの成長に期待しているぞ」

「はっ」


 ジェイド様も大きな経験になったと昨日も言っていた。

 将来の辺境伯領も、きっと安泰だろうな。

 また明日朝王城に集まるという事で、今日は解散する事に。

 ジェイド様も、今日は辺境伯領に戻ります。

 

「「ただいま」」

「あらお帰りなさい。今日はジェイドも一緒なのね。そちらの方は?」

「初めまして。バザール伯爵の代理当主を仰せつかりましたハンナと申します」

「あら、伯爵の所にこんな綺麗な娘さんがいたのね。先ずは中に入って」


 僕の屋敷に着くと、イザベラ様が出てきた。

 今日の結婚式の準備が終わってから、また違法奴隷のお姉さん達の様子を見に来たらしい。

 直ぐに食堂に行くと、今度はソフィアさんがお茶を入れてくれた。

 一息ついてから、昨日のお姉さんの所に行くことに。

 ジェイド様も許可が出たので、一緒についていく事になった。

 どうも助け出された時に指揮を取っていたのを何となく覚えていたらしく、問題ないと言っていた。

 ハンナさんはお姉さんに自分の事を伝えた上で、涙ながらに謝罪していた。


「本当にごめんなさい。謝っても許される事ではないけど、私にはこれくらいしか出来ることがなくて……」

「ハンナさんは私達の事をいつも気にかけてくれましたし、私達の中では一種の希望でした」

「だから何もできないなんて言わないで下さいね」


 逆に、ハンナさんがお姉さん達に慰められていた。

 ハンナさんがお姉さん達に丁寧に接していた証拠だろう。

 僕とリズは、その間に合体魔法の準備をしていた。

 そして、昨日治療できなかったお姉さんに魔法をかけると、お姉さんの肌が綺麗になった事に一同びっくりしていた。

 

「前にも見たけど、物凄い魔法だね」

「肌だけでなく、体の中もできる限り治しました」

「今日は魔法をあんまり使っていないから、まだまだ治療できるよ」


 僕もリズも、昨日と違って魔法は満タンに近いからまだまだ治療はできる。

 小さい子からという事になり、小さな子から合体魔法で治療していった。

 その間にハンナさんは全ての人に謝罪し、ジェイド様が今後の予定を軽く話をしていた。

 

「今日は三人治療できました」

「あと二日あれば、余裕で治療できるよ」

「有難うございます。傷が良くなっただけでも、あんなに明るくなるなんて。本当に良かったです」


 僕達も順調に治療できたので、ほっと一安心。

 ハンナさんをバザール伯爵の屋敷に送った時に、だいぶ感謝された。

 捜索自体は明日一日で終わるはずなので、これで一息つけるはずだ。

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