百四十五話 とんだ茶番劇

 皇帝陛下とケイリさんの結婚式当日。

 今日の結婚式は皇城内の教会で結婚式を挙げた後、披露宴が開かれる事になる。

 事前の話通りに、午前中はリズとエレノアがレイナさんとカミラさんと共に会場のチェックに入る。

 スラちゃんも昨日の副代表の件を知っているので、気合を入れてチェックするそうだ。

 プリンもリルムの護衛に付いています。

 と言っても、リルムの頭の上に乗って寝ているだけですが。

 

「お兄ちゃんも早く早く」

「こっちだよ」

「分かったから、手を引っ張らないで」


 僕はというと、リズとエレノアの会場チェックにつきあわされる事に。

 レイナさんとカミラさんに、帝国の騎士もついています。

 とはいえ、皇帝陛下とケイリさんの結婚式だ。

 来賓の動線は限定されるし、既に兵によって現場は厳重にチェックされている。

 

「うわあ、綺麗!」

「凄いね!」


 教会内に入ると、見事なステンドグラスの装飾がされていて、教会のシスターが準備に動いている。

 この中も騎士によって厳重に警備されているので、特に怪しいものはない。


 続いて案内されたのは、披露宴会場。

 今回は帝国内の多くの貴族や官僚が参加するので、席数もとても多い。

 ここもこの前のエレノアの誕生日パーティの様に食器に毒が含まれていないか、念入りに皆で確認した。


「うーん、何もないねえ」

「侍従も普通の人だよ」

「そりゃそうだろう。ここは特に兵によって厳重に警備されているのだから」


 何だか僕達は、悪いものをひたすら探している様にしか見えないぞ。

 スラちゃんなんて、床に這いつくばって何かないか探している。

 その光景に、レイナさんとカミラさんは思わず苦笑しているよ。


 最後に見に来たのは厨房。

 既に来賓に出す料理を作るのに、厨房は大忙しだ。

 ここも兵が監視しているし、特に作られているものにも問題はない。

 そう思っていたら、リズとエレノアとスラちゃんがここにあってはならない物を見つけてしまった。


「お兄ちゃん、あったよ!」

「このジュースに何か入っている!」


 リズとエレノアとスラちゃんが、まるで戦利品の様にジュースの入った瓶を指さしている。

 急いで鑑定をしてみると、瓶の中からはお腹が痛くなる成分が含まれていた。


「レイナさん、カミラさん、騎士の人も。腹痛をおこす物が含まれています」

「まさか本当に見つかるとは」

「おや? これのジュースは共和国産って書いてあるぞ」


 何だかとってもきな臭くなったので、別の人が鑑定を進めている間に厨房の責任者に話を聞いてみた。

 

「このジュースは、共和国より結婚式の祝いとして提供されたものです。お子様に是非ともと勧められたものですね」

「このジュース。木箱に入っている物全てに腹痛を起こす薬が入っています」

「この品物は厳重に管理しておりますので、少なくとも皇城に運び込まれてからは一切手をつけておりません」

「瓶のコルクにも、何かを入れた跡はないね」

「最初から混入されていた可能性が高いですね」

「僕もそう思います」


 カミラさんとレイナさんと僕の意見が一致した。

 全部のジュースに薬物が混入しているのは、どう考えてもとても怪しすぎる。

 そう思ったら、リズとエレノアとスラちゃんが更に何かを発見したようだ。


「このお酒にも何か入っているよ!」

「多分別の薬だよ」


 リズとエレノアは、ジュースの横に置かれていたワイン瓶を指さしている。

 スラちゃんもかなり怪しいと見ている様だ。


「このワインには酩酊する薬が入っています。かなり泥酔してしまうかと」

「子どもがお腹壊して、大人は泥酔と」

「平気なのは共和国の人間だけ。考えたくないですが、イタズラ目的も考えられますね」

「「いやー!」」


 リズとエレノアとスラちゃんは、あの副代表の事を思い出した様だ。

 とてもじゃないけど、まともな事にはならなそうだぞ。


「軍の鑑定でも同じ結果になりました。皇帝陛下が急ぎ来てほしいと言っております」

「今のうちに色々見つかって良かったということかな」

「とはいえ、これは国際問題になりかねないですか?」

「既に国際問題だよ。さて、あのデブハゲはどう動くか」


 皆で急いで皇帝陛下の元に行きながら話をするけど、多くの来賓がいる中で提供される物ではないよな。

 呼ばれた部屋に向かうと、皇帝陛下に国王陛下と教皇国の使者が、冷たい目で共和国の副代表と閣僚を見ていた。

 共和国の閣僚はこの事を知らないみたいだが、表情から察するに副代表は何かを知っているみたいだぞ。


「おお、アレクか。ご苦労だったな」

「まさかの結果でした。子ども向けのジュースの他にワインにも酩酊する物が混入してました。しかも全ての瓶です。コルクや瓶に穴はありませんでした。軍の鑑定も同一結果です」

「うむ、ご苦労だった。アレク殿下」


 僕の報告が終わると、皇帝陛下が更に威圧のある目で共和国の副代表を睨みつけた。

 共和国の副代表はハゲ頭を含めて汗だくだくで、顔色も悪いぞ。


「さて、先日共和国にて同じ様な結婚式の際に、大人は酩酊し子どもは腹痛を起こした事件があったそうだな。その時に幼い子どもが男女問わず乱暴もされたとか。だいぶ大きな事件なので、我が国にも伝わっておる。なあ、副代表」

「は、い、いえ、確かに大きな事件でした。それがいかがなされましたか?」

「ふむ、これ以上は言わぬ事にしよう。しかし、我が国へ贈られた婚姻祝いに毒物が混じっていたのは動かざる事実だ」

「そ、それに、ついては、お詫びのしようもなく」


 もう何だか、茶番劇を見ている気がする。

 本当にこの副代表はクズだったんだ。

 リズもエレノアも、僕にピタリとくっついて副代表を睨んでいた。


「何れにせよ、そなたらをここに留めておく事はできん。皇帝の名で共和国に厳重に抗議し、そなたらを国外追放とする。直ちに支度せよ」

「くっ」

「副代表、帰国次第、即刻懲罰委員会を開催する」

「皇帝陛下、この度の不祥事誠に申し訳ない。追って処分結果を報告致します」

「うむ、以降はそちらに任せる」

「「はっ」」


 閣僚は本当にこの事を知らなかったようで、非難の目で副代表を睨みつけていた。

 そして、直ぐに副代表は拘束され連れて行かれた。

 

「くそ、ガキが。少しくらい頭が良いからって調子に乗るなよ!」


 何故か僕に捨て台詞を吐いて、副代表はドアの向こうに消えていった。


「アレク殿下、本当に今回の事は感謝する」

「余からも礼を言おう。アレク、助かったぞ」

「しかし、これで共和国が各国に攻めてくる可能性もありますよね?」

「共和国と国境を接しているのは、王国と教皇国だ。直ぐに王城に連絡をとろう」

「教皇国にも直ぐに情報を流します。共和国に戻る為には、教皇国を通らないといけませんので」

「勿論、帝国も警備を強化する。結婚式に何かを仕出かす可能性もあるからな」


 権力と欲望にまみれた人だけに、今後何をしてくるか全く分からない。

 色々な事に対して警戒をしないと。

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