百四十六話 ケイリさんの結婚式

 お昼近くになると、沢山の来賓が皇城にやってきた。

 その中には、顔見知りになった帝国の人もいた。

 先ずは今日の主役の一人、シェジェク伯爵。

 

「お久しぶりです。今日はおめでとうございます」

「お久しぶりで御座います。アレク殿下とリズ殿下がいなければ、娘は陛下に嫁げなかったでしょう」

「いえいえ、それはケイリさんの力によるものが大きいです」

「そういって頂けると。後程ゆっくりお話しましょう」


 シェジェク伯爵夫妻は、ケイリさんがいる控室に向かっていった。

 娘の花嫁姿を見に行くらしい。

 旦那さんを引っ張って奥に消えていった。

 次に現れたのは、グランド辺境伯。

 僕にジャンク公爵の事を教えてくれた人だ。


「グラント辺境伯様、お久しぶりです」

「アレク殿下、お久しぶりです。帝国の不祥事で色々とご迷惑をおかけしました」

「辺境伯様からの情報がとても役に立ちました。今日は楽しみたいと思います」

「そうですね。では、後程」


 他にもエバンス伯爵やユバール男爵もいたので、軽く挨拶をしておいた。

 そこに、ケイリさんの控室に行って花嫁姿を見ていたリズとエレノアとリルムがやってきた。


「ケイリさん、もうすぐ来るよ」

「とっても綺麗だったの」

「結婚式楽しみ」

「じゃあ、皆で教会に向かおうか?」

「「「うん!」」」


 リズ達と共に教会に向かうと、既に受付を済ませた来賓が席に並んでいた。

 僕達も指定の席についた。

 念の為にざっと周りを見回すと、特に怪しい人はいなさそうだ。


「それでは、新郎の入場です」


 司会のアナウンスにより、教会の扉が開いて皇帝陛下が中に入ってきた。

 白を基調とした衣装で、何だか少し緊張気味だ。

 祭壇の前に立ったけど、どことなくそわそわしている。

 しかし、相手は皇帝陛下なので誰も何も言えない。

 というか、微笑んでいる皇妃様の様に珍しいものがみれたってニマニマした表情だ。

 しかし、そんな皇帝陛下に対して物申す強者が一人。


「お父様、緊張している?」

「「「ぶふぉ」」」


 リルムは緊張している父親が珍しいのか、皇帝陛下に直球を投げ込んできた。

 思わず、会場のあちらこちらから吹き出す声が聞こえた。

 皇妃様は、仕方ないねって感じでリルムに話しかけた。


「ほら、お父様はこれから大事な儀式を行うのですよ。緊張しても仕方ないのよ」

「わかったー!」


 リルムののんきなやり取りで場の空気がほころんだ所で、いよいよ新婦入場です。


「お待たせしました、新婦の入場です。皆様拍手でお迎えください」


 皆が拍手する中、新婦のケイリさんが入場してきた。

 今回はケイリさんの希望で、ケイリさんのお父さんとお母さんであるシェジェク伯爵と一緒に入場していた。

 ケイリさんは、豪華なウエディングドレスに身を包んでいて両サイドのケイリさんの両親は両方とも号泣している。

 バージンロードの真ん中で皇帝陛下がケイリさんの両親よりケイリさんを受け取って、共に祭壇の前に。

 神父役の司教様の前に皇帝陛下とケイリさんが並び立った。


「汝、ダンカーク・テラ・アダントは、ケイリ・フォン・シェジェクを妻とし、終生愛す事を誓いますか?」

「誓います」

「ケイリ・フォン・シェジェクは、ダンカーク・テラ・アダンを夫とし、終生愛す事を誓いますか?」

「はい、誓います」


 神前でそれぞれ誓いの言葉を言ったのち、指輪の交換を行った。

 

「それでは誓いの口づけを」


 皇帝陛下はケイリさんのベールをまくり、見つめあってから誓いの口づけをした。

 多くの人が祝福の拍手を送っている。

 勿論、リルムも二人に向けて一生懸命に拍手をしている。


「今、ここに新たな夫婦が誕生しました。今一度盛大な拍手を」


 そして、司教様からの言葉に促されて、更に大きな拍手が沸き起こった。

 その中を、皇帝陛下とケイリさんが退場していく。

 

「はあ、ケイリさん綺麗だったね」

「うん、とっても綺麗だったよ」

「ケイリお母さん、とっても喜んでいたよ」


 皆でわらわらと教会から出るが、イベントはまだ終わらない。

 そう、ブーケトスがあるからだ。

 前世でもブーケトスは未婚の女性による骨肉の争いになると聞いていたが、この世界でもそれは変わらない様だ。

 教会の出口でケイリさんがブーケを投げるスタンバイをすると、もう慣れているのか未婚の女性達はそれぞれのポジションを取り始めた。

 

「お兄ちゃん、何だか怖いよう」

「凄い迫力だよ」

「うう、ブーケがボロボロになっちゃうよ」


 うん、僕も分かるよ。

 ブーケを狙う女性の気迫が物凄くて、僕達だけでなく男性陣もじりじりと距離を取り始めている。

 リズ達は、僕にぴったりとくっ付いている。

 そんな中、いよいよブーケトスが始まる。

 更に女性陣の気迫が高まり、リズ達は更に僕にぎゅっとくっ付いてきた。


「それではブーケトスを始めます。どうぞ!」


 司会の合図でケイリさんがブーケを投げた。


「ちょっと、どきなさいよ」

「私が取るのよ」

「押さないでよ」


 ブーケが投げ込まれた一角は、とんでもない騒乱となっている。

 そして、一人の令嬢がブーケを持った右手を高々と掲げていた。

 勿論、ブーケはかなりボロボロになっている。

 あまりの必死具合に、僕達と男性陣はドン引きしてしまった。


「ではこれから披露宴となりますので、皆様会場まで移動して下さい」


 司会のアナウンスで、僕達はぞろぞろと移動を始めた。

 僕達の後ろには、ブーケをゲットした令嬢のハイテンションな姿と、それを恨めしく見る敗者の姿があった。

 あの、ハンカチを咥えて泣くほど悔しいものなのかな......

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