百五十四話 違法行為の発覚
冒険者のお姉さんの故郷の事を報告しようと思ったら、宰相の方から話があった。
それは王城で辺境伯様と話をする事になった時の事だった。
因みに、リズとスラちゃんは他の人と共に勉強中です。
「先ずは共和国関連だが、副代表は共和国に着いて調査部門に拘束されたという。しかしながら処罰が決まった訳ではないので、引き続き警戒をする事になる」
「畏まりました」
まだ副代表の処分が決っているわけではないので安心はできないけど、取り敢えず共和国関連の事は落ち着いたのかな。
「後はベストール侯爵関連の事だ。直近ではこちらの方が頭が痛いぞ」
「宰相閣下、何かあったのですか?」
「簡単に言うと、罰金の補填に重税を住民に課して離散者が多いのだ」
「アレク君、我が領にも最近他の領地からの流入者が増えている。好景気というのもあるが、ベストール侯爵一派の所から逃げてきてきた人もいるのだ」
「あれ? 冒険者のお姉さんも村から街に出てきたと言っていました。物流もまわってないと言っていましたよ」
「ああ、正にこの事だ。当主交代もあって、統治がうまくいっていないみたいだな。既にいくつかの領地には、調査官を派遣している」
宰相も辺境伯様も、だいぶ悩んでいる表情をしている。
その領地の問題なので下手に口出しはできないけど、何とかなって欲しいなあ。
「奴らは、貴族は贅沢して当たり前という考えがあるからな。調査結果次第では、統治不可ということで領地を取り上げて優秀な法衣貴族に領地を割り当てる事も検討しなければならない」
「場合によってはという事で宰相は言っておるが、その冒険者の故郷は領地取り上げの公算が高いな。国からその領地へ調査依頼を受けていたのだが、長年税金の過小報告に法定以上の重税を課していたのだよ」
「不正があるとなると、どうしようもないですね。住民を蔑ろにするのは貴族の義務ではないですし」
「アレク君の言う通りだな」
「アレク君が成人なら、直ぐにその領地の当主にするのだがのう」
「それは勘弁してください……」
宰相と辺境伯様の僕を見る目が本気に思えたよ。
とはいえ、早めに何とかしてほしいな。
だけど、僕もその騒動の一端を目にする事に。
その日は屋敷で勉強する日なので、朝早めに魔法の訓練をしていた。
兵と共に何人かの冒険者も一緒に訓練していて、あのお姉さん達も今日は一緒に行っていた。
訓練も終わって皆で談笑していた所、一人の兵が急いで辺境伯様の屋敷に走っていった。
何だろうと思って、僕とリズと一緒に訓練をしていた何人かが様子を見に行くことに。
「恐らく隣の領地の村から逃げてきたと思わしき親子が、馬車の中で倒れて動けません」
「それは良くないな。おっと、アレク君とリズちゃんもいたのか。申し訳ないが、馬車広場まで向かってくれないか?」
「分かりました。直ぐに向かいます」
「大変だよ、直ぐに助けないと!」
「私達も一緒に向かいます」
兵と冒険者と共に報告のあった馬車広場に向かう。
すると、道の端に寝かされている母親と思わしき女性と僕とリズよりも小さい子どもが二人いた。
「あ、アレク君とリズちゃん。こっちだよ、こっち」
商店街のおばちゃんも僕達を見つけて声をかけてきた。
急いで三人の容態を確認すると、栄養不足と疲労で病気になっている。
あまり状態は良くなさそうだ。
すると、冒険者のお姉さんが女性を指差してびっくりしていた。
「あ、この人は隣村の人です。夫もいたはずですが」
「でも、見当たらないですね。いずれにせよ治療を行わないと」
「お兄ちゃん、準備できたよ」
先ずはリズとの合体魔法で母親を治療していく。
その間に、スラちゃんが子ども二人の治療をする。
生活魔法で、体も綺麗にしていく。
「僕の屋敷にベッドが二つある客室があるので、そこに運びましょう」
「「はっ」」
兵が担架を準備している間に、別の兵が僕の屋敷に向かっていった。
馬車の人に話を聞くと、やはり問題のある領地から出てきたという。
運賃が不足していたので詳しく話を聞いていたら、急に倒れてしまったらしい。
とりあえず不足分の運賃は僕が立て替えて、馬車の中も念の為に生活魔法で綺麗にしておいた。
「お兄ちゃん、この人達大変な目にあったんだね」
「そうだね。目を覚ましたら、話を聞かないと」
僕達も話をしながら屋敷に戻る事に。
