百四十話 帝国との会談

「皆様、会談の準備が出来ました」

「おっと、そんな時間か」


 係の人から案内があったので、皇帝陛下と国王陛下に外務卿と商務卿が立ち上がった。

 僕も立ち上がったら、途端にリズとエレノアが渋い顔をしてきた。

 二人の様子が変わった事に、皇妃様が気がついたみたいだ。


「あら、二人とも渋い顔をしてどうしたの?」

「お兄ちゃんが偉い人と会っている間、リズとエレノアは勉強って言われたの」

「問題いっぱい用意してあるの」


 おい、そこまでテンション下がるのかよ。

 この世の終わりみたいな表情をしているぞ。


「確かにアレク君だけ大変な思いをする事になるからね。じゃあリルムも、リズちゃんやエレノアちゃんに負けないように絵本を読む練習を一緒にしましょうね」

「えっ!」


 皇妃様のまさかの提案により、リルムも一緒に勉強する事に。

 リルムは、そんなの聞いていないよって顔になっているぞ。

 そして、アリア様と皇妃様とカミラさんによって、リズとエレノアとリルムはどこかの部屋にドナドナされた。


「さて、我々もキチンとやらんとな」

「お互い、娘に何を言われるか分かりませんな」


 皇帝陛下と国王陛下が、連れて行かれた娘を見てしみじみと呟いている。

 さて、僕達は話し合いをキチンとしないとリズとエレノアに怒られてしまう。

 係の人の案内で、防音対策バッチリの部屋を案内された。


「先ずは、改めて国王陛下には先の闇ギルド扇動の連絡、及びアレク殿下を遣わして頂き帝国の悪しきものを討ち取って頂き感謝します」


 皇帝陛下が改めて感謝の意を示して、会談がスタートした。


「会談に先立ち、ジャンク公爵の妹の財産を全て押収しました。こちらがその目録です。ご連絡が遅くなり申し訳ありません」

「いえいえ、大変な中ご対応頂き感謝します。拝見します」


 帝国の外務卿から、僕への賠償金の目録を頂いた。

 頂いたけど、何だか桁が違う様な気がする。

 百億ゴールドってなんですか。

 陛下にも目録を渡したが、目を疑っている。


「申し訳ありません。この金額は正しいものですか?」

「はい。実はこれでも、被害を受けた人の賠償金を支払ってなおこれだけの金額が残っております。公爵家自体では、もっと桁が違う金額を押収しています」


 外務卿がもっと支払われるはずだと謝っていたが、それでもこの金額は多すぎるような。


「分かりました。では、この金額を賠償金として受け取ります。その上で、ジャンク公爵より被害を受けた人の為に、復興支援として九十億ゴールドを寄付致します。私はまだ幼年ですが、流石にこれだけのお金は使いこなせません。でしたら、その分有効活用して頂きたくお願い致します」

「「「おお……」」」


 周りの人からどよめきが起きているけど、僕の気持ちは固い。

 国王陛下の方を向いて頷いた。


「どうやらアレクの気持ちは固い様だ。皇帝陛下、色々と手間を掛けてすまんがアレクの意見の通りに処理を進めてくれ」

「アレク殿下の好意に最大限の感謝を致します。被害者救済の為に役立てて頂きます」


 賠償金の件は、これでおしまい。

 後は色々と会談をする事に。

 各担当で色々な事を話しているが、僕は両方の陛下に捕まっている。


「しかし、闇ギルドが今後どのような動きをしてくるか、見当がつかん」

「帝国も同じです。他の国と情報をすり合わせていますが、最近少し活動がおとなしい様です」

「表立った活動を控えたか、察知されにくい別の行動に出たか悩ましいですね」

「アレクの言うとおりだな。実は別角度で動いているかもしれん」

「意外と市中に堂々と出ている可能性もありますな。しかし、流石はアレク殿下だ」

「いえ、僕はあくまでも可能性があると思っただけで」


 何だか両陛下共に、僕の意見をやたらと褒めてくる。

 疑問を言っているだけなんだよな。


「普段怪しまれない格好をしていると、調査も逃れやすいですよね」

「うむ、例えば聖職者や騎士とかは調査し難いだろう。そういえば、辺境伯を襲った襲撃者は騎士に化けて堂々と近づいたな。侍従に化けて王城に立ち入った者もいた」

「実例が既にあるとなると、我々も注意しないとならぬな。そういう意味では、今度の結婚式も注意をせねばならぬ」

「しかし、アレク殿下は実戦もされているだけあって、意見が的確だ」

「我が国では救国の天使と言われておるが、更に救う国を増やしそうだ」


 あれえ?

 いつの間にか、両国の閣僚にも囲まれているぞ。

 実体験を元に喋っているだけで、そこまでの事は話してないんだけど。

 あ、これは提案してみよう。


「皇帝陛下、もし可能でしたら妹のリズを結婚式前の会場の調査にあたらせる事ができますが如何でしょうか?」

「ふむ、それならエレノアとレイナとカミラも参加できれば有り難い。商務卿の娘レイナと宰相の孫娘カミラは、我々のサポートでもありAランク冒険者だ」

「リズ殿下とエレノア王女にアレク殿下が連れているスライムは、既に余が毒に侵された際に活躍しておる。帝国からも人員を出そう。名目は、結婚式会場の事前視察でも良いだろう」

「提案を受けて頂き有難う御座います。私から皆にも説明します」

「うむ、しかし王国はアレク殿下だけでなく将来有望な人材が揃っておる。ルーカス王子もルーシー王女も中々の者だ。帝国も早く次世代に向けて人員を揃えないとならないな」


 リズとエレノアも勉強ばかりでは大変だから、少し体を動かしてみてもいいかな。


 会談が終わって皆で昼食になったので、食堂に向かう。

 すると、リズとエレノアに加えてリルムも燃え尽きた様に席に座っていた。

 二人はカミラさん監視で、書き取り問題を沢山やったんだ。

 今度リルムの為に、絵本も用意してあげよう。


「リズにエレノアよ。明後日の結婚式の前に、会場を軽く見回って貰おう。エレノアの誕生日パーティの様に、不審物や不審者がいないかリズやエレノアの視点で見てもらおう」

「リズにお任せだよ! 結婚式を邪魔する人は、リズが捕まえるんだ」

「悪い人はやっつけないと」


 暴れられる機会が与えられたので、リズとエレノアはあっという間にやる気満々の表情に変わった。


「名目上は結婚式会場の事前視察だ。レイナとカミラも、自分の結婚式の参考にするが良い」

「えっと、流石に帝国皇帝陛下の結婚式は凄すぎて、参考にしづらいかと」

「その代わり、結婚式を台無しにする奴がいないか、キッチリと確認します」


 レイナさんの言うとおりに、皇帝陛下の結婚式はちょっと参考にしづらいかも。

 だけど、自身も近々結婚式を挙げる身として、何か起こされないように気合が入っていた。

 そんな中、リルムが皇帝陛下の袖をちょいちょいと引っ張っている。


「お父様、リルムは?」

「リルムは、皇妃とケイリの側にいてやってくれ。ボディーガードだな」

「分かった! リルムはお母様とケイリお母さんを守るよ」


 リルムも役割を与えられて、ガッツポーズをしている。

 リルムには、念の為にプリンも渡しておこう。

 

 昼食後は、僕は会談の疲れでリズ達は勉強疲れでお昼寝タイムに。

 アリア様の部屋のベットを借りて、直ぐに寝てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る