百五十三話 結婚式の準備

 今日の僕の屋敷は、ちょっとドキドキ感で包まれていた。

 僕やリズやチナさんだけでなく、イザベラ様や侍従も固唾を呑んでとある人物を見守っていた。

 その人物を、リズが呼んでみた。


「ミカちゃん、こっちにおいで」

「あー」

「「「ミカエルが歩いた!」」」


 そう、ミカエルがほんの少しだけど歩くことができる様になったのだ。

 リズが呼んだ方に、少しだけど確かに歩いていた。

 僕も含めて、歴史的瞬間に立ち会った様だぞ。


「うんうん、私達も初めて赤ちゃんが歩く所をみました。アレク殿下とリズ殿下は、いつの間にか部屋の中を歩いていましたので」

「こんなに感動的なんですね。私達も生まれる子の成長が楽しみです」


 こう言っているのは、侍従のお姉さん。

 実は侍従のお姉さんも、二人ともに妊娠が発覚したのだ。

 勿論、僕もリズも大喜び。

 冬には生まれるらしいので、とっても楽しみです。

 ミカエルの乳母役で一緒に来た侍従も、僕の屋敷を護衛している兵と良い関係らしい。

 皆が幸せになって、ちょっと嬉しいな。

 そんな中、イザベラ様が僕とリズにあるお願いをしてきた。


「さて、今日はアレク君とリズちゃんに冒険者として依頼があります」

「なんですか? イザベラ様」

「息子の結婚式でお祝いの為に白い花を撒くのだけど、その白い花を集めて欲しいの。できれば沢山ね」

「是非やらせてください」

「いっぱい集めるよ!」


 こういうのは前世でもあったらしいし、ジェイド様とソフィアさんにはとてもお世話になっている。

 なので、僕とリズは二つ返事で了承した。


「そうかい、ならおばちゃんも薬草採取が終わったら付き合ってやるよ」

「跡取りの結婚式には、街の人皆で祝うのだよ。だから、そういう事には私達も参加したいのよ」


 薬草採取と併せて白い花を集める事になったので、いつも一緒のおばちゃんに話をすると手伝ってくれることになった。

 他の人も手伝ってくれるらしい。

 街の人も、結婚式はとても楽しみらしいです。

 という事で、皆で森に向かっていきます。

 ちなみに、僕達の護衛強化に兵が二人ついてくれた。

 冒険者登録もしてあるので、ちゃんと依頼分の報酬も受け取ります。

 とても責任重大だけど追加報酬もあるので、僕達の護衛は順番制らしいです。


「緑が多くなって、魔物も増えてきましたね」

「人も魔物も、暖かくなって活動的になったんでしょうね」

「でも、襲ってくる魔物だけやっつけているよ」


 森に入って少しすると、いつもの通りに魔物が襲ってきた。

 護衛の人と話をしているけどだいぶ数も増えてきたが、リズの言うとおりに余計な討伐はしていない。

 街道を通る馬車を襲うことも少ないので、このままにしているらしい。


「とー!」

「リズ様、お待ち下さい」


 というか、リズにスラちゃんよ。

 護衛を差し置いて魔物に突っ込んでいかないの。

 後でリズにはもう一回説明しないと。


 スラちゃんとプリンが血抜きをしている間に、先ずは薬草採取から始める。

 護衛の兵も、次々に見つかる薬草に驚いている。

 リズと一緒に薬草採取にきている子ども達は、たまに現れる野ウサギやスライムを撫でていたりしていた。

 僕はある程度薬草を採ったら、白い花を集める事に専念する。

 森の中は色々な種類の花が咲いていて、とっても華やかだ。

 

「お兄ちゃん、リズも手伝うよ!」

「私達も手伝おうかね」

「僕も手伝うよ」


 そこに、薬草採取を終えた他の人も参加してきた。

 実は今日の薬草採取の人には白い花を集める依頼も受けてもらった。

 イザベラ様からの指名依頼って事になっている。

 結婚式前に花を集めるのはよくある依頼らしく、初心者冒険者の定番らしい。

 皆で集めたので、あっという間に必要量が溜まった。

 いつもの通りに午前中に全部終わったので、皆でギルドに戻って手続きを済ます。


「アレク様もリズ様も、もう少しでランクアップ出来ますね」

「おお、リズ頑張るよ!」

「でも、暫く公務が続くから冒険者活動はできないよ」

「しょぼーん」


 受付のお姉さんの言葉にリズとスラちゃんは喜んでいたけど、直ぐに僕の言葉によって落ち込んでいた。

 ちなみにプリンはいつも通りに、僕の服のフードの中で寝ています。

 うーん、ランクアップ出来るのは夏くらいかな。

 そんな事を思いつつ、昼食にします。

 ギルドの食堂も久々だ。

 なんかこう濃い味付けもいいなって思うよ。

 お肉を食べている感じがして好きだな。


「アレク君とリズちゃんは、王城の料理も食べるの?」

「食べますよ。昨日も食べてきました」

「こういう庶民の味も問題ないの?」

「全然平気だよ。それにとっても美味しいよ!」

「それがアレク君とリズちゃんらしさだね」


 今日は、冬に一緒に薬草採取をした新人冒険者のお姉さん三人とご飯を食べています。

 お姉さん達は地方からきたから、僕とリズが王族だって知らなかったみたいで、初めて知った時は凄くビックリしていた。

 でも、直ぐに今まで通りに接してくれています。

 お姉さん達はほぼ毎日冒険者活動をしているので、既にGランクは卒業しています。

 たまに早朝の魔法訓練で一緒にやることもあります。


「私達が生まれた村は田舎だったから、食事は不味かったな」

「そうなんだ」

「塩や香辛料があまりないから、どうしても味が淡白なんだよね」

「だから、ここの食堂の料理を初めて食べたら、とても美味しいって感動したよ」

「そうなんですね。うーん、地方の物流はもっと改善しないと駄目ですね」

「あ、お兄ちゃんがお勉強モードになっているよ。今は食事中だよ」

「ごめんごめん、今度王城行った時にするよ」

「はは、アレク君は真面目だね」

「でも、食事中は駄目なの」

「はいはい」


 リズに怒られちゃったけど、たまにこうして色々な人と話をするのはとっても為になる。

 でも、お姉さんの故郷は確かベストール侯爵一派だったから、少し気になるな。


 ギルドから帰ったら、イザベラ様に無事に白い花が集まった事を報告した。


「あら、もう集まったのね。アレク君にリズちゃん、どうもありがとうね」

「沢山の人が手伝ってくれました」

「皆、結婚式楽しみなんだって!」

「あら、それはありがたいわね。また結婚式が近くなったら、別の依頼をお願いするわ」

「「はい」」


 取り敢えず、今回の結婚式前の依頼は完了。

 次回の依頼はなんだろうなと、リズはとてもご機嫌だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る