百三十五話 学園見学

 何だかんだで冬の間も色々とあったが、段々と春に近づき忙しくなった。

 先ずはエマさんにオリビアさんの王都学園の入園がある。

 既に制服とかも用意が済んであり、武器屋の親方に頼んでいた学園用の剣も出来上がった。

 遠い所に住んでいる人の為に寮もあるらしいが、辺境伯様の王都の屋敷があるのでそこから通う予定だ。

 今日は学園への下見を行うというので、イザベラ様とエマさんとオリビアさんと共に先ずは王都の屋敷にゲートを繋ぐ。

 ちなみに学園の下見の時にはその家族の子どもがついてくるという事がよくあるらしいので、僕とリズも一緒について行って何も問題はないという。

 

「やあ、待っていたよ。じゃあ、早速行こうか」


 王都の屋敷で待っていたのは次男のマイク様。

 実は春から学園の生徒会長になるらしい。

 

「学年の中で、一番爵位が高い者が生徒会長になる伝統があるんだよ。まあ、実力がなくて選ばれないのもいるぞ」

「そんなルールがあるんですね。マイク様はすんなりと決まったんですか?」

「去年の夏までは分からなかったんだよ。ベストール侯爵の息子が同級生にいるんだよ。爵位の格だと侯爵と辺境伯は同列だから。まあ、知っての通り実家の悪事がバレて生徒会長どころじゃなくなったけどね」

「仕方ないですよね。あれだけ派手に事件起こしたんでは」


 王都の屋敷から学園までは近いので、マイク様は歩きで通っていたそうだ。

 貴族の中には、毎日馬車で通学している人もいるという。

 道中マイク様と生徒会長選出の経緯について聞いたけど、ここでもベストール侯爵が暗躍していたのかよ。

 そして、マイク様から僕にある情報が入った。


「ちなみに、王族は強制的に生徒会に入るよ。アレク君もリズちゃんもエレノア王女も皆だね。生徒会長も三人の内の誰かで確定だ。候補が王族だから、他の貴族と揉める要素もないな」

「あの、僕の方を向いてにこやかに言われても。実際にその時にならないと分からないですよ」


 未来の事なんてまだ分からないと言って、僕は話を切り上げた。

 そして歩く事十分。目の前に大きな学校が現れた。


「わあ、とっても大きいね」

「そうだろう。貴族の他にも官僚の息子や有力商人の息子も通うからね。平民で特待生として入る子もいるよ。だから、意外と生徒数が多いんだよ」


 一学年で二百人以上はいるらしい。

 ここで十二歳、十三歳、十四歳、十五歳の四学年が通うらしい。

 そりゃ校舎も体育館も大きいはずだ。

 リズもスラちゃんも、思わず声にするくらいびっくりの広さだ。

 ちなみに、プリンは僕のフードの中で眠っています。


「校舎は基礎授業を行う教室と、専門科目を勉強する教室の二つに分かれている。体育館はスポーツの他に、剣術や魔法を行うためのスペースもあるよ」

「試験の時に来ましたけど、改めてみると大きいですね」

「クラスメイトも沢山できたらいいな」


 先ずはという事で、普通授業が行われる学校を案内中。

 今は春休みで、僕達の様に見学している人しか学園にはいないそうだ。

 何というか、前世の学校そのままだな。

 机と椅子と黒板があって、ちょっと懐かしいなあ。


「エマとオリビアは共にAクラスだ。エマとオリビアの学年は、うち以上の爵位はいないよ」

「とはいえ、ベストール侯爵一派の所の男子がいるのは分かっていますから」

「たとえクラスが違っても、十分気を付けますわ」


 教室に並んだ机を眺めながら、新しいクラスの事で少し話をしていた。

 ベストール侯爵一派がいるとなるとちょっと不安な気もするけど、エマさんとオリビアさんならきっと大丈夫だと思う。


「今日は体育館は見せられないんだ。もう入園式の準備が始まっているのでね。僕が所属している生徒会を案内するよ」


 体育館が見れなくなって、リズとスラちゃんは明らかにテンションが落ちている。

 きっと、剣技や魔法を試したいと思っているのだろう。

 でも生徒会に誘うって事は、もしかしてマイク様はエマさんとオリビアさんを生徒会に誘うつもりなのでは?


「皆、お待たせ」

「会長、遅いですよ。わあ、会長のお母様に、例の殿下達もいる」

「小さくて可愛いわ」


 マイク様に案内されたのは、教室棟の一番上にある生徒会室。

 中に入ると、生徒会の役員と思われる人も何人かいた。

 気のせいか、中にいる人は全員女性だった。

 事前に僕達が来ると連絡が入っていたのか、直ぐに席に案内された。


「初めまして、エマと申します。いつも兄がお世話になっております」

「オリビアと申します。入園の際には、よろしくお願いします」


 エマさんとオリビアさんが役員の人に挨拶をしている。

 その様子を、役員の人は微笑ましげに見つめていた。


「うんうん、礼儀正しい妹さんね。実は生徒会は会長を除いて女性だらけなの」

「全員婚約者がいるから安心してね。それでも、会長は全く私達に興味ないみたいだけど」

「いや、お遊びで付き合う気はないから。これでも僕は結構真面目なの」

「あ、会長照れている。可愛い!」

「可愛いはよしてくれ」


 恋愛感情はなくても生徒会の仲間同士仲は良さそうだ。

 ここで、イザベラ様も学園の事を教えてくれた。


「学園は勉強をする場でもあるけど、人脈を広げる場でもあるの。また、場合によっては結婚相手を見つける所でもあるのよ。因みにジェイドとソフィアは、生徒会の会長と副会長同士で恋人になったのよ。家格も考えたと思うけど、そういう事もあるのよ」

「へえ、ジェイドお兄ちゃんとソフィアお姉ちゃんって、そんな出会いがあったんだ」

「その話は、生徒会の恋物語って言われているよ。実の兄の話だから、何だかこそばゆくて」


 マイク様は、自分の事を思わず掻いている。

 確かに、身内の恋物語はちょっと恥ずかしいよな。

 対して、生徒会の役員とエマさんとオリビアさんは、女性だけあってキラキラとした目で恋物語を語っていた。


「まあ、僕は置いといて。生徒会に限らず、何かしらの部活に入った方が学園生活は楽しいよ。体験入部の期間もあるから、色々見て回るのもいいね」

「ええ! 会長、妹ちゃんは生徒会に入れないんですか?」

「だって、入試成績の同点トップだったのに」

「だからだよ。成績トップで兄は生徒会長。どうしても、色眼鏡で見られるだろう。だから、少し色々見て回るのも良いだろうって」

「「マイクお兄ちゃん……」」


 エマさんとオリビアさんに向かって、少し照れくさそうに話すマイク様がちょっと新鮮だった。

 まあ、僕の予想ではエマさんとオリビアさんも生徒会に入りそうな気がする。

 そんな子ども達の様子を、イザベラ様が微笑ましく見つめていた。

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