冒険者のお姉さんは依頼があるので、夕方にまた顔を出してくれる事になった。
担架が屋敷に着いて、ぼろぼろの服を着替えさせてからベッドに寝かせてあげた。
「特にお母さんの方は痩せてますね。食糧事情が良くないんだと思います」
「有難うございます。暫くはお粥とかのお腹に優しいものがいいですね」
侍従のお姉さんが着替えさせた時の様子を教えてくれたけど、自分の食べる分を子どもに分け与えていたんだ。
それでもとうとう限界がきて、辺境伯領に逃げてきたんだ。
そんな事を思いつつ、今日の勉強を進めていく。
昼食にしようとした所、あの母子が目を覚ましたと連絡があった。
だいぶお腹が空いていたらしいので、先にご飯にしてもらった。
その間に、辺境伯様とジェイド様を呼びに行って貰った。
「こんにちは、部屋に入りますよ」
「あ、はい」
部屋の中に入ると、女性が椅子の上に座っていた。
子ども達は、お腹がいっぱいになったのかまたベッドで寝ていた。
「倒れた所を助けて頂き有難うございます。辺境伯領に来れば何とかなると思いまして。王族の方もいらっしゃるとお聞きしたので、故郷の現状を何とか伝えようとここに参りました」
女性は僕達にペコリとお辞儀しながらお礼を言っていた。
やはり、故郷の現状をどうにかしたい思いがあったのだろう。
僕達は、女性の対面の椅子に座り話し始めた。
「まず自己紹介を行おう。私はこの辺境伯領を預かっているホーエンハイム辺境伯だ。そして横にいるのが嫡男のジェイド。一番端に座っているのがアレク殿下、先ほど言っていた王族で、あなた達を治療し保護したのもアレク殿下だ」
「領主様に嫡男様に殿下ですか。これは失礼をしました」
「頭を上げてください。あなたは何も失礼な事をしていないし、逆に王国に仕える貴族として私があなたに謝らなければならないのだ」
女性は、入ってきたのがまさか自分の探していた人物だと知らずにびっくりしていた。
しかし、そこは辺境伯様。
大物の余裕で、この場を取りなしていた。
「実は、あなたの隣の村から辺境伯領にきた冒険者がいて、事情を少し伺っています。お辛いかもしれませんが、現状をお話し頂けますか」
「はい。最近故郷の周辺の村々は物資が中々届かず、貧困の一途を辿っております。そんな中、冒険者としてあの子達が仕送りをしてくれていますので、何とか肩を寄せ合って生きていけました」
この辺は冒険者のお姉さんから聞いた話と一緒だ。
稼いだお金から、必要なものを除いて殆どを仕送りしているらしい。
だけど、それだけじゃ限界もあるよな。
「ところが、新しい領主様になって急に屋敷の改築をすると言い出しまして。村の男が人夫として借り出されてしまいました。しかも今まで出ていた人夫代も、殆ど出ておりません。そんな中、夫が事故で亡くなったと連絡がありました。その為に、生活していく術がなくなってしまったのです」
「それで、辺境伯領にきた訳だな。辛いところ、良く話してくれた」
女性は嗚咽が止まらなくなったのか、ずっと泣いている。
溜め込んでいたものが一気に溢れ出たのだろう。
侍従のお姉さんが、女性の肩を抱いて慰めていた。
「辺境伯様、疑問があります。確か領地にある領主邸は、軍事利用を防ぐ為に国に工事の申請が必要ですよね?」
「簡単な工事以外は、全て申請が必要だ。しかも重税を取ってその上で人夫まで出す工事をするなんて考えられないぞ。ジェイドよ、これが領地経営に失敗した所の末路だ。こんなに住民が困窮するなんてありえないぞ。自分が領地経営をする際に、こうならない様に十分戒めるのだぞ」
「はい、父上。心に刻み込みます」
ある意味とっても悪い領地経営の例を間近で見る事になってしまった。
ジェイド様は人格者でとってもいい人だけど、こういう例を見るのは将来の役に立つだろう。
「あなたの申し出は、この辺境伯が聞き入れた。先ずはしっかりと体を休める事が先決だ。アレク君、悪いが今直ぐ王城に向かうぞ。ジェイドも勉強の為だと思って着いてくる様に」
「分かりました、直ぐに準備します」
「僕も急いで準備します」
「有難う御座います。宜しくお願いします」
女性には再びベッドに寝てもらい休んで貰った。
その間に、僕達は準備をして王城にゲートを繋いで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます