百三十九話 帝国へ出発

 皇帝陛下とケイリさんの結婚式の為に帝国に向かう日の朝。

 王城に向かうと、予想外の人達が僕とリズの事を待っていた。


「ジンさんにレイナさん。どうしたんですか? カミラさんはまた宰相からご指名ですか?」

「私は、カミラと一緒にアレク君とリズちゃんの護衛ね。後は、今回父も帝国にいくからその補助も兼ねているの」

「アレク君の予想通りに、またおじいちゃんからの指名よ。今回は各国から出せる人数制限の関係で、ルリアンとナンシーは王国にいるわ」


 あれ?

 レイナさんの父親って公爵だったはず。

 一体誰だろうと思ったら、陛下が何人かの閣僚を連れてきた。

 外務卿と商務卿だけと、レイナさんの父親ってまさか。


「こうした形で会うのは初めてだな。レイナの父親のベリー公爵だ」

「商務卿がレイナさんのお父様だったんですね。リズ共々、いつもレイナさんにお世話になっています」

「君達が王族になる前から、レイナから二人の事は聞いていたんだ。辺境伯領に物凄い男の子と女の子がいるって。まさか、それがアレク殿下とリズ殿下だったとはな」


 商務卿は恰幅のいい、けれど知的な感じもする貴族だ。

 レイナさんとジンさんの結婚を認めた人でもあるんだ。

 優しい雰囲気は、何となくレイナさんに似ている。


「あれ? それじゃジンさんとルリアンさんとナンシーさんは、何でここにいるんですか?」

「その答えは私が教えましょう」

「あ、おばあちゃんだ」


 現れたのはティナおばあさまだった。

 ジンさんとは知り合いだったけど、何でジンさんとルリアンさんとナンシーさんが残る事を知っているんだろうか。


「ルリアンとナンシーがここにいる理由は簡単よ。王城に残るルーカスとルーシーの家庭教師よ。実績もあるし何も問題ないわ。ジンも王城でマナー講座よ。結婚も近いし、仮にも名誉貴族なんだからマナー位覚えないと」

「俺、そこそこ偉い人には会ったから、最低限のマナーはできていると思うよ……」

「こういう感じだし、良い機会だからキッチリとやらないと。ルーカスとルーシーも参加させるよ」


 哀れジンさん。

 ティナおばあさまが楽しげに話しているけど、あの目は良いおもちゃを見つけたと言う目だ。

 僕達が帰ってくるまでの間、キッチリとマナー講座が行われそうだ。

 それが分かっているのか、ジンさんのテンションが異常に低いぞ。

 ルーカスお兄様にルーシーお姉様も、四日間がっつり勉強か。

 そして、アリア様とエレノアが現れて追撃が入った。

 

「エレノアとリズちゃんも、アレク君が会談行っている間はカミラに勉強を見てもらうわよ」

「「えー! 何で!」」

「当たり前だよ。アレク君は会談に出る訳だし、ルーカス殿下とルーシー殿下も勉強するんだよ。問題も作ってあるわ」

「「テストいやー!」」


 リズとエレノアは、カミラさんがひらひらと見せたテストを見て、顔を真っ青にしている。

 この間の書き取りテストが、二人にはだいぶ堪えた様だ。


 ここで全員の準備が完了し護衛の近衛騎士と侍従も揃ったので、帝国に向けてゲートを繋ぐ。

 リズとエレノアは未だにテンションが低いけど、帝国にいってリルムと会えば復活するでしょう。

 という事で、皆で帝国に向かいます。

 今回は最初から宿泊した部屋の前という指定が入っていた。


「アレク殿下の魔法は物凄いな。一瞬で帝国に着いてしまったぞ」

「改めて、アレク君はとんでもないと理解したよ……」


 初めて僕のゲートを使った商務卿とレイナさんは、何だか僕の事を変人だと視線を向けてくる。

 帝国に着くと、直ぐに係の者が出迎えてくれた。

 今回もこの一帯の部屋が僕達の宿泊先となるらしい。

 早速侍従が部屋の用意を始めていた。

 僕達は、そのまま係の人に皇城の応接室に案内してもらった。

 応接室には、皇帝陛下とお腹がだいぶ大きくなった皇妃様に、ケイリさんとリルムが待っていた。

 リズとエレノアは、ソファーから駆け出したリルムと抱き合って再会を喜んでいる。


「皇帝陛下、久しいのう」

「国王陛下におかれても、元気そうでなりよりだ」


 皇帝陛下と国王陛下がガッチリと握手している。

 皇帝陛下も、だいぶ筋肉が戻ってきて体調も良さそうだ。


「ケイリ、結婚おめでとう。義姉様、お体は問題ありませんか?」

「有難う御座います、アリア様」

「安定期に入りましたので、最近は食欲が止まらず少し気をつけていますわ」


 妃同士で話をしているが、専ら皇妃様のお腹の子の話で、そこにリズ達も加わってきた。

 スラちゃんも混じって、皇妃様のお腹を皆で撫でていた。


「うわあ、お腹おっきくなっている」

「凄いね。赤ちゃんが入っているんだ」

「リルムお姉ちゃんになるの!」

「そうなんだ。弟と妹が生まれるから、楽しみだね」

「うん、楽しみ」


 おや?

 ほのぼのとした雰囲気の中で、聞き逃がせないのがあったぞ。

 リズが双子が生まれると言ってきた。

 大人達も、思わずリズの方を見たぞ。

 おや、鑑定を使うと確かにお腹の中には双子がいるぞ。

 しかも、リズの言った通りに男女だ。

 

「皇妃様、双子を妊娠している事は知っていました?」

「ええ、リルムの時よりもお腹が大きいですし、胎動も二つ感じますわ」

「確かにリズの言うとおり双子を妊娠されております。しかも、男女の様です」

「まあ、でも出産した時のお楽しみにしておきましょう。先ずは無事に生まれる事を祈りましょう」


 あら、皇妃様はあっけらかんと話している。

 リルムを出産しているから、双子でも動じてない様だ。

 でも、応接室の空気がかなり柔らかくなった。

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